D.o.A. ep.44~57
「おま…ル、ルドなんか!ほんまに!?オバケとかやのうて!?」
「ちゃいます!なんとか生きとりますナジカせんぱい!」
「うっわあ、もうどこぞで海の”もずく”になっとる思てたわ!よう生きとったもんやなー」
「悪運の強いやっちゃ…。ぼくお前がくたばったほうに賭けてたのに、どないしてくれんの」
「その悪辣さがなつかしくて胸に沁みますエルマンせんぱい〜」
「お嬢が毎日毎日お前のことばっかしで、おもろなかったんやろ。な、エル?」
とびついていったジャックを中心として輪ができはじめる。
船上にてこまごま動いていたものも用事を放り出して、船縁から呼びかけて口笛や手を振っていた。
ほうぼうから軽く肘でつつかれたり殴られたりのしかかられたり、されど可愛がられているようであるのが、遠目からも伝わってきた。
みんながみんな、わいわいと、ジャックと同じ軽快な訛りで口々にしゃべりたおしている。
訛りがひどくてなにを言っているのかよく聞き取れないものもあったが、とりあえず結論としては。
「…知り合い、か…?」
「みたいだなぁ……」
つい最近、ジャックから島に流されてくる前の話を聞いたことがあった。
家族のような大所帯で、船旅をしていたが、嵐にあって遭難したのだ、と。
帰りたいと寂しげに笑った矛先が、彼らであったのか。
「…よかったな、本当に」
ライルは自然と笑みがもれる。
その呟きを聞いたのか、囲まれてもみくちゃにされていたジャックは、はたと相好をひきしめた。
「みんな注目ー!」
ライルとティルの真ん中に立ち、両腕を思い切り後ろからまわして二人の首をしめる。
「きいてくださーい、俺、この二人にめッちゃ世話になったんですわ!ライルくんとティルくんゆーて…」
その時、二人の人物を乗せたボートがゆっくりと浜辺にたどりつく。
二人を紹介しようとしていたジャックだったが、思わず息をつめ、その隙に彼らは腕からのがれた。
へらへらしていた顔つきを緊張を帯びたものへ変えて、降りてくる二人を直立で迎える。
一人は筋骨隆々とした、眼帯に濃いひげの中年男性。もう一人は、赤いバンダナで髪をまとめた、凛々しい顔立ちの少女。
「…ジャック?」
少女の声が、信じられないものを前にしたように低く上擦る。
「ジャックなん?ほんまに、ジャック…?」
それに応えるように、彼は海兵がそうするような敬礼をして見せた。
「ホンマのホンマに、下っ端船員、ジャック=ルドっすわ!オバケ疑惑があったとこやし、お嬢も触ってみはる?」
「…っこの、あいかわらずのドアホ…ッ!」
少女はためらうことなく砂地をけり、手を広げていたジャックの胸にひしりとすがった。
それに、明らかに羨望と嫉妬が集中したが、当の彼はそれを気にする余裕はない。
少女は、健康的に焼けた肩を時折しゃくりあげて、胸の中でさめざめと泣いていたのである。
「すんません、お嬢。えらい心配かけてしもてたって…」
狼狽でおろおろしながら肩に手をかけたとき、不意に足が払われた―――と認識したが最後。
「げぐう!?」
次の瞬間には、つぶれたカエルのような鳴き声とともにぶん投げられて、どういうわけか砂地に上半身突っ込んだ惨状ができあがっていた。
「し、心配なんかしとらんわ!こののうみそパー!うすらとんかちッ!!もっぺん海に落ちてまえッ!」
耳から首筋まで真っ赤に染めて、お嬢はひとしきり罵詈雑言をたたきつけると、涙をぬぐって小舟まで戻っていってしまった。
「ダイジョーブかージャックー、おい、だれか助けたれ」
ひげの眼帯男がニヤニヤとあごに手を当てて呼びかけると、ナジカ青年が仕方なしに砂から引っ張り出してやっていた。
口の中に砂が入ったらしく、ぺっぺっと舌を出しながら服を払う。
身なりをひとしきり整えると、ジャックはさっきとは違った、敬愛と全幅の信頼を置いた双眸で、背筋を伸ばす。
「船長。ただいま、ジャック=ルド、もどりました」
正面の男は、そんな彼の所作ひとつひとつを見つめ、ふうと長い息をついて、嬉しくてたまらないように目尻のしわを深めた。
「これも、ソル神のおみちびき。よう生きとったな…、おかえり、ジャック」
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作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har