黒髪
多田明の資金援助でかさぶらんかは開店した。目的はカサブランカ基金の増額で有る。企業活動や街頭募金もなかなか簡単には寄付は頂けなかった。やはり男心をくすぐることが一番手っ取り早かった。
ホステスの源氏名は大学の名前から1字取ったものにさせた。ゆりは東である。
「経済的に困っている高校生が大学進学のための基金を募っているの。協力してくれたらたら、お触り自由よ」
酔いが回り始めた客は万札をホステスに渡してくれた。半分はホステスに渡り半分は基金に回った。半年ほどしてようやく五百万円ほどになった。これで救える高校生は10人ほどであるが、その基準が問題であった。面接でゆりの判断と決められた。ゆりはそれだけみんなから信頼されていた。
明はゆりから彼女の本名上野小百合に惚れ始めていた。まだ彼女と肉体関係は無いが、離婚しても彼女の面倒を見てやりたいと思った。そんな感情が明に湧くと、彼女が目的のためとはいえ、酔客に身体を触られていることを想像すると耐えがたい気持ちになった。
明は店の客になりゆりの体を触りたい気持ちに駆られた。変装し東を指名した。東が席に着くと百合の香りを感じた。白いドレスは裾が広がり百合の花のようにも見えた。その白さのなかに黒髪は清潔感を漂わせていた。明はその姿を見ると彼女の身体に触りたい気持ちは無くなっていた。ここにいるゆりは東なのだと感じた。明は二人の人間を観ているのかもしれないと感じた。
東の黒髪に触れながら
「君の黒髪を1本買おう」
と言いながら東に金を渡した。ゆりはその声で明で有ると感づいた。会計も済ませないままドアから出ようとした明をボーイが背中を掴んで呼びとめた。
「会計は済んでいるから、お詫びしなさい」
きつい東の声が聞こえた。明はゆりの黒髪を何本か掴んだままであった。惚れた女には何もできない。明は本当にそんなものかと思っていた。