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凍てつく虚空

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猪井田さんの背後で、一本の腕が起き上がる。
不二見さんだった。
顔を渋らせながら、しかし何処か納得したような表情だった。

「そのことで一つ気になる箇所が。発言よろしいですか。」

「なに、反論?」

「反論、ってほどのものじゃ無いんですが、今まで少し気になっていた事です。と言うのもこの山荘の電気の事なんですが」

「電気? この明かりの事? それがどうしたっての。」

「あれ猪井田さん、最初に入ってきたときにおかしいなって思いませんでした。そもそも何で電気が通っているのかって。」

そこにいた全員がはっと顔を上げた。視線が不二見未里に集中する。

「最初、誰かがここに住んでいるのかなって思ってた。けど猪井田さんの話曰くこの山荘の持ち主って死んでしまっているんですよね。
だったら普通、電気とかガスとか水道とか止めません? なのにこの山荘は全て通っていた。私はずっとおかしいなおかしいな、って思ってたんです。
そこで今の愛ちゃんの話で、ピンときました。
この山荘、私たち以外に誰か住んでるんじゃないですか?」

「ここに、誰か知らない第三者がって・・・?」

「そうなりますね。もしかしたらその『黒川影夫』さんの遺族の方か、あるいはそれに近い人物。例えば口座を管理している人とか。
そう言った人が、勿体無いからってこの山荘を引き続き使っていたとしたら、この山荘に私たち以外の人間がいても、さほどおかしくない。
むしろ、今まで電気や水道が通っていることを考えると、可能性は高い、そう思いませんか猪井田さん。」

「でも、じゃあどうして二人が狙われなきゃいけないの。確かに無断でこの山荘に入ったことは失礼かもしれないけど。」

「可能性を考えるのなら、こうも考えられます。その新しい山荘の持ち主は、何か世間にはばれてはまずい秘密を持っていた。
例えば何か大きな犯罪に手を染めていたか、それとも大きな借金をして借金取りから逃げるためとか。そう言った止むにやまれぬ事情を持ってここに移り住んでいたのに、
何故か見知らぬ団体がずかずかと上がり込んでしまった。もしかしたら私服警官か、新手の借金取りか、そう思った持ち主は自らの生命を守るため、犯行に及んだ。
どうです。考えられないことは無いでしょう。」

「それって現実味があるかしら。第一、何処に隠れているっていうのよ。この山荘内は結構散策したわよ。」

「現実味の話をしたらおしまいですよ。私はあくまで、猪井田さんが『この山荘には私たち以外の人間はいない』って言葉に疑問を投げかけただけです。
それに私たちはこの山荘についてまだ数時間ですよ。もしかしたらこの建物の何処かに隠し扉でもあるかもしれませんし。」

「隠し扉、ねぇ・・・。」

「そうすれば、二人は自殺ではなく、かと言って私たちの中に殺人犯がいる訳でもない、と言う事実を主張できます。」

「ただそうなると、この山荘内に私たちも知らない謎の殺人犯がまだ徘徊しているってことになるわね。
ふむ、まぁ良いわ。この話をこれ以上してもキリが無いわ。どんな話し合いをしても『可能性』とか『推論』の域を脱しないし。」

猪井田の言葉に、知尻も相槌を打つ。

「それは言えるね。もしこれが自殺にしろ殺人にしろ、私たちにできることなんて何もないよ。兎に角、麓から助けが来るあと数日間のために、
体力を温存していくことが先決だと、私は思うね。」

同感、と浦澤。




*  *  *



カップからは湯気が立ち上っていた。
コーヒー独特の香りの向こうから、知尻さんが話し出した。

「未里、さっきの謎の闖入者説、あれ変じゃない?」

同様にコーヒーカップを傾けていた不二見さんは、その動作を止める。

「あれ。気付いてました?」

「まぁね。普通は。」

「変? さっきの話に何か変な個所ってありましたっけ。この山荘に電気や水道が通っている事とか、上手に説明がついてましたけど。」

私は聞いてみた。

「でも、藍那の部屋にあの文書が挟まっていたのはどう説明できる? あの内容を書くのは、少なからずこっち関係の人間でないと。」

「そうか愛、本人が亡くなった手前こう言うのもなんだけど、田子さんに『追放者』って言葉を普通の人は言わないよ。」

理緒が理解の足らない私に補足を入れてくれる。
確かにそれもそうだった。おまけに、そもそも文書を用意してくる方がおかしい。
前もって準備しておかなくてはいけない。

「そう。そうなると少なくとも文書犯がいることになる。」

猪井田さんは改めて厳しい目つきになる。
今はまだ決め手が無いが、いずれ制裁を加えるつもりであると言う意思の表れのようだ。
するとそこへ、隣に座っていた冬香さんがゆっくりと喋りだす。

「少し話が逸れるけど良い? 何で犯人は藍那ちゃんにそんな文書を送ろうと思ったのかしら。」

「さぁ。それこそ前日に喧嘩して、ちょっと仕返ししてやろうって思ったのかもしれないよ。」

「でも、いくらなんでも舞ちゃんが死んだその翌日にするって言うのは、やっぱりどう考えてもおかしいと思うんだけど。」

「廻りくどいね。結局冬香の考えは?」

「この犯人は前日に舞ちゃんが亡くなった事を受けて、こう言った文書を出してるって考える方が自然だと思うの。つまり圧倒的に危害を加えようとする意思が見える。
これって並大抵のことじゃないでしょ。仲間が一人死んで、それだけで大きなショックを受けてるのに、そこから更に悪意を持って実行できる。
異常だよこれは、普通ならできない。でももし、予め『鶴井舞は昨晩のうちに死ぬ』って解っている人間がいたら。
私もまだ半信半疑だけど、もし愛ちゃんの説を真に受けるとしたら、この文書犯こそが舞ちゃん殺害の実行犯って言いかえることが出来ると思うんだけど。」


大きく突飛過ぎる

と、誰も口にすることはできなかった。
考えてみれば最もだった。昨晩、鶴井舞の死を含めて様々なトラブルが乱立したあの晩、誰が仲間を更に追い詰めようと考えることが出来ようか。
普通はできない。頭の片隅を掠ろうともしない。
しかし、しかしだ。

―――最初から鶴井舞を殺そうと思っていた――――

そんな人間がいたのであれば、実行は可能なのかもしれない。
寧ろこのトラブル続きで、混乱しきった人間一人など造作もなく殺すことが出来るのかもしれない。
あの時、皆と一緒にただただ憔悴しきっていた我々に混じって、只一人は内心ほくそ笑んでいたのかもしれない。「上手く行った」と・・・。

「じゃ、じゃあ藍那も自殺じゃなくって殺されたって事なんですか!」

「落ち着け霧。あくまで仮説の段階の話だ。そもそも殺人なんて無かったって話も考えられる。」





*   *   *








私はベッドに横たわる。
明かりはない。あるのはナイトテーブルのライトだけ。それで充分だった。
柔らかなベッドの上で腹ばいになりながら、『黒川影夫』の小説を開く。
タイトルは『不可侵な聖域』だ。
ページを一つめくる。
そこは、懺悔の言葉から始まっていた。


―――私は、最悪を犯してしまった

今までにない物語だった。


―――私は人間を殺してしまった

え?
作品名:凍てつく虚空 作家名:星屑の仔