黒髪
明はゆりに本格的に協力するために、学生の追跡調査を行った。1年生の10名は真面目に学生生活を送っていたが、2年生になると3名の学生がパチンコに通っていることが判明した。それこそゆりが体を張っての金をギャンブルに使う事が明は許せなかった。学生の一人に問い質すと
「自分でアルバイトをした金ですから、どうこう言われたくないです」
と悪びれる事も無く言った。
明はカサブランカ基金のパンフレットを改めて読んだ。
花を咲かそう
カサブランカ基金は善意の寄付から成り立っています。向学心に燃え、経済的に大学進学をあきらめている生徒を援助します。4年間の授業料の半分ですが、無償です。いずれ基金に賛同された時に寄付をされることを願望しますが、強要はしません。安心して勉学に励んでください。
確かに問い質した学生の言い分も解らないでもなかった。善意の寄付を集めるゆり達の苦労はどこにも感じられない。これではまるでギャンブルか宝くじに当たった人の寄付のようにも感じられてしまう。
明は学生に伝えた。
「この寄付金はボランテァで毎日毎日会社を回り頭を下げて集めているんだ。その時間働けば当然給料が入るが、君たちのために無償で動いているんだ。君たちが安心して勉強できるために」
明はそれ以上は言わなかった。
高校生に何故大学に進学するのかと質問した記事を読んだことを思い出した。はっきりした目的などは無い。偏差値に合った大学に入り、学生生活をエンジョイするためだった。医師になるとか、教師になるとか、建築設計士になるとか、弁護士になる希望者はわずかにすぎない。大学生は珍しい存在ではない。
明はゆりに相談し、最期の10人は医師か弁護士の希望者に絞り込みたいと考えた。医師の希望者では国立で無ければ援助は出来ないが、5人でも3人でも絞り込んでゆりの思いが少しでも伝わり学生たちに感じとってもらいたいと思った。
政権が代わり、株価が上がった。親会社の自動車株を売却した。1000万円ほどになった。ゆりに手渡すために彼女のアパートに行くことにした。
アパートのチャイムを鳴らすとドアが開き、カレーの臭いが漂って来た。明は新婚時代を思い出した。