黒髪
ゆりの勤めているクラブは若い女が10名ほどいた。どのホステスも洗練されていて、ゆりはどう見てもそのなかではランクが下の様である。客層もよさそうで、スーツを着ているものが多い。明のようにラフな感じのものはいなかった。5月なので薄いジャケットを着ていたが、何か自分に引け目を感じた。ママが挨拶に来た。
「これからもゆりを贔屓にしてくださいませ」
40代後半のように見えた。和服が似合う。どちらかと言えばママと呑みたい感じがした。ママはビールを明に注ぐと席を立った。かわりにゆりよりも年配のホステスが席に着いた。
「カンナです。宜しくお願い致します」
カンナもビールを注ぐ用意をしていた。明は一気に飲んだ。
「男らしいわ。何か頂いて良いかしら」
「好きのものとったら」
「御馳走になります」
カンナはボーイを呼ぶ合図をした。なかなかボーイに伝わらず、席を立った。
「チップあげてちょうだい。先輩はうるさいのよ」
「解った」
カンナはオードブルを運んで来た。明は
「ごくろうさま」
と言いながらカンナの胸に1万円札を差し込んだ。
「ゆりはいいお客掴んだね。奪いたいな」
そう言いながら、カンナは
「踊りませんか」
と明に言った。明は言われるままフロアに立った。
「ゆりは大学生なのよ。援助してあげて」
カンナから予期しないことを告げられた。
「それ本当のこと」
「身分証明書を観たわ。W大学よ」
「パソコンで偽物作れるから・・」
「3年なのよ。授業料半期分援助出来ないかな」
音楽が終わった。明は席に戻った。カンナも席に着いたが
「常連さんが見えたので失礼します」
と言って席を離れた。
明はカンナの言葉に酔いが醒めてしまった。
「ダンス上手いのね」
ゆりはそう言いながら、ビールを注いでくれた。
白い泡が嫌に眩しく感じた。ゆりとホテルに行く気持ちが異常なほど醜く感じ始めた。このビールを飲んでしまえば、その勢いでゆりの体をもて遊ぶかも知れない。
明はゆりに言った。
「携帯を教えてくれないか。今晩はこれで帰るが、ラブ契約はするよ。今日の分と契約分。髪を黒いままでいてくれないか・・・・その分で20万円払うよ」
明は50万円ゆりに渡した。授業料にはまだ20万円ほど足りないかもしれないが、ゆりが本当に大学生なら直ぐにも渡すつもりであった。
ゆりは店から出て明の唇にキスをしようとした。
「今は酒臭いから・・今度に取っておこうか」
明は代行の車に乗った。明の車にゆりが乗った事は知らなかった。