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凍てつく虚空

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田子さんが遠くの場所にある食事を取ってもらうとき、真壁さんに頼んで取ってもらう。その時、逆さ箸で毒を付着させ田子さんに渡す、そう言った解答でした」

「私は合点がいったけど」

「えぇ。それだけを考えれば、確かになるほど筋道が通るように見えます。ただこの時は違う。『鶴井舞さんの事件のあと』なんです」

「それって何か影響するの?」

「します。自殺であれ殺人であれ、皆さんは鶴井さんの遺体を間近で見られた。となると、必然的に食事量は減るはずです。積極的に食事を取ろうとする人は少なくなるはずです。とすると、田子さんもその例に漏れない。
おそらく、話に聞く田子さんは天真爛漫で自由奔放、そんな人間でも身近な人間が死んだ場面を見れば食欲は衰退する。なら、この事件のあった日も。そんな状態だったはずです。では何が起こるか。
自分の手の届かない場所の食事を積極的にとってもらおうとするか、という事です。多分ないでしょう。そこまでして食事をしようとする人間はいないはずです。だってほらシンクには大量の残飯が残っています。
田子さんに限らずほかの皆さんも、食事が喉を通らなかったという証拠です」

「まぁ、確かにそれはそうかも」

「あくまでこれは推測ですけどね。それに犯行声明文だってある。犯人は何故あんなものを出したのか。それも謎の一つだ。うん、あれがどうしてそこまで不思議なのかって顔をしてるね。
僕はね、あれの存在が非常に引っかかるんだよ。あれは犯行のリスクを大変伴うものだからね。無いなら無い方がスムーズにことを運べるはずなんだよ。
例えばだ、あの犯行声明文が無ければ、田子さんはもっと警戒心なくして食事にありついたはずだ。しかしあんなものが届けば、もしかしたらという気持ちが働く。ではどうなるか。
当然、食事の量が絶対的に減るだろう。もしかしたら食事を全く取らなくなるかもしれない。だって食事に毒がもられているかもしれない、誰だってそう思う。
もしこの時に食事に一切手をつけず、殺人に失敗したとしよう。じゃあ次はどうするか。これはかなり難しくなる。
自分の命が狙われていると知れば、部屋にこもって出てこなくなるかもしれないし、ずっと誰かと一緒に過ごすようになるかもしれない。そうなると殺人の機会が激減する。
犯人はそんなリスクを冒してまで、犯行声明文を出したんだ。この意味が全くわからない」

そう言うと鷹見くんは再びだまりこくった。

「まぁ、良い。とにかく話を田子さんの事件に戻そう。田子さんが食べたものは何か覚えている?」

「そこまでは。皆思い思いに好きな量食べていたので、そこまでは見ていません」

「だよね」

それだけ言うと、田子さんが座っていた椅子を立て直し座った。肘を付き、円卓の中心を眺めながら弱々しくそう呟く。

「もう一度聞くけど、誰が何処に座るかは分からなかったのか? 例えば窓際は寒くて寒がりの人は座らないとか?」

「まず無いはず。ここまでくると窓際だろうか何処だろうが寒いものは寒いし、食器も箸もスプーンも全部同じだし。特に前もって席順を決めていた訳でもないし。」

「なら、皆何処に座るかは全くのランダムだったと」

「そうなるわね」

「なら、箸やスプーンに毒を塗るって手法は取れないってわけだ。でもだったら田子さんが狙われたって訳じゃないのかならやっぱり・・・・」

鷹見は預かっていた犯行声明文をもう一度読み返す。

「・・・・・・この『追放者』って表現はおいておいて、この犯行声明文はどういう経緯で見つかったの?」

「ドアと床の隙間にあったそうです。最初に見つけたのは霧さんです」

「おやおや、また霧さんですか。その霧さんが皆に『こんなもの見つけました』って持ってきたのかい?」

かぶりを振る。

「田子さんが最初に見つけたみたい。それを霧さんに相談して預けたって聞いてる」

「ほう。まぁとりあえずこの時の事件はとある人物の意図により、田子藍那と言う人物が亡きものにされた、と。ふむふむ。そのとある人物が分からないし、その手法も見当がつかずか。まいったね」

まいったね
その言葉にも関わらず、表情は何処か嬉しそう、と言うか挑戦的な笑だった。

椅子に座ったまま、10分以上過ぎただろうか。鷹見君は徐に立ち上がる。

「じゃあ最後の部屋に案内してくれ」



*  *  *







木目の荒いドアだった。
ほんの数時間前、このドアを開けたときはそこには地獄絵図が広がっていた。
今はその面影はない。普通の部屋と何一つ変わらない。天井に括りつけられたロープも、左右に小刻みに揺れていた浦澤瞳もいない。
セントラルヒーティングで温まっているはずの部屋も、何故か叩けばキンと気持ち良い音を出しそうだった。

「ふぅむ。部屋の間取り自体は一緒なんですね」

「そうみたいですね。左右対称ではありますが、基本的な作りは私の部屋とも一緒です」

そんな言葉を聞く間もなく、鷹見くんは部屋の正面にある窓を開けた。舞ちゃんの部屋同様に冷たい風が吹きつける。
彼は今度はキョロキョロすることなく、すぐに下を見た。
何を見ているのだろうと思った。しかし疑問は杉に氷解した。

「やあやっぱり。このましたはキッチンだったか。ほら見てみな、ましたの地面の雪、手で掻いた跡がある、しかも真新しい。やはりこの部屋はさっきのキッチンの真上にあるんだ」

試しに覗き込んでみた。確かにこの二階から5mほど下には人の手による跡がついていた。おそらくは先ほど鷹見くんが雪の地面を探った時に着いたあとであろう。
でも、だからどうしたというのだろう。私にはそれが意味するものが良く分からなかった。


鷹見君は私の思惑など興味が無いように、ゆっくりと部屋の中を歩き始めた。
すぐに天井の梁の擦れた跡を見つけた。

「ここには何か吊るされていたんですか?」

「はい。つい先ほどですがメンバーの浦澤瞳さんがここにいました。すぐそこの天井から首を吊って発見されました」

「具体的な時刻は?」

「鷹見君がこの山荘に着く30分位前です」

「その時、ほかの皆さんはなにを」

「皆、キッチンで集まってました」

「キッチンに? なんでまた」

「浦澤さんが、すべての謎が解けったって。今回の謎を解決するって。そこで10分くらい待ってくれって言いました。その間自分は部屋に戻る、そこで準備をする。そして時間になったら犯人が誰かお披露目をするって」

「浦澤さん自身がそう言ったんですか」

「まぁ、多少の言葉に違いがあるかもしれないけど、でも大体同じことは言ってたと」

「で、皆さんはそのあいだ、キッチンで待機を?」

「うん」

「実際に待っていた時間はどのくらい?」

「さぁ。詳しくは覚えていないけど。20分以上、もしかしたら30分くらい待ってたかも。でも浦澤さんが全然戻ってこなくって、みんなで揃って様子を見にいった」

「みんなで揃って、その言葉に嘘偽りはない?」

「えぇ。確かに。みんなで揃って階段を昇ってこの部屋の前まで」

「ちなみに、待っている10分間から最大30分間で、キッチンを移動したのは?」

「いないよ」

「いない?」
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔