凍てつく虚空
誰もが一瞬で連想させるほど、その表紙は歪であり、そして毒々しかった。
その表紙には『地獄の死神』と刻印されていた。
―――――――――― 東洋・西洋においてもそのイメージは大きな鎌を持ち合わせている
―――――――――― 生命の『死』を司ると言われている神
―――――――――― 冥府においては魂の管理者
―――――――――― 頭からすっぽり被った黒装束に髑髏姿
―――――――――― 多くの神話に登場し崇拝の対象となる神に相反する神
―――――――――― 幻影のような存在でその鎌を振り下ろせば必ず1人の魂を取ると言われている
―――――――――――― それが、『死神』
何処からともなく、そんな声が聞こえたような気がした。
私は、かつて温かみを持った人間が座っていた椅子に腰かける。
過去の温もりなどある筈もない。
スタンドライトのスイッチに手を掛ける。
その1ページ目を開いてみた。
物語はとある閑静な住宅街だった。
この住宅街では時折、女子高生が忽然と消えてしまうと言う行方不明事件が起こっていた。
そこに登場したのが、高校二年生であり、このたび転校してきた主人公『北條士郎』。
ミステリ小説を貪るように読みふけり、探偵というものをこよなく愛している北條は、さっそくこの女子高生行方不明事件の謎を追い始める。
消えた女子高生同士、何の接点もない。高校も違えば同じ部活動に属している訳でもなく、そもそも面識が無い人ばかりであった。
ただひとつ共通点があるとすれば、姿を消した場所が皆同じ場所であった、と言う点だけである。
その地点で捜査を行っていると、地元の小学生の間で奇妙な噂話が蔓延していることに気付いた。
それが、
『死神が現れる』と言う類の噂であった。
北條はギクリとする。
何故かは解らない。しかし何かあると北條は思っていた。
現在の北條には両親がいない。幼い日に両親を二人とも亡くしてしまっているのだ。その為、現在では親戚の家から学校に通う事になってゃいるのだが、
何故か両親が亡くなる前後の記憶が、全くと言って良いほど無いのだ。
今まではどんなに頑張っても、その封印された記憶を呼び起こすことが出来なかったのに、今回は何か手ごたえがあった。
そしてここから北條士郎の過去の話とリンクし始める。
女子高生連続失踪事件の真相は?
死神が現れるとは?
北條士郎の記憶とは?
ストーリが進むにつれ、謎が加速度的に増えていく。
水と油の用に、一見するとお互いに混じり合わない話が、しかし螺旋の渦を巻く様に一点に収束しかけていく。
壮大なストーリなのに、そのスピーディな展開に、思わず時間が経つのを忘れてしまう。
その時だった。
カタッ
音がした。
背後からだ。
心臓が早鐘になる。
私は、反射的に身を翻す。
弱々しい蛍光灯の光は、部屋を隅々まで行きわたらない。
入口付近は特に、昼間でもほの暗く陰鬱な雰囲気を出す。
まるでそこから異次元の何処かに繋がっていそうな、死神でもひょいと顔を出してきそうなそんなドア。
しかしドアから顔を出したのは、理緒だった。
「愛、あんたこんなところで何してるの?」
「え、あぁ、ちょっとね。時間があったから本でも。理緒はどうして?」
「猪井田さんたちに呼んで来いって。ご飯の時間だよ、一応。」
* * *
私たち全員はロビィ脇のキチンに集まっていた。
と言うのも、流石にメンバー皆が空腹を覚えたからであった。
地方公演の全日程が無事終了し、ろくに食事もとらないままバスに乗り込み、その後この山荘に漂流してからと言うもの食べ物らしい食べ物を一切に口にしていないのだ。
丸半日以上空腹状態が続いていた。ただ昨晩の鶴井舞の事があり、一時的にそれを忘れていたのだ。
事態が取り敢えず収束したのに従って、生理的欲求が出て来た。
「取り敢えず、軽めの食事しないと。皆の身体が持たないよ。」
猪井田さんの一言だった。
幸い、キッチンには一通りの調理器具や材料もあった。
手に寄りをかけた料理とは言えないが、真空パックの乾パンや、野菜や果物の缶詰を取り出す。
キッチンのすぐ隣のスペースには大きな円卓と人数分の椅子もある。
私たちは、そこに座り沈黙の中食事をすることとなった。
新 浦
馬 澤
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鷹梨 | |田子
| |
← | |
ロ | テーブル |
ビ | (見た目は四角形ですが |
ィ 知尻 | 読者の皆さんは円形だと |霧
| 考えてください。) |
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真壁 | |貴中
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猪 不
井 二
田 見