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D.o.A. ep.44~57

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――――しかし、それは、突然の突風に、阻まれた。
「え、――――ッう!!」

容赦なく吹きつけるそれに、ジャックは眼をぎゅっと閉ざして必死に踏みとどまる。
遮蔽物が何もない高所とはいえ、明らかに、自然に吹きつけた強さではありえない。
なぜなら、その突風は、あきらかに――――少年から発せられたものだった。

離れた場所にいたジャックでさえそうなのだから、予期せぬ風を至近距離で受けライルにのしかかっていた巨躯が怯むのは道理だ。
人の数倍の重量は簡単に吹き飛びはしなかったが、同時に放たれた蹴りがレオンハートを浮き上がらせる。
自由になった手で剣を握りしめ、反撃を横に薙ぐ。――――得たのは、確かな切れ味。
もう一撃加えようとする寸前、その体躯にそぐわぬ俊敏な動作でライルの上から跳び退いた。

『…まだ、足掻くか』

レオンハートの胸元は一閃で切り裂かれて、傷は血を滴らせている。
やがて風は弱まり、吹き荒れた砂塵を警戒して恐る恐るジャックは目を開ける。

獣と少年の対峙。
五間ほどの距離の間は、しかし何者をも立ち入ることを許さないほど張り詰めている。
手負いの二人の視線は、ただ相手だけをまっすぐすぎるほど射抜く。
やっと一矢報いたと目を眇め、口内に溜まった血を吐き出して、ライルは息を整える。
あれほどの手傷を負っているというのに、彼の気迫は衰えず、むしろ今までのどんな姿より雄々しかった。

「流される俺を、憐れむと…そうお前は、言ったな」

にわかに何を言い出すのかと、レオンハートは虚を突かれる。
立ち上がって、彼は利き手でにぎった得物の先端を相手に向けた。

『…言ったとも。貴様は、自分がどんなモノなのか、まるでわかっていなかった。
お前が何を求めても、その呪われた身では報われはしない。
ソレを知らずにいきつづけてきた貴様を、私は憐れむ』

故に、殺すのは、慈悲でもあるのだと、低くレオンハートは唸った。
それにライルはかぶりを振って否定する。

「なにも知らなかった、今だってほとんどなにも知らないようなものだと思う。それは認める」
『ならば知った今、貴様はその生を終わらせろ。それこそが、無知のまま流されてきた貴様ができる正しい選択』

金色の獣は言い迫るが、撥ね退けるつもりしかないことは、淡い緑が雄弁に示す。
向けられた切っ先はまるでぶれず、それが少年の意思を表すようで―――たまらなく不快だった。

「――――それでも、俺の決めたことだ。戦うと決めたことも、取り戻すと誓ったことも、全部そうだ。
俺は流されてきたんじゃない。選んだ道を、走ってきただけだ。それは、これからもずっと変える気はない。
俺の人生は、誰にも決められていないし、お前にも、誰にも憐れむ権利なんかない」
『…もはや何を言っても徒労か』

底抜けの愚か者をあざ笑うように、レオンハートは吐き捨てる。
もはや言葉を交わす必要などないと、跳躍するべく、後ろ足でつよく地を踏みしめる。
闘志はライルからも伝わってきた。ただ、その表情はやけに、穏やかに凪いでいる。
それは、追いつめられた者の諦念ではなく、

「お前の言葉が、その覚悟をあらためさせてくれた。
…だから礼を言う。これで俺はもう、誰に否定されても、迷わずにいられるから」

これから何があろうとも揺らがぬ、という、「レオンハートの先」を見据えた、覚悟の貌。
レオンハートにとっては憎悪を沸きあがらせるような、完全に開き直った態度だった。

『戯れ言を!貴様の未来は決まっている、この私のようにな……!』

吼えた。
しなやかに襲いかかる獣に、少年もためらうことなく応戦する。
全身を武器とするレオンハートと、ライルの剣が、幾度も交差した。
その都度、彼らは傷を負い、血を流し、しかし、双方膝を屈することはない。
どちらかが斃れるまで。あるいは、どちらかが諦めてしまうまで。
たとえライルが剣を失っても、レオンハートが牙と爪をたたき折られても、終わるまい。
相手の意志をねじ伏せる、これはそんな闘いであるから。
おそろしく、激しい潰しあいだ。
目を覆いたくなるばかりの血まみれのそれを、しかし、ジャックは見届けたいと思った。
その闘いを、やがて緑と黄金の、光に幻視する。
互いの光を食らい尽くしてしまうために、ぶつかり合いはより苛烈さを増していった。


作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har