D.o.A. ep.44~57
「あんた…災難に出遭う天才か」
「返す言葉もナイデス」
草深い密林を恐々と進むジャックが、またもや才能を発揮した。
何かの拍子にはまり込んだくぼみにつんのめり、先を行っていたティルが、またもやとばっちりに遭ったのだった。
もう少し描写を尽くすと、転ぶ直前にティルの上着に縋り、いきなりのことで受身も取れなかったのだ。
更に、不運はそれだけにとどまらない。
思い切りずっこけたジャックの衝撃が引き金となったか、その足場がなぜかガタガタと揺れだしたのだ。
あっと気づいたときにはもう遅い。
突如、泥濘は底が抜け、二人は落とし穴にはまったかのごとく落ちた。
落ちながら、またか、とティルはいっそ笑い出したいような心境になっていた。
日頃の行いについて回想してみれば、まあ良いとは言いがたいかもしれない。
しかし、もはや彼がもつ素質は天賦かもしれないとあきれ果てる。
いわゆる、他人をいろんな意味で巻きこむ才能。
それでいて、彼には悪意は一切ありはしないのだから、始末に悪かった。
恐らく、こういったふうに巻き添えになった者が、海賊団にも数多くいるに違いない。
しかしながら、何をやらかしてしまっても、誰も本気で疎んじたり、心底憎んだりできない。
そういう人間は確かにいて、ジャック=ルドとは、そんな男なのだろう。
「光あれ(ライティング)」
落ちた時間はものの数秒に過ぎなかったため、大事に至ることはなかった。
呪文をつぶやき、手のひらから光の玉を生み出して放り上げれば、そこは空洞だった。
仰げば、遥か頭上には穴が開いている。
落下と洞窟、実にうんざりした。
顔を泥で汚したジャックが起き上がり、爪先立ちで並ぶ。
「お…俺ら、こんな場所で誰にも気づかれんと…このまま…?」
最悪の未来図である、二人分の骸骨を想像して、ジャックは震え上がった。
「道はある」
否定して、ティルは光球をあやつり、前方を照らし出す。
光球は限りある範囲しか明るみにはしてくれないので、先は見えない。
されど、ここで立ち止まっているより、前進したほうが有益ではあろう。
「徒労に終わるかもしれないが」
「んなことないって。何か希望見えたら、ええ結果信じよう。幸運って、そーやって引き寄せるもんやって、俺は信じてる」
「楽天家だな」
「ポジティブシンキングゆーて!」
からからと笑って、ジャックは勇んだ。
しかし、ふと、何かに気づいたのか、三白眼を大きく開く。
「ん?ティル君、それ…って」
彼の視線を追う。
落ちたときに引きずったらしい。肩から二の腕にかけて、上着が破れて素肌が覗いていた。
「……入れ墨?」
「………ッ!!」
途端、ティルにしては随分と取り乱したように顔をゆがめ、肩口を覆い隠した。
ジャックは面食らっていたが、次第にわかったような顔でなるほどなるほど、と頷きだした。
いったい何をどう解したというのか。
訊いてもいないのに、彼は推理を披露しはじめた。
「はっはぁん、わかったで〜。さては、そーゆーオトシゴロに、ノリと勢いで刻んだ、消えん黒歴史っちゅうヤツですなぁ?
アカンでー、親からもらった大事な体に、わざと傷つけるようなコトしたら」
「…そういう事にしておいていいから、他言はしないでくれ」
黒歴史などという単語は初耳だったが、どうせろくな意味ではあるまい。
そうして話を切り上げ、光球と共に彼らは進みはじめる。
空洞は細く、長かった。
徐々に道幅は広くなり、仮に両手を二人で広げたとてあまるほどになっていく。
――――やがて、遠くのほうで、水の音がした。
作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har