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ふたつ

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キミが、リビングへ行った気配を感じ、ボクもリビングへと向った。
キミは、珈琲のはいったマグカップを両手に持ち、キッチンへと向かうところだった。
「冷めちゃった」微笑んで言った。
「うん、そうだね」
キミは、キッチンで片手鍋に移しかえると、ガスレンジの火にかけた。
僅かな量の珈琲は、すぐに熱くなった。
「今度は、あちあちだよ。気をつけてね」
両手に湯気の立ち上るマグカップを持って、キッチンから出てきて卓袱台の上に置いた。
「ありがと」
だが、すぐに口をつけるには、あまりにも熱そうに見えた。きっとキミもそう思っているのだろう キミもまだ口をつけはしなかった。
ふたりの間に沈黙が流れる。少し香りの飛んだインスタント珈琲の匂いが漂っていた。

ボクは、仕事場にしている机のところに行った。机の上は、出かけたときのままだ。原稿用紙と万年筆と一緒に置かれたキミの手袋を手に取った。
「もうすぐ 手袋も要らなくなるね」
ボクは、キミに手袋を渡すと、横に屈んだ。キミが、何か言いたそうに見えたから尋ねた。
「どうした?」
「うん。一度 家に帰ってくる。お父様ともお話ししてくる」
「そう」ボクは、かける言葉もなく、自分自身も何かを納得させるように何度も頷いた。
(だいじょうぶ)キミの唇がそう動いたように見えた。そのあとは、いつもの笑顔だった。

キミは、そんな口元を隠すように マグカップの珈琲に口を付けた。
「あちっ」
ボクも飲んでみたが、さほど熱くはなかった。照れ隠しなのか、猫舌なのか…… やっぱりキミは 猫舌の方かな 『にゃん』ボクも一度言ってみたかったが、心で呟いた。
「おなかは空いてない?食べに出ようか?」
ボクとキミの意見は一致して、食材を近くの店へ買出しに行くことにした。
ボクは、着替えをして 玄関で待つキミと一緒に外へ出た。

ずっと部屋に居ることばかりだったボクは、此処最近は、アウトドア派のようだ。
少々、意味が違うようだが、何となくそう言いたくなるほど、キミと出かけることが楽しくなっていた。
作品名:ふたつ 作家名:甜茶