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凍てつく虚空

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生返事を返したところで、ふと疑問が生じた。

「ちなみに、いまぐらいそこそこ有名になったのはいつごろからだい?」

「ん、えっと最初に話題になって雑誌とかに取り上げ合っれたのがだいたい4〜5年くらいう前からかな。ただ最初はそれでも見向きもされなかったけど、マスコミで少しずつ取り上げられて、少しずつ人気が出てきたかな」

「4〜5年前・・・」

少し引っかかった。
4〜5年前というと、ちょうど『黒川影夫』氏が亡くなったあたりだ。関係ないとは思う。しかしここまで時間が起こっている以上、全くの無関係と思うわけにも行かない。すこし続けて質問してみる。

「その4〜5年前っていうのは何かあったのか。それまでこう言ってはなんだが、この劇団は鳴かず飛ばずだったんだろ。この劇団が作られたのが、猪井田さんが大学卒業後直ぐというから、ええっと猪井田さんは何歳だったんだい?」

「確か28〜30歳位のはずだけど」

「となると22歳で卒業とすると。劇団が旗揚げされたのがおよそ6〜8年前か。そして雑誌等で取り上げられるまでに何かあったとかはないか?」

「何かって?」

「例えば有名な評論家に推薦をもらったとか」

「ううん、特にないと思うな。本当に雑誌とかで取り上げられてから、少しずつ人気が出始めたって感じ」

「その間、本当に劇団内で変わったとこは本当になかったかい?」

「え・・・・・・、あぁ、そう言えばマネージャーさんが来たのがその時期かな」

「マネージャー?」

「うん、ここにいないけど鷹見くんが着たとき言ったでしょ、最初この山荘に私たちが来たときバスを運転してきたのがそのマネージャーさん」

「そのマネージャーさんはどこにいる?」

「それも聞いてないの? マネージャーさんは皆をこの山荘に降ろしたあと、麓の村に助けを呼びに行くと言って一人バスを運転して太物村に出て行ったよ。私たちを一緒に乗せるともし途中で事故に合えば演者を失うって。
それは劇団の損害だから、何の損害もない自分が責任を取って出て行くって。でもそれっきり戻ってきてないけど」

「ううんと待った。『責任』ってなんだ。そのマネージャーさんが何かしたのか?」

「だってそのマネージャーさんがハンドル握ってここまで運転したんだから、道に迷ったらそのハンドルを握っていた自分が助けを読んで来るって。そう言う意味で『責任』って言ったんだけど」

「道に迷ったのがそのマネージャー・・・。じゃあそのマネージャーと話がしたい。携帯電話かなにかあるか!?」

「無理だよ」

「なぜ」

「だって麓の村で死んじゃったみたいだから、マネージャーさん。何でも毒物死だって」

「麓の村に助けを呼びに行ったマネージャーが毒物死? それはちゃんとした医者の診断なんだろうな?」

「うん、麓の村の、えっとなんだっけ、確か宗像村って言う村のお医者さんがそう診断したって」

「医者の診断で毒物死・・・。でもとりあえず、マネージャーさんが麓の村に到着したってことは、救助はすぐ来るってことだな」

「あ、それも無理みたい。何でかしらないけどマネージャーさん、村に到着したのに救助を要請してないんだ。さっき何とかつながった携帯電話で麓の村に救助を要請したけど、救助ヘリコプターが到着するのは明日になるんだって」

「村に到着したのに、救助を呼ばない・・・」

「そうそう」、何考えてるんだろうね白岡さん」

「? 白岡さんって誰のことだ?」

「あぁ、だからマネージャーさんのこと。白岡光一って言うんだ」

「白岡、光一・・・?」


暗澹たる謎に一縷の光がさした気がした。
そしてその一縷の光の先には、自分が探していた真実の一粒があった気がした。
その砂粒はまるでジグソーパズルの1ピースのような形をしていた。
その1ピースで全てが完成した。
総てが見えた。
凡てを固めた。
そして全ての謎が解けた。

壊れ物だった閃きは、不砕の球体となって目の前に現れた。
これだ。
これしか考えられない。

だとすれば、
この山荘の事件の真相は・・・。









「ねぇ鷹見くん。何かわかったの?犯人は誰なの、どこまで分かったの?」

自分は辟易して嘆息する。

「君まで僕を名探偵扱いするのかい。何度も言うけど僕は探偵じゃ・・・」

頭を振って応えようとした。何とか話を逸らそうと思った。しかしだ。彼女の視線は自分を一点で捉えた。
その揺るぎない視線、でもそれでいて悲哀を帯びている視線。その澄んでいる瞳ゆえに奥底が見えない、そんな不思議な目だった。

「・・・・・・新馬さんの言ってた推理があっただろ」

「うん、真壁さんが犯人説のあれね」

「俺はあれはないと思ってる。なぜか。
簡単に言えば『不確定要素』が多すぎるんだ。
まず鶴井さんの密室事件の話から入る。あの人の話では強力磁石で廊下から鉄の拳銃を操って閂を閉めたって話だった。そして鍵に関しては実は掛かっていないで鍵を開ける振りをしただけ、ってことだ。
真壁さんが鍵を持ってきて鍵を開けるふりをしたって言うが、じゃあ聞くけど、鶴井さんの部屋のドアを開けたのって、果たして真壁さんだったかい?」

「え・・・、さぁあんまり覚えてないけど」

「思い出してくれないか。まずは鶴井さんの事件で重要な場面なんだ」

「ええっと、あれ、そう言えば、鍵を持ってきたのは真壁さんだけど、鍵を開けたのは真壁さんじゃない。そうだ猪井田さんだ。猪井田さんが真壁さんから鍵を受け取って開けたんだ」

「だろうね、そんなことだと思った。となると真壁さんが犯人説はここで終末を迎えたわけだ。かと言って猪井田さんが犯人か。いやそんなことはないだろう。だって猪井田さんは今しがた誰かに襲われて亡くなった。犯人は猪井田さん以外の誰かだ」

「・・・あ、うん、確かに。でも・・・」

「どうして分かったかって? まぁ、これは勝手な推理なんだけどね。犯人はこの山荘の持ち主なんだよね。ってことは今回の事件を最初から計画していたことになる。だとすれば今回の事件に関するトリックは丹念に練習したはずだ。
どこかで失敗しないように、必要な道具から手順からかかる時間から綿密な計画を立てて、そして犯行を行ったに違いないんだ。
だとすればだ、犯人としてもできる限りの不確定要素をそ取り除きたいはず。要はどうなるか分からない運頼みのトリックはやりたがらないはずさ。できることなら練習のできるトリックにして、少しでもトリックが見破られる要素を取り除きたい。
ではもし新馬さんの意見ではどうか。
確かに強力磁石で部屋の外から拳銃を操って閂を締めるのは、一見すると難しそうではあるが練習次第ではなんとかなるだろう。磁石の種類大きさからどのくらいの時間をかけて磁石を操れば、どのタイミングで閂がかかるか。
その時注意するべきことなど、予め把握しておりそれに対する対策を練って練習すればどうとでもなる。なにしろこの山荘は犯人の所有物だ、時間はたっぷりある。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔