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凍てつく虚空

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「そうです。今回鍵を掛けたのは不確定要素だったんです。犯人は最初からあの部屋を密室にする予定はなかった。ただ、今回偶然鶴井が鍵をかけたからこんな不可解な状況になっただけで、実際はもっと簡単な形なんではないでしょうか」

「私は違うと思うね」

「冬香がそう思う理由は?」

「拳銃は誰が用意したのさ。犯人が鶴井舞を毒で殺そうとしたのは良い、でもあの部屋には実際に拳銃が落ちてたじゃないか。あれは誰が準備したものなんだい。犯人が用意しなかったら鶴井舞自身が用意したのか、それはちょっとおかしいよ。
舞がそんなもの用意する道理はない。じゃあ、やっぱり犯人が置いていったと考えるのが普通だし、それに舞の額にはしっかり銃で撃たれた跡が残っている。やっぱり舞は銃で殺されたんだよ」

「舞が銃で撃ち抜かれた、そう言ってもいいかのしれないわね。確かに毒殺っていう新しい見方は必要かもしれないけど、でも今冬香が言ったように、部屋に落ちていた拳銃や舞の額の銃創の件も考えると、やっぱり銃で撃ち抜かれたと考えたほうが普通ね。
でもそうすると、今度はあの密室はやはり犯人が作り上げたものと考えざるを得ないってことね。犯人はどうやってあの密室を作り上げたんだろう」

「やっぱりそこに行き着きますね」

「じゃあ、ちょっと目先を変えよう。第二の事件の田子藍那の事件について考えよう。あのときのあらましは以上になる。まず事件が起こったのは夜が明けてから次の日、皆でキッチンで食事を取ろうとなったときのこと。
キッチンに皆が集まって、食事をしていたら急に田子藍那が苦しみだして床に倒れた。抱きかかえてみてもあの子は息を吹き返さなかった。
まず食事の内容は、この山荘にあった非常食や缶詰何かをお皿に出して並べただけ。特に調理らしい調理はしていない。強いて言えばレンジなんかで食べ物を温めた程度。料理の中に毒を仕込めたかどうかは疑わしい。
そもそも料理に毒を入れれば、田子だけでなく他の人も、もちろん犯人自身も毒を口にすることになり、大変危険だった。つまりは、料理の中には毒は入ってはいなかった、ということになる。
では、果たして毒はどこに入っていたのか。これが問題になる」

「田子にだけ毒を盛るなら、一番簡単な方法は箸やスプーンなんかの食器に毒を仕込めば良い。そうすれば自分を含め毒の餌食にはならない」

「そう、ただそうなると次の疑問が湧いてくる。じゃあどうやって毒の仕込んだ食器の席に座らせるかということだ。あの時、席の座り順は特に決まってはいなかった。キッチンに来たものから順番に好きな座席に座っていった。
それも早いものから順番に奥から、ってこともなかった。本当に好きな場所に座っていた。犯人はそんななかで田子がどこに座るか分かったのだろうか?」

「無理だろうね」

「では犯人は少なくとも食器類に毒を仕込んだ、と言うことはない。なら犯人はどんな手立てを使ったのか」

「ある特定の料理に毒を仕込んだ、じゃダメですか?」

「特定の料理に?、どういうこと?」

「田子さんが率先して食べそうなものですよ。田子さんがその特定の料理を全て食べれば、毒は田子さんにしか回らないし、他の人は食べないから毒は回らない」

「そんなことあると思う? だってね、そもそもあの時は鶴井の事件のあとで、みんなそれほど食欲がなかった時期、そんな時期に田子だけが食欲があったとは思えない。それにいくらなんでも田子がある特定の料理だけをずっと食べ続けたとは考えづらい。
いくらなんでも皆、多かれ少なかれ大体の料理は食べたでしょ。そうなるとその案はちょっと信憑性に欠けるわね」

「閃いた。今の貴中の話でちょっと閃いた」

不二見さんだった。

「もしかしたら貴中の話は半分合ってたんじゃないかな。私の推理はこうさ。犯人は予めある料理の中に毒物を仕掛けた」

「それじゃあ一緒じゃん」

「まだ終わってない。で、犯人は続けて他の料理に『解毒薬』を仕込んだ。大概の人は毒の仕込んだ料理を食べても、他の解毒薬の入った料理も口にするから、井の中で中和されて死に至らない。
でも田子は毒の入った料理を食べても、解毒薬入りの料理を食べなかった。だから田子だけ全身に毒が回り死に至った。どう。これなら辻褄があってない?」

「なるほど、毒薬と解毒薬を同時に服用させるのか。そうなると出来そうかもしれないね。となるとそのトリックが使えるのは当然、食事の準備をした人間に限られるってわけだ。その時、準備をしていた人間は・・・」

「私だ」

「そして私だね」

真壁さんと知尻さんが反応した。そして

「当然、私、猪井田姫世も準備をした。犯人は当然この3人の中の誰かってわけだ。」

一瞬、メンバー是認の視線が首脳陣3人に集まったが、ぜも猪井田さんはどこ吹く風だった。

「確かに未里の案では、うちらの中の3人が犯人かもしれない。でも、言わせて欲しい。あの準備の中で毒を仕込んで、しかも解毒薬まで仕込むのは至難の業だ。人数がただでさえ少ない3人で、しかも一人で全ての準備をするとなるとこれは大きな仕事だ。
それを他の2人に気づかれることなく用意するのは極めて困難だ。ちなみに、冬香、マリア、2人はそんな不審な行動を見たかい?」

2人は揃って否定する。

「あの限られた状況で毒薬と解毒薬を用意するのは困難kつ危険極まりないよ。それにもしそれが叶じてできたとしても超えなくちゃいけない壁があるよ」

「何ですか?」

不二見さんの不服そうな返答だった。

「私たちはずっとキッチンにいた。調理時間こそ短いものの、どんな食料があって、どこに調理器具があるのかなんかを調べながら調理していた。思いのほか時間がかかったわけだ。その間、私たち3人はずっとキッチンにいた。
だったら田子の部屋に送られていた犯行予告文はどうやって出したって言うんだい?」

その質問に不二見さんは口をへの字に曲げた。
確かにそうだ。猪井田さん、真壁さん、知尻さんは話によるとずっとキッチンにいた。とすると二階の田子さんの部屋のドアの隙間にあったとされる犯行予告文は3にんの誰も出せなかったことになる。
状況から考えて、毒を持った人物と犯行予告分を出した人間は同じはず。では、この不可能な状況をどうやってクリアしたのだろうか。

「ちょっと未里の案も実行は可能かもしれないけど難しいな。もっと他の案はないかな?」

今度は知尻さんだった。

「やっぱりあれじゃないかな、食事の席で毒を盛ることが難しい以上、毒を仕込んだのは料理じゃない、ほかの食べ物。田子や霧はおやつを沢山持っていた。その中に毒を仕込んでおいた。所謂、遅効性の毒。飲み込んでもすぐには吸収されず、
数時間経って効果が出てくる、そんな毒を仕込んだんじゃないかな。これも考えようだけど、犯人は必ずしも食事の席で田子を殺害しなくちゃいけわい、って訳じゃなかった。それこそいつでもよかった。
予め、そうだな最終日の公演が終わった直後か何かにあいつの荷物に近づいておやつに毒を仕込む。ビスケットでも飴玉でも良い、とにかく口にするものの中のどれかにこっそり毒を仕込んだ。
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔