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凍てつく虚空

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「本当でしょうか。本当にシャワーを浴びて濡れた髪の毛を乾かすためにタオルで拭いていたのでしょうか? 『髪の毛についた大量の雪をとっていた』んじゃないですか!」

「なっ!?」

「あなたは先ほどの方法で窓と窓をつないだロープを渡って急いで部屋に戻ってきました。そこまでは予定通りだった。しかし予想外の事態があなたを襲った。外の吹雪が予想以上だった。
なんとか部屋まで帰ってくることはできたが、髪の毛に大量の雪が付着していたことは想定外だった。すでに部屋の中の熱で雪も解け始めている。頭をたたいて雪を落とすこともかなわない。
もしこのっま廊下に出れば冷え切っている体に濡れている髪の毛、しかもその紙にはまだ落としきれなかった微量の雪が残っている。もしこれを他人に見咎められたら、不審に思われる。
かと言って、ドライヤーで乾燥させる時間はない。そこであなたはタオルで髪の毛を吹きながら、さもシャワーあがりをアピールした。それにタオルに隠れて微量な雪も見えませんからね。」

不穏な静寂だった。問題解決を喜ぶ一瞬の静寂ではない。ただの身近の殺人犯を恐れる静けさだった。

「犯人は霧綾美さん、そう考えると第二の事件も簡単に説明ができます。第二の事件の概要は以下のようなものでした。
皆さんが初めての食事をとることになった。席順は一切決まっていませんでした。キッチンに到着した順番に各々好きな席に座るというもので、来た人から順番に席を詰める、と言うわけでもありませんでした。
ちなみに当時の席順は


                 新       浦       
                 馬       澤       
            ――――――――――――――――――  
            |                 |   
            |                 |   
         鷹梨 |                 |田子  
            |                 |   
←           |                 |   
ロ           |    テーブル         |   
ビ           |   (見た目は四角形ですが   |   
ィ        知尻 |    読者の皆さんは円形だと  |霧                          
            |    考えてください。)    |   
            |                 |                         
            |                 |  
            |                 |                      
         真壁 |                 |貴中                      
            |                 |           
            |                 |                      
            ――――――――――――――――――      
                猪      不   
                井      二
                田      見


とこんな感じでした。



よって誰がどこに座るかは全く不明。料理と言っても缶詰や市販の保存食を並べたものですので、ここに個別に用意した毒物を混入させるということは考えにくい。
そんな状況にも関わらず事件は起こった。
メンバーの一人である、『田子藍那』さんが倒れた。急にのど元を抑え始めてもがき苦しみながら椅子から倒れました。そしてそのままこと切れた。
誰も毒を仕込めないはずなのに、田子さんは倒れた。
さらに不思議なことが。そのあとの霧さんが持ってきた犯行声明文です。


    お前は追放者なる存在だ
    お前の罪は死に値する
    お前は今宵、神の名の下にその裁きを受けることだろう


そんなことが書かれた文書が姿を現しました。
霧さんは「田子さんから相談された。食事の前に田子さんのもとに届けられていた」と証言されました。
ここで更なる謎が提示されました。
『犯人はどうやって田子藍那さんにだけ毒を盛れたのか?』です。
そもそも食事の内容物に毒物を盛ることすら困難を極めます。それに加えて、10人の中の1人にだけピンポイントで毒を盛る。
誰がどこに座るかわからないし、食べるもの食べないものも存在するでしょう。一人だけに毒を盛るという不可能犯罪ができあがりました。
たしかにこの話だけを聞くと、誠に無理難題だと思います。
しかし先述したように、『霧さんが犯人』と言う前提があると、この謎も解けます。
まず霧さんは何をしたか、この山荘に到着した直後に密かに用意していた毒物を持ち出してキッチンに移動します。
しまってあった食器、たとえばスプーンや箸ですね、これらの1つに毒を仕込みます。そして何事もなかったように元の場所にしまいます。
そして食事が行われる時間になるまで待ちます。
そしていざ食事の時間になると、仕込んでおいたスプーンか箸が配られ、誰かのもとに届きます。それも1人分だけ。
誰に届くかわかりません。しかし誰かには届きます」

「誰かに届く?」

「えぇ。このとき毒の仕込まれた食器が誰に届くかは関係ありません。霧さんにとって誰が死ぬかはどうでもよかった、『無差別殺人』であった可能性が高いんです。
そして今回はそれが運悪く、田子藍那さんだった。田子さんはそうとも知らず毒の仕込まれた食器を何の疑いもなく使用してしまい、毒物を口にした。そして死に至った、と言うわけです」

「でも、それじゃ犯行声明文はどうなるのさ。田子が死ぬか分かんないのに、わざわざ犯行声明文を田子に出したっての?」

「いいえ。そもそも霧さんは田子さんに犯行声明文なんて出していませんよ。当然田子藍那さんもそんなもの受け取っていません」

「ん? どういうこと?」

「分かりませんか。そもそも田子さんに元に犯行声明文など届いていませんでした。あの犯行声明文は霧さんが用意したものです」

「そんな、嘘だ」

「いいえ事実です。では聞きますが『田子さんが犯行声明文を受け取った』と言う事実を口にした人は他にいますか・・・・・・。いませんね。そう霧さんだけです。あなたしか『田子さんが犯行声明文を受け取った』と証言していないんですよ。
逆に言えば、『田子さんから犯行声明文を受け取った』と言えば皆がそれを信じてしまいます。そう、簡単にでっちあげることができるんです」

誰も何も答えない。

「そう霧さんしか知りえない事実なんです。ではそれを霧さんしか知りえない事実となるとどんな利点があるか。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔