黒髪
明は少し眠っていた。
「お客さん到着しました」
代行の運転手に体をゆすられた。明は言われた金を支払うと釣りはいいと言った。しかし、我が家で無いことに気が付いた。明の横にゆりが立っていた。
「入りましょ」
車はすでに車庫に入っていた。
「今日はその気はないんだ」
「でも、運転できないでしょう。酔いが醒めるまで休憩しましょう」
明は頷いた。
部屋には大きなダブルベットがほとんどのスペースを占めていた。
「少し眠らせて欲しい」
明はそう言ってベットに仰向けになった。時計を見ると12時を過ぎていた。我が家に帰るにはここからでは30分はかかりそうだ。とりあえず妻にメールを打つことにした。・・友人に会い呑んでしまったので泊る・・
今まで眠ったかったのに、メールを打ったことで眠気が飛んでいた。
「今晩はここに泊る。ゆりさんは帰ってくれないか」
「私も泊るよ。好きに遊んで良いから・・・」
「何かその気にならないんだよ」
「タイプじゃないってこと」
「そうじゃない。抱きたいよ」
「じゃいいじゃない。お金もらってしまったんだもの。抱かなくても返さないわよ」
「あぶく銭だからいいんだ」
「でもさ、詐欺みたいな事したくないな。裸になろうか。その気になるでしょう」
ゆりはドレスを脱ぎ始めた。肩から徐々にバストが見え始めた。薄明かりのなかで有るが、ゆりの体は香りを放っていた。今までそれほど気が付かなかったが、きっとホテルに入ってから香水をつけたのだろう。インナー姿のまま明に近づいた。黒髪がバストを隠していた。今までの明で有ればゆりの体に飛び付いたかもしれない。
明は大学を中退していた。それも3年生の時である。父親の会社が倒産したからであった。いくらアルバイトをした所で、その金は一家が生きるために使われた。
ゆりが大学生であることでゆりの体をもて遊ぶことには抵抗があった。しかし手っ取り早く授業料を得るにはゆりにはこの方法しかなかったのかもしれない。期限を過ぎてしまえば即刻退学である。
「何の勉強をしているのかな」
「突然何のこと。場違いよ」
「君は大学生だろう」
「なんで知ってるのよ」
「聞いたのさ、カンナさんから」
「政経学部でーす」
「そうか。卒業するまで君の体を買うよ」
「ありがとう」
ゆりは明の体に覆いかぶさった。