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凍てつく虚空

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もしかしたらもっと完璧な回答が用意できたかもしれませんが、これは僕の1つの回答だと思って聞いていただきたい。

おや、前フリが長いですか。では率直に述べましょう。
僕はこの鶴井舞さん、浦澤瞳さんの殺人事件を実行するのは『不可能』だと思っていました。いえ、森羅万象の知恵を持ってうすれば不可能ではないかもしれませんが、この限られた環境、限られた資源、そして限られた時間の中で、
これほどまでに完全に証拠の1つも残さないで全てを完了するのは、ほとんど不可能だと考えています。
だとすれば、どんな答えになるか。『どこかで我々は勘違いをしているのではないか』という事です。所謂、数学の世界で言う背理法と言うものですね。矛盾があるという事を前提で論理を進めていくとき、最終的に矛盾が生じたとき、
もともとの前提が間違っていた、という事になります。今回はそれとおなじようなことになります。

そもそも僕が最初におかしいと思ったのは、今回の事件を最初に聞いた時でした。
そう、鶴井さんの密室事件を聞いた時からです。鶴井さんは自分の部屋の中で錠前の鍵と閂と二重の鍵を掛けられた状態で死んでいたということです。
そして続けて田子さん、浦澤さん、そして猪井田さんと連続した殺人事件が起こりました。

なぜ鶴井さんを密室で殺害したのでしょうか。これが私が最初に心に浮かんだ疑問でした。
ここで問題なのは、何故鶴井さんが、ではなく、何故密室なのか、という事です。密室殺人というものは皆さんが思うほど有用なトリックではありません。

他のアリバイトリックや凶器の消失と言った類とは違い、『密室トリックを使った』という事がわかった段階で犯人にとっては非常に不利になります。
これが密室の中で自殺死体があれば話は別ですが、密室の中に明らかな殺人死体が横たわっていて、その後連続殺人が発生すれば少なくとも関係者は「密室死体は自殺ではなく他殺、つまり密室トリックが使用された」と考え、
密室トリックが使用されたと言うことが露見されてしまいます。
だったら、せめてすべての殺人を終えたあと、全ての罪を鶴井さんに着せて密室自殺だと思わせれば、まだ丸く収まりました。でも犯人はそうはしなかった。
これは明らかに愚策です。ここまで綿密に殺人計画を練った人間にしては、非常に抜けているところだと言わざるを得ません。

とここまでは最初に僕が感じた違和感でした。しかしここで再び思考を巡らせました。
もし、その「いかにも愚策と思えた計画」そのものが犯人の本当の計画だとしたら。
その愚策で、我々がどこか間違った答えにミスリードさせられているとしたら。そう考えました。
ふむふむ、この突飛な答えですが、さらに考えを突き進めていくと、すると新しい答えが浮かんできました。
一見すると、愚策極まりないこの殺人順序、じつはこれで我々はある固定観念に囚われました。それが何かわかりますか?」

「・・・・・・・」

誰も何も喋らない。皆次の一言を待っているようだ。

「ふむ。では答え合わせをしましょう。皆さんはこの鶴井さんから始まった事件により、これらが『連続殺人事件』である、と勝手に考えてしまった」

「ちょ、ちょと待って、鷹見くん、君一体何言ってるの? 勝手に考えるもなにもこれは連続殺人じゃ」

「そう。犯人はそれを狙った。犯人が何も言わないで、鶴井さん、田子さん、浦澤さん、猪井田さんと次々と倒れれば、誰だって一連の連続殺人だと思ってしまう。
これで犯人は我々に目の前で起こっていることは『殺人』だと錯覚させることができる。つまりどういう事か、『殺人』と錯覚させることが目的なら現実は『殺人なんて起こっていない』という事になります。
ふんふん、皆さん呆然となられていますね。まぁそれも無理はないでしょう。それこそが犯人の意図、そう邪悪な糸でした。
最初これを考えたとき、自分でも少し背筋が冷たくなりましたよ。さすがにこの仮説は怖いな、と。
でもね、大学で教授からもよく言われるんです。新しい論文、新しい研究、新しい見識を生み出すためには、そもそも自分の土台を疑ってみろ、とね。
今までの常識は大切です。我々の社会は常識で大体90%出来上がっています。でもね、残り10%は常識を疑って壊さなくてはいけないんです。
それが学問というものなんです。ん、話が逸れてしまいましたね。

この限られた環境・資源・時間の中で連続殺人と言う完全犯罪が実行可能である、と仮定して論理を進めて言っても、結局は全て不可能だという結論に達した。という事は、そもそも『連続殺人自体無かったのではないか』と言う新しい仮説に達します。
いつの時代も新しい着眼点は得てして不評を買うものです。
とりあえずこれで話を進めていきます。もし『連続殺人自体無かった』と仮定しましょう。では鶴井さんたちはどうだったのか、これは答えが簡単です。死んでいなかったのだから『死んだふり』をしていた、という事になります。
そうです、『彼女は死んでいなかった』。錠前と閂の二重ロックがかかっていた部屋の中で彼女は特殊メイクを施して倒れていただけ、ということです。
でもそう考えるといろいろと辻褄があってきます。

まず鶴井さんの部屋の鍵です。
外からだとキッチンに収納されてある鍵束の鍵と、そして部屋の自体の閂の2つがネックになってきます。鍵束を使えば返しに行く時間がない、閂を締めようと思っても、雪や磁石を使えばみんなに気づかれてしまう。
その片方だけならまだごまかしは効くかもしれないが、両方となると仕掛ける側も非常に困難になります。この二重の鍵を克服するのは並大抵のことではないと考えられます。
ではこれがそもそも『部屋の内側にいる鶴井舞さんの仕業』ならどうでしょうか。これなら何一つ問題がありません。錠前は部屋の内側からかけられますし、閂も同様に内側からかけられます。
あとは額に恰も銃で撃たれた特殊メイクを施して部屋の真ん中で寝ている、これで準備OKです。あとは部屋の外でドアを打ち破ろうとするのを音と声で確認しながら、今か今かと待っていれば良い。
では浦澤さんの事件の時はどうしたか。
事実上の容疑者である皆さんをキッチンに置いたまま、自分だけは2階の自分の部屋に戻りました。そして、何故か誰もキッチンを移動してないのに、何者かに殺害されていました。
そもそも浦澤さんは、本当に事件を解決できたのか、トリックが本当に思ったのか、2階登った時に用意した準備はなんだったのか。それが謎でした。
これも、半分までは解決できます。
そうですね、皆さんがおおよそ予測したとおりです。『浦澤さんは最初から犯人なんて知らなかった』という事になります」

その時だった。
鷹梨くんの体が少し宙に浮いた。
真壁さんだった。真壁さんが顔を俯いたまま、t悲しくんの胸ぐらを掴んでいた

「・・・・・・勝手なこと言うなよ」

ひどく弱々しい声だったが、それでもきちんと聞き取れた。憎悪とも悲しみとも取れる声であった。湧き上がる怒りと悲しみをとりあえず誰かにぶつけたいと思ったのであろうか。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔