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凍てつく虚空

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この事件に関しては他の事件に比べて、ほとんど細工が見られませんでした。
急に山荘全体の前期が消えたと思ったら、しばらくすると猪井田さんの部屋から悲鳴が聞こえた。皆さんで猪井田さんの部屋に行くと、腹部をナイフで刺された猪井田さんを発見する。
しかし猪井田さんはそこではまだ生きていた。死んではいなかった。でも見るからに品詞の猪井田さんは、苦し紛れにこういった。
『アオ』と・・・。猪井田さんはその言葉だけ残して息絶えた。これは猪井田さんが残した最期の言葉、所謂ダイイングメッセージだといえます。
では猪井田さんは、このとき何を言い残そうとしたのか。もちろん皆のなかに『青』が付く人はいません。ではこの『アオ』は何を意味するのか。
当然とは思いますが、この最後の言葉である『アオ』は猪井田さんが死ぬ淵野の言葉であり、犯人を指し示す以外の意味はまずを持ってないでしょう。では『アオ』は誰を指し示すのか」

「でも霧は、名前に『青』なんて言葉は入ってないぞ」

「えぇ。名前には入っていないでしょう。しかし霧さん、あなたの耳についているのはなんですか?」

「えっ!?」

「あなたの耳についているのは、『青』色のピアスじゃないですか? 僕が見る限りでは、僕がここに到着したときからずっとそのピアスをしていますよね。
おそらくこの山荘に着いた時から、あるいはその前から青いピアスをされていたのではないですか?
そして猪井田さんが霧さんに襲われるとき、猪井田さんはあなたの顔をもしかしたら見れなかったのかもしれない。あの時は山荘全体が暗く目の前に立ている人の顔も認識できなかった。そしてナイフで腹部を刺される。
その時、もしかしたら何かの光、もしかしたら月の光かもしれません、それで青いピアスが反射してかすかに見えたのでしょう。そして犯人が去り皆さんが駆けつけてきたとき、最後の力を振り絞って、見えた『青』いピアスのことを口にした。
そう考えると全ての事実が説明できます」

「理由は?」

「ふむ、事件の動機ですか。それに関しては僕は何とも言えません。殺人に至る動機ですので、簡単なものではないでしょう。先ほども申した通り、今回の準備が一ヵ月も前から進められています。
と言うことは少なくとも一か月以上前から殺人の動機を抱えていたと思われます。そこは僕のは分かりません。
さぁ、どうでしょう霧さん。自らの犯行を認めてもらえますか?」

「いやだ・・・、私は何もやってない」

「まだ言うんですか」

「だって本当だもん。私はやってない、本当に知らない!」

「ふむぅ、しょうがありませんね。ではこうなったら警察の科学捜査を待つしかありませんね。明日を待ちましょう。このところ天候も安定してきています。明日、早ければ今夜遅くにでもになれば天候も回復して地元から救助隊がやってくると思います。
そしたら警察の捜査も始まります。そこで僕の推理を検証してもらうとしましょう。我々では見落とすような証拠も発見されるでしょう。多少の違いはあれど僕の推理はあってると思いますよ」

「・・・・・・そんな」

「では救助隊がやってくるまで、最低限霧さんの身柄は拘束しなくてはいけません。ちょうど我々のいるロビィのはじには簡単な収納スペースがあります。まぁ、と言っても要は物置ですけどね。そこは外から鍵を掛けられます。
そこで静かにしてもらうしかありません。先ほど中を見ましたが、特に危険なものは入っていませんでした。一応の水分と簡単な食べ物を置いておきますので、救助隊が到着するまでおとなしくしていてください」

「何で私が!」

「お分かりになっていないんですね。あなたは今や『容疑者』です。殺人の疑いを掛けられている立場です。あなたの理解があろうとなかろうと、身柄を拘束させてもらいます」


・・・そんな

その言葉がただゆっくりと、木霊するように渦巻いていた。
後何が話されたか、よく覚えていない。これで事件がようやく終末を迎えた、そんな思いでいっぱいだった。
視線を外に向ける。まだゆるやかではあるが、吹雪は止んでいなかった。







*   *   *



真犯人の視点



息を殺した。一歩踏むたびに足に全神経を集中させた。
ゆっくりゆっくり、足音を立てないように『私』は目的地に近づく。
目的地、それはロビィ脇の収納スペース、いわば「霧綾美の拘束されている場所」だ。
『私』は嬉しかった。彼の推理を聞き終わったとき、心の中で小躍りした。


―――的外れな推理も甚だしかった



犯人は霧綾美ではない。この『私』だ。
一連の殺人事件の首謀者であり実行犯はこの『私』であり、霧綾美はなんら無関係である。
それをあの男ときたら、なんとまぁ馬鹿な論理を、いけしゃあしゃあと述べてくれたのもだ。
突っ込みどころ満載であったのが聞いてて笑えたし、それを真に受ける皆も皆だ。あまりの可笑しさに吐き気がしてくる。
吹雪の中、颯爽と登場したとき、正直困惑した。
最初、予定外の登場人物に戸惑った。それまでは何とか予定範囲内で収まっていたのに、ここで計画が一気に台無しか、そう思った。
もし計画に支障があるなら、しょうがない、あなたに罪はないが消えてもらうしかなかった。
でもふたを開けたらどうだろう。
いかにも偉そうなこと並べておいてそれがこの様かよ。

まぁ、そのおかげで『私』が犯人であるという事実に誰も気づかなかったんだから。僥倖僥倖。
あとは霧綾美を始末すればよい。
霧綾美、あなたみ恨みはない、妬みもない、ただ邪魔なだけだ。
あなたが犯人でないことは『私』が良く分かっている。しかしあなたが生きて帰ってもらうと、必ず警察による科学捜査が行われる。
警察も馬鹿じゃない。恐らくあなたが犯人でないということが白日の下に晒される。
となると、一から犯人探しが行われる。となると再び『私』に捜査の目が向く。いつまで逃げ切れるか分からない。
なら、ここで霧綾美にはこんかいの舞台から退場してもらおう。
あなたが死ねば、「犯人の自殺」となって警察の捜査も最低限で終わらせることができる。

手にぎゅっと力を込める。この日のために用意した皮の手袋越しに麻縄が食い込む。
物置に掛かっている鍵も大丈夫だ。ちゃんと合鍵を用意している。
準備は完了だ。
物置の前に到着する。確認のため周りを確認する。ロビィには誰もいない。例の男も安心して開いている部屋で寝ているのだろう。
もし誰かいたらそいつも殺さなくてはいけなかった。つくずく運のいい奴だ。
念のため、ドアに耳を欹てる。

「・・・・・よ、・・・じゃ・・・・・に」

不鮮明でいかにも蚊の鳴くような声だが、しかし中に人はいる。
ジャケットの内ポケットから鍵を取り出す。鍵穴に差し込むときに要注意だ。カチャリと音が鳴れば中の霧に気づかれてしまう。
しばらく耳を澄ます。しかし中から聞こえてくる声に何の変化もない。
それを確認すると、ゆっくりドアを開ける。背に光はない。大丈夫、光が漏れることはない。
必死で自分に言い聞かせる。
今更、人ひとりを殺すことになんら恐怖はない。そんな自分が頼もしかった。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔