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凍てつく虚空

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まぁ、今現在ではただの勘ではあるが。
ただいくつか、不可解な部分も多々ある。

まずこの全体である。
本格ミステリ、俗に言う黴の生えたミステリだが、同じにもクローズドサークルもの。これがまず最初の謎だ。
クローズドサークルとは、言わば外部の救助が一切入ってこない限られた空間でのミステリのこと。
孤島の殺人や、吹雪の山荘、と言った状況がこれにあたる。
これは有名でこそあるが、実に多くの問題を孕んでいる。
まず一つ目が、『限定性』だ。犯人は今いるメンバーの中の誰か、と一発で見破られてしまう。
これは非常に危うい問題だ。確かにメリットとしてターゲットが逃げ出さない、警察などの科学捜査が入ってこないので簡単には犯人が特定されない、と言ったものがある。これは確かだ。
でもそれを有り余るデメリットが存在する。それが今言った限定性だ。要はいつかはバレてしまう。
科学捜査が永遠に入って来ない場所は存在しない。警察の捜査の手はまるで免罪符のようにどこにでも入ってくる。事件を起こしているあいだはバレなくても、そのうち捜査が入ってきた時には確実に自らの手段が露呈してしまう。
メリットに対してデメリットが大きすぎる。


ほかにもある。まず思ったのが、『何故、第一の殺人で密室殺人なのか』である。
密室殺人は思ったほど完璧な事件ではない。密室の中で遺体があったとしても、その痛いが明らかに殺されたものなら、殺人の可能性があるなら一発で「密室殺人」であることが疑われてしまう。
そうなったらトリックなんて関係ない。犯人は誰かという話になる。
密室殺人を最も効果的に行うのは、なかに存在する遺体が自殺体である、あるいはそう見えることが必要である。
その観点から見れば今回の事件としては最も不適切である。

まず痛いの鶴井さんが『額を打ち抜かれている』ことがそうである。
普通、自殺する人は額を撃たない。百人いたら百人、『こめかみ』を撃つはずである。
額を撃つのは、持つ銃の握り方も悪い。その時点で自殺体かどうかは怪しくなる。そして極めつけは、その後に連続して殺人事件が起こったことである。
鶴居さんだけならまだよかった。しかしその後田子さんや浦澤さんと言った他の犠牲者が出てくると、『これが一連の殺人事件』だと言うことが分かってしまう。
となると、最初の鶴井さんも『明らかに他殺』であることがばれてしまう。
なぜそんなことをしたのか。もし鶴井さんに殺意を抱いていて、密室で殺害しようと考えていたならば最後に殺すべきだった。
犯人はなぜそうしなかった。

田子さんの時だってそうだ。
なぜその時に全員を殺害しなかった。新馬さんのトリックでも良い、あれを使えば鶴井さん、田子さん、浦澤さんだってまとめてできたはず。
それなのに、毒殺では田子さん1人しか殺害しなかった。
この意味もわからない。明らかに用意するものも少ないし、なによりリスクが少ない。
犯人は鶴井さん、田子さん、浦澤さんを別々に殺害する必要があった。それは何か。

そして極めつけの、浦澤さんだ。
この際、メンバー全員にアリバイがある、と言うのは目をつむろう。それ以外だ。
問題は2つある。
1つ目が、なぜ浦澤さんの部屋は密室にしなかったんだろうということだ。
最初の事件の鶴井さんの時は部屋を密室にした。鍵と閂の両方をかけた。
しかしこれはどうだろう。同じ二階なのにこの時は全くドアに鍵がかかていなかった。鷹梨が言うのは、ドアが半開きだったそうだ。
鶴井さんの時は密室にして、浦澤さんの時には密室にしない理由があるのだろうか。
あるいは、できない理由があったのだろうか。
鶴井さんの部屋は密室にできて、浦澤さんの部屋は密室にでいない理由。新馬さんの説の拳銃以外に何かあるのだろうか。

あと一つ。
浦澤さんが部屋に戻って用意したものはなんだったのか。
先ほど、部屋の中を捜索した。浦澤さんは「犯人がわかった」と言って部屋に戻った。そしておよそ10分間部屋の中に留まっていた。
ではその時間で何をしたのか。犯人である証拠を探していたのか、あるいはみんなに事件の説明をするために話す内容を考えていたのか、それは分からない。
しかしおよそ10分間で行ったことが皆目見当がつかない。ペンなり紙なり、あるいは何かしらの証拠物品なり、何かしらを用意したはずなんだ。
それが全く見当たらない。
犯人が犯行の際に持ち出したのか。いいやそれもない。
だってあの部屋には誰ひとり入っていないのだから。だから外に持ち出せるはずもない。
遠隔操作で事件を敢行したのか。いや、それでも、浦澤さんを殺害して、なおかつこの部屋にある証拠品をくまなく持ち出すと言うのは遠隔操作では不可能。
犯人が自らこの場にいて直接持ち出さない限りは。そしてそんな人物はこの山荘にはいない。



はぁ・・・

小さい溜息のはずが、大きく反響して聞こえる。
暖炉の火は緩やかな幾何学模様を描いて、小さくなる。
わからない。
どうもわからない。

まず、『何がわからないのか、それがわからない』。

どこに取っ掛りをつけていいのか。何から手をつけていいのか。それすら五里霧中だ。
何から・・・
そう、何から・・・

こんな時、暗闇というのは非常に役に立つ。
難解なミステリを読んだとき、いつもこうしていた。できる限り周りの明りを消して、自分ひとりだけになる。
身も心も。
そうすれば周りに払う意識の量も絶対的に少なくなる。そうなればどうなるか。絶対的に内面に向く意識の量が多くなる。
自らの抱えている謎に、そして闇に、比較的向き合いやすくなる。

深く深く、自らの深層にゆっくりと溶け込んでいき、浸透し、そして拡散する。
そんな自分の意識がまるで液体になったような、そんな感覚が好きだ。
そんな悦楽に、僕は快楽を見出した。


さぁ。我が灰色の脳細胞よ。
今私は孤独だ。正真正銘の孤独だ。思う存分はたらくが良い。


そんな時だった。
暖炉の小さな炎がゆらりと揺れた。微かではあったが、確かに何かの影響を受けて揺らめいた。
風か・・・
どこかのドアが強風で空いたのかな
そう思った。

そう、そう言えば、あの女の子名前はなんて言ったっけ・・・。そうそう新馬さんだ。新馬理緒。彼女はこう言ったらしい。

―――ドアが開いた音がした気がした


鷹梨の言う新馬さんの話では、ドアが開いたと。
・・・ドアが開いた

なぜかそれが頭に引っかかってなかなか取れない。
なんだろう、なぜか気になる。
本当にドアは風で開いたのだろうか。
だって、外は吹雪のピークを過ぎて緩やかな風に変わってきている。
だとしたらそんなに強い風が吹くとは考えられない。
それなのにこの寒冷地用の分厚いドア簡単に動くだろうか。
じゃあ何なんだ。誰かがドアを動かしたのか。
でもそれはないだろう。

新馬さんの言った時間帯とは、皆で浦澤さんの部屋に移動して遺体を発見した時だ。勿論全員が部屋にいたことだろう。
それは鷹梨も証言している。
では、誰がドアを開閉することができるだろうか。誰もできない。
じゃあその時聞いた、ドアの開く音は何だったのだろうか。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔