黒髪
ゆりの裸体は柔らかだった。いつもの明で有れば、ゆりのブラジャーを剥がし、バストに手を触れながら、夢中で身体を求めるだろう。でも、明は冷静であった。ゆりが大学生である事が気になていた。明の長女も大学生なのだ。同じ年頃の女の子をセックスだけの相手にする事は出来なかった。
「君の本名知りたいな」
「ゆりでいいでしょう」
ゆりは言いながら明のズボンのベルトを緩めていた。
「君と肉体関係まで行くのなら、少しは君の事を知りたい」
「感情は無い方がいいよ。体だけの会話で済ませたいな」
「割り切っているんだ」
「だって、おじさんのこと好きになってもどうにもならないでしょう。家庭崩壊招くだけだし」
「どうしてここに来たんだ」
「契約履行よ。お金だけ頂いては悪いし」
「競艇で負けていれば無い金だから、騙されても元々さ」
「職業で人間の価値判断されたくないんだ。クラブのホステス、身体を売る女・・愛人契約だってゆりは悪いことだと思わない」
「おじさんも人生は人の倍働き人の倍楽しもうって方だから、ギャンブルも女遊ぶも平気でして来てる。でも、大学生の君ではその気にならない」
「それはやさしい言葉だけれど、ゆりを認めてないことよね」
「君の裸体を見せて貰っただけでそれだけの価値があるってことだよ」
「本当はやりたいんだろう。カッコつけ無くていいよ」
ゆりは明の下半身をむき出しにした。明は慌ててズボンをまくりあげた。
「おじさんの女遊びのテクニック見せてよ」
明はゆりの頬を平手で打った。
「初めてのおじさんはとても優しかった。でも変態で耐えられなかった。次のおじさんは乱暴で、『金が欲しいんだろう』って、援助交際なんて、ただセックスするだけ、だから早く済ませたいの」
ゆりは涙を見せながらそう言った。
「それでも大学に通いたかったのか」
「卒業証書と結婚したから、幸せの証明書だから」
明はゆりの気持ちが解る気がした。大学中退の明は一流会社の試験さえ受ける資格がなかった。だから見返すために努力した。大学を卒業していれば、もっと楽しく人生を歩む事も出来たかも知れない。自分は運が良かった。努力だけでは金は手に入らない。
「大学を卒業するまで、おじさんが面倒みるよ。娘のつもりで」
「優しすぎ、嬉しすぎだよ」
ゆりは少し間をおいて
「ありがとう。信じる。多田明さんを」
と言った。