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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 4 父と子、母と子

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 アレクシス一行がセロトニアの港に到着したのは、マタイサとアミサガンの戦闘が収束し、ジゼルが救出した公爵夫人と公爵令嬢を連れて得意満面でアミサガンに凱旋した次の日だった。
 セロトニアの港は、ほとんどが石造りのアミサガンとは少し様子の異なる雰囲気の、鉄の金具とセメントが主体の港だった。
 街並みもレンガ造りのアミサガンとは違い、白塗りの壁の建物が多く見える。
 エドがレオに聞いた所によれば、それらの白塗りの建物はモルタル壁の中に鉄骨や鉄筋を組み込むことにより、海風対策で錆びづらく頑強な家を築いているらしい。
 セロトニアは兎にも角にもいたるところに金属の気配のする鉄の国なのである。
 無事に着岸し、シモーヌ号から下ろした舷梯を降りてエド達が桟橋に降り立つと、小柄な金髪の女性が一行を出迎えた。
「おかえりなさい、レオ、ソフィアちゃん。それと、ひさしぶりねアレクシス君。」
「はい。ご無沙汰しています。リィナさん。」
「うう・・・ただいま・・・。」
 アレクシスと、船酔いのせいで顔を青くしたソフィアがレオの母リィナに返事をする。
「あらあら、ソフィアちゃんったらやっぱり船に酔っちゃったのね。でも大丈夫。そう思って私、酔い止めの薬を作ってきたのよ。」
 ソフィアの様子を見たリィナは。素早く懐から丸薬を取り出して水筒と一緒にソフィアに渡す。
「酔い止めだったら、酔う前に飲まなきゃダメだろ・・・。」
 レオがため息混じりにそう言って肩を落とすが、当のソフィアはその丸薬を飲むとすぐに復活した。
「うわ、すごいすごい。さすがだよ。ありがとうリィナおばさん!」
「あらあら水臭い。お義母さんって呼んでちょうだい。」
「あ、そうだった。・・・リィナお義母さん!」
「ソフィアちゃん!」
 二人はお互いを呼び合いながら抱きあうと、ソフィアがリィナを抱き上げてクルクルと回って本当の親子のように再会を喜びあった。
 見た目の構図的には完全にソフィアが親でリィナが子供なのだが。
 しばらくクルクルと回った後、ソフィアがリィナを地面に下ろすと、目の回ったリィナは立っていられずに、地面にぺたんと座り込んでしまった。
「あはは、ソフィアちゃんは相変わらず容赦無いんだからぁ。」
「ごめんなさい。あははは。」
 座り込みこそしないものの、ソフィアの方も目を回してふらふらしながら笑う。
「はぁ・・・。何をやってんだか。」
 レオはそう言ってため息をつきながらふらふらしているソフィアを抱きとめ、座り込んでいるリィナの手を引いて立ち上がらせた。
「エド。置いてきぼりにしちまって悪かったな。このちんちくりんのが、ウチの母親のリィナだ。」
「はじめまして。私、エーデルガルド・プリタ・リシエールと申します。エドと呼んでください。」
「ああ、じゃあ貴女がアレクシス君が探してたお姫様ね。会えて嬉しいわ。私はレオの母でリィナ・ハイウィンドといいます。一応グランボルカの駐セロトニア大使代行をしています。・・・といっても、特に仕事らしい仕事もないし、大使館自体大した規模ではないのだけれど。」
 少しカーラに似た雰囲気の笑いを浮かべながらリィナがエドに握手を求め、エドはすぐにその差し出された手を握りかえした。
「はい。よろしくお願いします。」
「それで・・・本当だったら大使館でもあるうちに泊まってもらうところなんだけど。ちょっと今立て込んでいるものだから。・・・申し訳ないんだけどルチア、アレクシス君とエドちゃんのことお願いしてもいい?」
「いいけど、皇族を迎えることもできないほど立て込んでるってどういう事?」
「ごめんなさい。話せないの。」
 ルチアの質問に、リィナは胸の前で申し訳なさそうに小さく手をあわせた。
「・・・ま、あんたにも色々あるんだろうから別にいいけど。んじゃ、アレクシスとエドはウチな。レオは別に面倒みなくていいんだろ?」
「ええ。レオとソフィアちゃんはウチで大丈夫。」
「え、ソフィアも?」
「ええ。だってソフィアちゃんはもうウチの子だもの。ルチアはアミサガンや船の中でもう十分親子水入らずしたでしょ。だから今度は私の番。」
「・・・ま、別にいいけど。立て込んでいるんじゃないの?」
「立て込んでいるけど、ソフィアちゃんなら大丈夫。それに、今日は大使館のみんなが非番だからお手伝いをしてほしいし。」
「うーん・・・よくわからないね。でもま、いいや。じゃあソフィア。あんまり嫁入り先で粗相するんじゃないよ。」
 そう言ってソフィアの背中を思い切り叩くと、ルチアはエドとアレクシスに声をかけて自分の家へ向かって歩き出した。
 三人が見えなくなるまで見送った後で、リィナはレオとソフィアに向き直って口を開いた。
「ふたりとも。お家に帰る前にお母さんと一つお約束。」
「ん?なんだよおふくろ。」
「家では絶対に喧嘩しないこと。」
「喧嘩って・・・別に俺達そんなに頻繁に喧嘩しないよな?」
「うん。どっちかっていうと、私が一方的にレオくんにいじめられてるよね。」
「いやいや。お前が色々ドジやってあっちこっちで被害を出すから指導をしてやってるだけだろ。」
「いいから約束ね。もしも喧嘩したら、雷落としちゃうからね。」
「はーい。」
「なんか隠してるっぽいのが引っかかるけど、一応了解。」
「よしよし。ふたりともいい子いい子。それじゃ、わが家にむけてしゅっぱーつ。」
 そう言ってリィナは上機嫌で桟橋を街に向かって歩き出した。