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凍てつく虚空

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「なぜ5年前に廃山荘になったこの建物に、それほどの食料や水が置いてあったのか。では、これは何故でしょう」

「忘れていったから、ではないの?」

「その可能性はないでしょう。いくら保存のいく食料と言っても5年間も変味変色の無い食料はありません。あったとしても本当に一部の缶詰くらいでしょう。水もいくらこんな寒い場所だからと言って、5年間も放置されていれば
流石に腐ってしまっていますよ。皆さん、お腹を壊した方はいらっしゃりませんよね。
ではこの食料と水は何故存在したのか。簡単ですよ。『つい最近購入されたものだからです』。」

「・・・つい最近購入された?」

「勿論」

ゴソゴソと音を立てる
なにやらプラスチックのパッケージを取り出しているようだ。

「これを見てください。皆さんが消費した食料のパッケージです。この部分ですね、『製造年月日』を見てください」

「えっと、なになに、2000年・・・、12月、12日って書いてあるね」

「これは去年の年末にメーカーで製造されたものと言うことがわかりますね」

「・・・だから?」

「あれ、まだ気づきませんか。5年前にこの山荘が使われなくなったのだとしたら、そこに置いてある食料も当然5年以上前に買われたものしか置けませんよね。ですがこの食料や水は違います。
この山荘の所有者が息を引き取ってから、5年の歳月を経て、『誰か』が置いて行ったものです、わざわざ。それも今から一ヶ月前に。
では誰がそんなことをするでしょうか。これから使うことがないと分かっている辺鄙な山奥の山荘に、わざわざ食料や水を買い込んで、一度ここに訪れてている人物が確かにいるわけです。
では誰が、なぜこんな山荘に食料や水を置いて行ったのでしょうか。さすがにもうお気づきですよね。
『今回の犯人』しかいません。今回の犯人がここに皆さんを引き留めておきたかったから、それ以外に考えられません。
犯人には分かっていたんです。皆さんがこの山荘にやってくることを。そしてその時は現地でも珍しいくらいの大吹雪が来ることを」

「大吹雪?」

「恐らくそうでしょう。犯人はこの地一帯が吹雪になり救助隊も救助を見送るほどの悪天候になることを見越して、食料や水を買い込んだんだと思います。
犯人は皆さんをこの山荘に閉じ込めておきたかった。おそらくは今回の事件を起こすうえで逃走者を出したくなかったんだと思います。
かなりの悪天候なら、この山荘を向けだして位置も方角もわからない麓の村に助けを求める人間はいなかったでしょう。しかし相手は人間だ、どんな行動に出るか想像できない。
ましてや食料も水もなければ無理をしてでも山荘を飛び出す人間がいないとも限らない。
そのためより高確率でこの山荘に皆さんを足止すべく、食料を買い込んだ、そう推測できます。
電気や水道が通っていたのも、同じ理由だと思います。こんな山荘に閉じ込められても電気もなかれば水も使えないのでは、やはり外に飛び出される可能性が高くなります。
犯人はあらかじめ、この山荘に電気や水道を通していたのだと思います。いってみれば計画的犯行だと言ってもいいでしょう」

「ちょっと待って」

その遮りに、なんでしょうと返した。

「食料や水は分かった。前もって購入してこの山荘に用意したってことは納得できる。でも電気や水道はそうはいかない。誰でも電気や水道を通してください、て言って用意できるものじゃ・・・。それこそ身内か何かじゃないと」

「それはそうでしょう。だから用意できる立場だったんでしょう。犯人は」

「!?」

「犯人はこの山荘の所有者『黒川影夫』氏の身内の人間だった、その可能性が高いです。でなくちゃこんな真似はできません」

「『黒川影夫』の親類なんで、そんな人うちにはいないよ」

「恐らく嘘をついているんでしょう、自分の本来の身分を偽って、あるいは隠して劇団トワイライトに身を寄せている人物が・・・。この中にいる誰かが」

誰も何も発しない。互いに互いをけん制し合っている、と言ったところか。
主は続ける。

「じゃあそれは誰なのか。身分を詐称して紛れている下手人は誰なのか、それ自体をこの段階で断定することは叶いません。しかし、これから話す事件の謎を解氷していけば、それが誰なのか自ずと分かってきます。
ではまず順々に事件を読み返していきましょう。
最初の事件は、皆さんがここに到着した当夜ですね。被害者の名は確か、鶴井舞さん。皆さんのメンバーであり比較的若手の方。私はその事件現場を拝見していません。ですのでここにいる鷹梨の伝聞ですが、ざっと事件をおさらいしてみましょう。
事件があったのは、山荘の2階、普段は客室として用意されている部屋の中の一室でしたね。確か階段のある反対側の壁の、奥から2番目の部屋、でしたよね鷹梨さん?、あぁ結構。間違っていた場合のみ指摘してもらえれば大丈夫。
さて、話を続けます。部屋割りは以下のようになっていたわけですね






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  貴  |  鶴  |     |  鷹  |  新  |  猪  |    |
     |     |  霧  |     |     |  井  |    |
  中  |  井  |     |  梨  |  馬  |  田  |    |
     |     |     |     |     |     |    |
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――|
                                     ||
              廊下                     ||
                                     || 
――――――――――――――――――――――     ――――――――――|| 
  浦  |  不  |  田  |  知  |  階  |  真  |    |
     |  二  |     |     |     |     |    |
  澤  |  見  |  子  |  尻  |     |  壁  |    |
     |     |     |     |  段  |     |    |
――――――――――――――――――――――     ――――――――――






第一の事件当時、2階の部屋に戻っておられたのは、真壁冬香さん、浦澤瞳さん、不二見未里さん、新馬理緒さん、田子藍那さん、霧綾美さん、貴中怜さん、そして鶴井舞さん、
合計8人でした。一方部屋に帰らず、1階のこのロビィに残っていたのは猪井田姫世さん、知尻マリアさん、そして鷹梨愛さん、この3人でしたね。
ちなみにお間違いはありませんね・・・・・・、そうですか間違いがないなら良いんです。
そして夜も更けてきたころ、急に銃声が鳴り響いた。
1階にいた3人は急いで音のした2階に移動した。そこでは同様に銃声で異変に気付いた他の皆さんが部屋から出てきた。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔