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凍てつく虚空

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霧さんは誰かが毒を口にするまで、『誰のもとに毒の仕込まれた食器が渡っていか』は分かりません。誰かが倒れるまでそれを知るすべは分かりません。まぁもし10分の1の確率で自分のもとに毒の仕込まれた食器が運ばれる可能性はあります。
その時のために、自分にしかわからない目印か何かは付けていたかもしれませんがね。まぁ、そんなこんなで事件当日は田子さんが倒れた。
そうしたら、部屋に戻り『田子さん用の犯行声明文』を持ち出して、さも食事の前から田子本人から受け取ったとみんなに話をすれば良い」

「え、じゃあ田子以外の人に毒が当たったら?」

「その時は毒が当たった人用の犯行声明文をみんなの前に持っていくだけです。ですのでこの中にいる人誰が当たっても良いように全員分の犯行声明文を用意したんだと思います」

「・・・・・・じゃあ最悪私たちにも毒入りの食器が運ばれてくるかのせいも」

「充分あったでしょうね」

その場にいた全員の血の気が引く音が聞こえた、そんな気がした。

「そこで第三の事件、浦澤瞳さんの事件です。皆さんが憔悴しきっているときだった。浦澤さんは今回の事件の真相が分かったと言います。しかしその準備として少し時間がほしいとも言います。
自分の部屋に戻って準備する、そう言い残して1人部屋に戻ります。その間皆さんはキッチンで時間が来るのを待ち続けます。その間、このキッチンを抜けた人はゼロ、誰一人いませんでした。
そして、浦澤さんがキッチンを後にしておよそ30分後、流石におかしいとおもい全員で浦澤さんの部屋にやってきた。ここで部屋のドアを開けたら、天井の梁から首を吊った浦澤さんを発見した。そういうことです。
さぁこれもかなりの難問です。犯人は浦澤さんの部屋に入ることなくして、どうやってこれほどの凶行を行えたのか。共犯者がもしいようとも、その共犯者となりえる人もみなキッチンにいました。全く持って不可能犯罪です」

「勿体ぶるなよ、でも霧ならできたんだろ?」

「えぇ。可能です。と言っても再三申し上げていますが可能性の話ですがね。霧さんも皆さんと違わずずっとこのキッチンにいました。しかしです、ずっと皆さんの視界に入っていたかというと、それは疑問です。
霧さん、あなたキッチンで待機しているときキッチン内を移動しましたか?」

「・・・・・・」

何も答えない

「では代わりに僕が答えましょう。あなたは飲み物を用意した。そのときどこに行くか、キッチンの奥の冷蔵庫のもとに向かいます。冷蔵庫はみんさんが食事をされた場所から見ると、ちょうど死角の場所に当たります。
と言うことは飲み物を取りにいっている間は、皆さんの視界から消えていたことになります。その間だったら、浦澤さん殺しのトリックを使えたのではないか、そう考えました」

「まさかキッチンの窓を出て2階の浦澤の部屋に行ったのか」

「それは無理でしょう。窓を開ければ急に冷たい風も入りますし、強風の音も皆さんに聞かれてしまいます。しかし窓を出て、他の場所から侵入しなおして、静かに階段を上り、浦澤さんを殺害して、また戻って、キッチンの窓から入りなおす、
これほどの作業を飲み物を取りに行く時間で仕上げることは、流石に無理でしょう。
ではどうしたのか。この場合も準備が必要です。簡単に言えば浦澤さんの部屋に分からないようにロープを仕掛けておきます。そしてそのロープの他端を窓から外にだし、キッチンの窓まで伸ばしておきます。
と言っても、これだけの説明では分かりませんよね。詳しく説明します。
まず浦澤さんがいない時を見計らって部屋に侵入します。ここで設置するものは、首つり用のロープです。まず予め用意してあったロープを天井の梁にひっかけます。
もちろん、その梁から降りているロープは先が丸になっていて、すぐに首を通せるようになっています。そして梁から垂らしたロープの反対側をそのまま窓の外、ではなくて1回ほかの柱に巻きつけます。
ただし巻きつけると言っても、本当に巻きつけるわけではなくて、『そう見える』ように簡単に巻きつけておきます。では次はそのロープの端を今度は細くてしかも頑丈な線、たとえばピアノ線のようなものを結び付け、
このピアノ線を窓の外に出します。偶然にも浦澤さんの部屋は、キッチンのほぼ真上、伸ばしたピアノ線を真下に垂らせば、キッチンからつかむことができます。霧さんはこのピアノ線をキッチンの、皆さんから見たら死角の窓に分からないように
括り付けておきます。あとは浦澤さんがロープの輪に首を突っ込んだときにタイミングよくキッチンのロープを引けば、浦澤さんは部屋にいながら、犯人はキッチンにいながら首つり死体を作り上げることができます。
そもそもなんで太いロープだけではだめだったのか?
なぜ太いロープに細いピアノ線を括り付けたのか?
やはり『窓を通すためです』。人ひとりを吊し上げるとなるとそれ相応の太さのロープが必要になります。タコ糸なんかでは到底無理ですね。しかし太いロープを使うと今度は、窓が閉まらなくなる。
皆さんが浦澤さんの部屋に駆け付けたとき、窓が思いっきり開いていて、そこからロープが出ていたら流石に誰でも不審に思います。今回も最初の鶴井さんの事件のように、『窓に注意を向けない』仕掛けとして、
太いロープの端に細いピアノ線を巻きつけて、それを引っ張るというまどろっこしい方法を取りました。ピアノ線なら太さはほんの数分の1mm。窓は完全に閉まらなくても、ほんのわずか開ければピアノ線は通ります。
パッと見たとき、目の前の浦澤さんの死体に意識が集中して、窓の微かな開閉に気が付かない、そんな人間の心理を利用したトリックを使いましたね。」

「でも、」

「勿論、タイミングよくロープの輪っかに首を突っ込んでくれるとは限りません。太いロープなら重くて揺れに気付きませんが、軽いピアノ線なら首が引っ掛かったわずかな振動に対して分かるくらいの揺れを生じさせます。
霧さんは1階の、皆さんの数m離れたキッチンの死角で、飲み物を準備するふりをしながら、垂らしてあるピアノ線が揺れるのを待ったんです。
そしてピアノ線が揺れた。その瞬間、霧さんは渾身の力を振り絞ってピアノ線を握り引っ張ります。ピアノ線を通じて2階の浦澤さんがもがくその振動が伝わってくるでしょう。
しばらくそれを耐えていれば、次第に振動はなくなります。要は浦澤さんがこと切れた瞬間です。そのあと、ピアノ線をまたみんなに見えない位置に隠したのか、あるいはさらに引っ張って、太いロープから引きちぎったのか、
それは分かりませんが、1階のキッチンにいながら、2階の部屋の浦澤さんを殺害できた、となるわけです。なので鶴井さんの部屋は密室だったのに、浦澤さんの部屋は密室でなかったのは何故か、と言う謎がありましが、簡単です。
犯人は部屋の中に入っていなかったからです。ですので、鍵まで閉めることができなかった。と言うわけです」

誰も何も返さない。
その答えにただただ衝撃を受けているかのようだった。

「そして最後の猪井田さんの殺害事件です。僕が思うに、この事件に関しては霧さんには不測の事態だったのではないか、そう思います。何故か。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔