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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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黒髪

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「カレ-だね」
「この臭いだから直ぐに解るわね」
「家庭の味だね」
「普通は1人だからレトルトで済ませてしまうのだけれど、今日は明さんのために作ったの」
「嬉しいよ」
「ビールは駄目かな」
「代行で帰るか」
明はゆりにビールを注いで貰った。店とは全く違った雰囲気であった。
「とりあえず渡しておくよ」
明は持参した金をゆりに渡した。
「監査に間に合って良かった。本当に嬉しいです」
明は何故これほどまでしてゆりは学生たちのために尽くすのかと考えてしまった。1000万円の金があれば贅沢は出来る。精いっぱい人生を楽しめるはずだ。
「本当なら君個人に渡して自由に使って貰いたい金だよ」
「でもこんな大金使い方も知らない」
「洋服を買って美味い食事をして、時計やバッグもブランド品に出来るよ」
「外見と自己満足は直ぐに飽きてしまう気がするわ」
「そうかな、欲望がなくては働く意欲が湧かないだろう」
「でも毎日おいしいものを食べていたら、きっと飽きてしまいそう。たまに食べるから特別美味しいと思う気がする。ちなみにこのカレーはいかがですか」
「君が作ってくれたのだからそれは美味いよ」
「本当ですか」
「君の味がするからね」
「味も幸せも、きっとその時の感覚ね」
「そうかな。若い君とこうしているだけで幸せを感じ。妻と居る時は当たり前だけか感じないから」
「明さんにとってはこのお金もきっと大金ではないでしょうけれど、今の私にはとっても大きなお金なんです。人の価値観はずっとそこにいると解らなくなるんですよね」
「こんな真面目な話になるとは思わなかった。基金の事だが、今回の内定者は仕方ないが、来年度は医学部か法科の学生だけに絞り込んだらどうだろう」
「本当は選別したくない。経済的に困っていることが条件だから、県知事に相談してみる。例えば生活保護のお金を回してくれないかと」
「そうか、そうだね。飯を食べる事も知識を食べる事も、必要だ。断られるのは解っているが、起爆剤にはなるかもしれない」
「私の幸せは、一人でも多くの子を大学に進学させることなの」
ゆりは輝く瞳でそう言った。白い皿にカレーの香りだけが残っていた。明はグラスに残ったビールを飲みこんだ。少しだけ顔が紅潮したのを感じた。
 明は携帯で代行を頼んだ。
「泊って行って欲しい」
ゆりが携帯を取り上げた。

作品名:黒髪 作家名:吉葉ひろし