D.o.A. ep.44~57
――――――おもわず、圧倒された。
その船は、ただひたすらに、威容があった。
新品とは程遠い外観は、いくつもの傷と凹みが、万里の波濤を越えてきたであろう磐石さと力強さを匂わせ、人にたとえれば歴戦の猛者のようだ。
ライルが今までで、尊敬のまなざしをむけた船は、ロノア海軍の船隊だけである。
あれほど立派な船たちは、きっとほかのどの国にもない、とひっそりと誇りに思っていたりしたものだった。
あの船団の、洗練された形状、列をみだすことなく美しく波を駆っていく情景、そして。
「国」にしばられているがゆえに、誇りたかく規律ただしく、それでいてどこか女性的なやさしさをもっているのは「守る」ための船であるからだろう。
しかし、この眼前にそびえる大船は、そのようなものが一切、感じとれない。
何物にもしばられぬがゆえにどこへでもゆけ、荒削りで整っておらず、そして冒険を生き甲斐とする、自由なる「攻め」の船であった。
こんなもの、そんじょそこらの商船であるはずがない。
マストの頂上に陣取るは、黒地に短剣を咥える骸骨をえがいた、うす汚れた旗。
そのシンボルが、より一層、この船の印象を男くさくさせている。
「うわ、すごいな…ロノア船隊の旗艦とはりあえそうだ」
船上でせわしなくはたらく乗組員たちは、10や20では数がきかない。
ティルの言葉のとおり、樽や木箱を担ぎ上げ、次々と小船に載せられ、浜辺へと運ばれてゆく。
エネルギッシュなかけ声と、筋骨隆々とした男たちがひしめく船上をしばらくしげしげと見つめていた。
すると、同じくとなりでぼんやりと船をながめていたジャックが、
「………こんなことがあって、ええんか…!」
なにか、いたく激情にうちふるえた様子でカッと眼を見開く。
直後、一目散に、浜辺で荷物の処理をしている乗組員たちのもとへ、つんのめる勢いで疾走していった。
ライル、さすがのティルでさえもその奇行にぎょっとし、なにをやらかす気かとその後を追っていく。
「みんなぁあ―――!俺や、ジャックですーッ!!」
そのまま顔から砂地にずっこけたが、すばやく起き上がった。
ぶわっと滂沱の涙を流して、乗組員の一人、背格好のちかい青年に組みついている。
作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har