D.o.A. ep.44~57
「なんや、部下がすこぶる世話になったみたいやなぁ。
部下が受けた恩は俺の恩も同然や。とりあえずネイア、茶ア頼むわー」
あの後、ジャック祝お帰り会でも開きそうであったところ、船長の鶴の一声で再び作業が再開された。
そのあいだ、ティルとライルの二人は、お嬢と呼ばれた少女と、船長に、大きな船の中へと招かれるはこびとなった。
ちなみにジャックは、下っ端ごときが戻ったばかりと特別扱いなど受けられるはずもなく、仲間とあくせく働いている。
通されたのは、あの荒削りな船の中とはおもえぬ豪奢な一室だった。
腰かけている真紅のクッションの広いソファは、やわらかくてふちの細工もきめ細かく、金があしらわれている。
品のある調度品も、壁にかけられている絵画も、出された茶も、すべて一級品であることがわかった。
よほど儲けがあるのだろうか。いったい、ジャックは、彼らは、何者なのだろう。
出された茶をちびちびとなめるようにしつつ、正面にふんぞり返っている船長を観察する。
初対面ではひげと眼帯に目がいったが、身につけているものすべて、仕立てがいいのだと見てとれた。
船長は茶をぐびりと飲み干し、陶磁器のカップをテーブルに置く。
「俺はアントニオ=ネイラ。こっちは娘のネイア。乗組員みんな合わせて海賊団やっとる」
「海賊…」
山賊の、海版みたいなものか。
海ゆく人々を襲って、金品を巻き上げる、そういうかんじの。
―――――つまりは、反社会的組織。
「誤解すなや! ウチらは同業者以外に手ェ出したコトないし、それ以外は持ち主おらんお宝しかいただいてへん。
これも、それも、あれも、みーんなまっとうなヒト襲って手に入れたモンちゃうんよ!」
「はは、同業者からいただいたモンは、もともとまっとうなヒトから奪ったモンやがなー」
渋い顔をしかけていたのを察知したのか、お嬢ことネイアはそう主張するが、アントニオ船長は特に善人ぶるつもりはないらしい。
「はー、しかし、ジャックなあ。もう二度と生きて会えんと諦めとったわ。よかったなァ、ネイア。お前も礼ゆうとき」
「べ、別に心配なんかしてへんゆうてるやろッ!」
見ている側としては、彼への好意はまるわかりであるが、ネイアはあくまで否定して茶請けの焼き菓子をかじっている。
親子になまあたたかい笑みをむけつつ、ふと、壁に貼られた地図に目が吸い寄せられた。
地図といえば、ライルは他の国の存在こそ知ってはいるが、図面としては知る必要もなかったので、ロノアの地形しかわからない。
今いるこの島は、地図のどこにあたるのだろう。
どれが、本来着いているはずの、レニシアなのだろう。
そして、帰るべき故郷は。
作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har