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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 4 父と子、母と子

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 大使館などと大層な名前を付けられてはいるが、実際の所は、少し大きめの邸宅という程度の物である。
 使用人も5人ほどがローテーションで勤務しているが、それもフルタイムというわけではない。さらには、現在のグランボルカの国内事情も相まって、全権大使代行であるリィナ以外には正規の職員もいないという有り様で、ただセロトニア国内で治外法権を持っている個人宅といった感じだ。
「ここに帰ってくるのってもう3年ぶりくらいになるんだよな。月日の経つのは早いよな。」
「そうねえ。あなた達が結婚して出ていってからだから、もう3年になるのよねえ。」
 廊下を歩きながら感慨深そうにつぶやいたレオの言葉に答えたあとで、リィナが続けた。
「それで、私はいつおばあちゃんになれるのかしら。」
「え?・・・ああ・・・いやその・・・。」
「ふふ・・・冗談よ。今は大変な時だし、二人が無事でいてくれるだけで十分。でも全部終わったら、私はレオとソフィアちゃんの赤ちゃんを抱きたいわ。」
 これでもかと言うほどうろたえたレオを見て、リィナはクスクスと笑いながら言った。
「ん・・・まあ、全部終わったらそういうこともある、かもな。」
「え、あるの?えへへ・・・ちょっと嬉しいかも。」
 顔を赤くしてバツが悪そうにつぶやくレオの左腕にソフィアが抱きついた。
「一番上は女の子が育てやすくていいって言うよね。あ、でも男の子もいいなあ。きっとレオくんに似て可愛いと思うよ。ね?レオくんもそう思うよね?」
「可愛いっていうのは、男の子につける形容詞じゃねえ。つか、なんだよ。俺に似て可愛いって。」
「え・・・だって・・・。」
「その言外に『小さくて可愛い』みたいな感情を込めた視線を俺の頭の上から投げかけるのをやめろ!」
「あたっ」
 レオは身をよじって、自分のことを抱きしめていたソフィアの腕を振りほどくと、空いた左手でソフィアの頭をチョップした。
「ほらほら、約束わすれちゃった?喧嘩しないって約束したでしょ。」 
「いやこれは喧嘩っていうか。」
「雷。落としちゃうわよ。」
「わーったよ。もう揉めません。」 
 レオはそう言って手を開いて降参のポーズを取った。
「そう?なら安心して会ってもらえるわね。」
「会うって誰にだよ。さっきルチアおばさんに言っていた『立て込んでる』って話と関係あるのか?」
「・・・ええ。あのね、レオ。驚いたり嫌がったりしないで、出来れば彼の事、お父さんって呼んであげると、きっと喜ぶと思うのだけど・・・。」
「え・・・ええっ?おふくろ、そういう人ができたのか?親父がいるのに?・・・いや、まあそりゃ5年近くも音沙汰なしだし、愛想つかすのも解らなくはないけど、でもやっぱそういうのは・・・なんていうか。一応親父と話してから決めることじゃないか?」
「ふふふ・・・何だかんだ言ってもレオってお父さんの事好きよね。」
「そ、そういうことじゃないだろ。つーか、マジか・・・そりゃまあ確かにそういう話なら一応ソフィアは俺の妻だし連れてこなきゃいけないよな・・・でもなあ・・・。」
「ふふふ・・・まあ、レオなら会ってもらえればきっと仲良くできると思うから。」
 そう言ってリィナがリビングルームの扉に手を掛ける。
「ちょ、ちょっと待て、おふくろ。俺はまだ心の準備が。」
 レオはそう言ってリィナを止めるが、リィナはレオの話など聞かずにドアノブをひねると、ギィと音を立ててリビングルームへの扉を開けた。
「よ。お帰り。」
「あ、ランドールおじさん。」
「え?・・・ええっ?」
 リビングのソファに座って寛ぎながら紅茶を飲んでいたのは、誰でもないレオの実父、ランドール・ハイウィンドだった。
 彼は今やバルタザール派の急先鋒であるはず。その彼が自宅とはいえ、わざわざ別の国のこの家に居るはずがない。だが、次に彼の口から放たれた一言で、レオとソフィアは彼が本物であることを悟った。 
「ふたりとも酷いよなあ。結婚したなら先月会った時にそう言ってくれりゃいいのに。リィナもこの3年間何回も会っているのに、昨日の夜に俺が聞くまで二人が結婚したって話してくれないんだもんよ。」
「だからそれは昨日から何度も謝ってるじゃないですか。もう話したつもりになってたんだから仕方ないでしょう。」
「ま、いいけどさ。で、レオ。」
「なんだよ。」
「もうソフィアちゃんとはヤッたのか?ヤッたよな、さすがに。やっぱすごいのか、やわらかいのか?」
「お前ホント一回死ねよ。」
「こらレオ!父親に向かって死ねとは何だ。」
「そういうことは一つでも父親らしいことしてから言え!」
「父親らしいことならたくさんしてやったろ。各地に女を作る方法とか・・・そういえばこの間アミサガンに行った時にちらっと見たけど、クロエちゃん美人になったよな。アリスちゃんも。」
「関係ねえ方に脱線すんな!」
「関係なくねえだろ。お前昔クロエちゃんに告白したんだし。」
「・・・なに、それ、わたし、しらないよ。」
 いつもは困った顔か笑顔が浮かんでいるはずのソフィアの顔からスっと表情が消え、抑揚の全くない声でソフィアがレオに詰め寄る。
「どういうことレオくん。レオくんクロエちゃんと付き合ってるの?二股かけてるの?だったらクロエちゃんを殺して私も死ぬけど。」
「付き合ってねえよ!ガキの頃ふざけて告白してバッサリ振られただけだ!つかクロちゃん関係ねえだろ。なんで俺と一緒にお前が死ぬんじゃなくてクロちゃんとお前が死ぬんだよ。」
「だってそうしたらレオくんを愛してくれる人はいなくなってレオくんは一生寂しくてみじめな思いをして過ごすことになるでしょ。それがレオくんに対する最大の罰だよ。一人で寂しく年老いていくといいんだよ。」
「なんでだよ、いるよ!他にも俺を愛してくれる人がきっといるよ!」
「いないよ、そんな奇特な人。いるわけないよ。」
 ソフィアはレオを少し小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべると、吐き捨てるようにそう言った。
「即答すんな!つか、なんだよその顔。なんかむかつくんですけど!」
 そこで途中から二人のやり取りを傍観する方に回っていたランドールが膝を叩いて笑い出した。
「はははははは!お前ら二人とも全然変わってなくて安心した。悪かったな。さっきのはちょっとしたジョークだ。忘れてくれ。」
 そう言って笑うランドールの後ろにリィナが立ち、彼の両肩に手を置いた。
「それはそうとあなた。各地に女って、どういうことかしら。そういえば昔、よくレオを連れて出歩いていたけど、その頃のお話なのかしら?」
「え?・・・いや、その。違うんですよ、リィナさん。」
 顔にだらだらと汗をかきながらランドールが弁解する。
「・・・今も?」
「いえ。昔々のことです。今はそんなことしている暇もないですし、今はそりゃあもうリィナさん一筋で・・・」
 バチッっという大きな音と光の後で、ランドールが床に倒れる。
「まあ、今はしてないというなら、このくらいで許してあげます。・・・レオも、ソフィアちゃんを泣かせたり裏切ったら、親子の縁を切りますからね。」
「は・・・はい。わかりました」