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D.o.A. ep.44~57

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「―――ッ、ま、待て!止まれ!!」

びくりと肩をはねさせ、ネイアは急停止した。
恐る恐る、滝の隙間を少しだけのぞいた。
眼下には、轟々と水流が叩き落ちる滝壺が口を開けている。
そして、もう少し視線を上にやれば、交戦中の親しんだ顔がいくつも。
「父さん…」
アントニオ船長は、率いる三人と力を合わせて、半透明の獣を退けようとしていた。
そして、それはどうやら苦戦しているらしい。斬っても突いても叩いても、それらは再び姿を現すのだ。
ジャックが、ずい、と彼女の横にならんで外の様子をうかがう。
「やっぱり無事やった…でもなんや、少ないな…」
「みんな!ウチ、ここにいるッ!ここにおるよ!」
ネイアは声をふりしぼるも、滝の音と戦闘中であることもあって、彼らは気づかない。
対岸に通ずる道はあるにはあったが、小心者なら気後れしてしまいそうなほど細い。が、行くしかない。
「お嬢、俺が先に行くんで…、無事に行けたらきてください」
人一倍運が悪いのに、人一倍注意力の足りないジャックが名乗り出る。
ティルには嫌な予感しかよぎらなかったが、彼は壁伝いに遅々と冒険しはじめた。
途中、頭上でも何かが起こっているらしいことに気づき、首をかしげながら何事もなく渡り終える。
戦闘中であるアントニオ船長も、そこまで近づけばさすがに彼らの存在に気がついてぎょっとした。
「お…お前ら、そんなトコから…っ」
「また心配かけてすんません、船長。お嬢も無事です。ね、お嬢…」

彼は振り返って、そして頭上の気配の正体に気がついた。
崖の上で、戦いを繰り広げる二つの影。
見てしまった瞬間、目の前が真っ暗になるような心地がした。
岩壁に拳をたたきつける。
やはり、彼らはこうなってしまう運命だったのか、と。

「………」

唇を噛みしめ、自問する。
自分はどうしたいのか。自分はどうすればいいのか。自分はどうすべきなのか。
早く結論をだせ、間に合わなくなるぞ、と急かす自分と、お前にできることなんてなにもない、無駄だ、と諦めたがる自分がいた。
だから、その身に迫る危機にも無頓着だった。
ジャックは知る由もないが、レオンハートの分身は、「崖上の戦いを邪魔する」と判断したものを襲うのである。
はっとした時にはすでに半透明の巨躯が、彼のすぐ傍にあって今にも飛びかかろうとしていた。
ネイアとティルが大急ぎで対岸へ渡る。けれど間に合う距離ではない。

刹那、彼の視界に赤毛の男が躍り出る。

「チェエエェエ――――ストォォォオオ!!!」

奇っ怪な雄叫びを上げて、その男は長い得物―――槍を振りぬいた。
穂先は半透明の体を薙ぎ払い、霞のような太い胴を両断する。
それはばったりと倒れ、空気に溶けるように消滅した。


作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har