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少年少女の×××

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第弐話



學校。すべての種族が分け隔てなく共学する學校にしがない人間、水ヶ谷蓮は進学した。

蓮の予想はことごとく当たっていた。
歓迎会には校長の長ったらしい話から、吹奏楽部の演奏、それぞれのクラスの担任と副担任の紹介。いい加減にパイプ椅子の固さが尻にダメージを与えてくるくらいだ。何度か座り直しながら何とか耐えているとやっと最後の項目になったらしい。
「それでは最後のプログラムになります。生徒会長、副会長の挨拶です」
ずいぶんと変な風にプログラムを組んでいるような気がする。
生徒会長と副会長が壇上に現れ、一気に会場の空気が変わった。
まるで『美』という言葉が彼のためにあるかのように、彼から生まれたかのように、そしてとても生きているとは思えないくらい美しかった。
〈無駄なものは排除する〉
第一声とは思えないほどの傲慢な言葉に背筋が凍るような威圧感。それがこの學校の生徒会長、『デェージャル・亜朱・ガナット』だった。亜朱という名前は日本用の名前ということらしい。
〈無駄なものは排除したからこそ、我らの種族はここまで繁栄してきた。貴様らもせいぜい『無駄』にならないように努力しろ〉
ここで礼もせずに壇上から消えていった。傲慢という言葉が皆の言葉に浮かぶ、それでもあまりの美しさに男子生徒さえ息を飲んでいた。約一名の女子生徒を除いてはだ。
「へぇ…吸血鬼なんて初めて…かな?見たのは」
「れ、蓮ちゃん平気なの?」
少し高揚したように頬を桃色にしているアラートが蓮のその生徒会長を見る態度を見て少し驚いている。それがどういうことかわからず首をかしげた。
「平気って?」
「えっと…吸血鬼って敵とか油断させるために【魅了】っていう色香をだすのね、ほら、血とか吸うときとかに。多分今は新入生の力試しのために出してると思うんだけど…」
しっかり分かりやすく説明しようとアラートにしては多分珍しくペラペラと喋る。それでも蓮は『へぇ、勉強になった』としか思わなかった。
「綺麗と思わないの?」
「綺麗とは思ってるよ」
だが、蓮の言い方はまるで生徒会長でなくても、綺麗なガラス細工を置いても、絶景を目の前にしても、同じ綺麗なのような気がした。
「蓮ちゃん…変わってるね…」
「普通だよ。しがない人間だよ」
どこまでも自己評価の低い。どんな相手にも自分のここは劣っていると考える。それが蓮のひとつの性格。

「ずいぶん自分に相応しい評価をするな…人間」

それはさながら瞬間移動に等しい。壇上から蓮達の椅子の位置まで、実に百メートル以上はある。それも直線距離だ。だから、【今の一瞬で蓮達の目の前に生徒会長がやって来れるわけがない】と、示していた。周辺の生徒は思わず立ち上がったり、後ずさりをしていた。蓮は驚いて、むしろ動けなかった。
「……あれ?」」
思わず苦笑い。
「俺が話しているにも関わらず世間話か。随分と余裕があると見えた」
耳に入ってくる声は脳を痺れさせるような甘い感覚に囚われるような、麻薬のような声だった。付近の生徒は高揚し、息を荒くして腰を抜かしていた。アラートはくらくらと今にも気を失いそうだ。
「あー…すいませんでした」
【普通】に謝る蓮。それはとても異様だった。歴代でも突出した才能のある生徒会長の【魅了】を全く感じていない。
「お前本当に人間か?なぜ魅了されない?」
「しがない人間ですよ。魅了されないのは…鈍いんじゃないんですか?」
焦りながらも魅了されない。焦っているが何とも読めない、奥深い瞳…
「はっ」
馬鹿にしたような失笑をし、くるりと翻った。
この時、目立つことをとても好まない蓮にとって意に反する、大いに目立っつことをやらかしてしまった。
しがない人間があの生徒会長に魅力されなかった、と。
しばらくは、有名人。
だが、一週間には昔話になった。
滅多にはないが、中には魅力のような能力が生まれつき効きづらい者がいる。
というような事実があるらしい。
昔話になったことは蓮にとって、好都合でしかなかった。
だが、決して早め行動派の蓮が早めに學校に来ることを見計らって、下駄箱に『第三棟屋上に来い』などと不良に呼び出された感丸出しの手紙により屋上に呼び出されることを好都合とは言わない。教室に荷物を置いてから、屋上へと向かう。第三棟とは特別教室がある棟である。つまりは、人の出入りが限られているので、いざとなって助けを呼べないということ。
「あー…とりあえず怪我したくないな」
などと呑気な言葉。それが彼女の一番の特徴。感情の切り離し。それが蓮の性格のひとつ。というよりも、先天性の【欠陥】だ。本来思っている感情と違う視点での感情が出てくる。本当は怒っているのに何故ここまで怒っているのか、と思案する感情。本来は怖いのに何故ここまで怖がっているのか。だから、心底怒ることも泣くことも怖がることもできない。【欠陥】。そして、この切り離しは本人には予測もつかない行動が出る。切り離してるが故に自分が全くわからないのだ。だから、メデューサのアラートも生徒会長も恐がらなかった。
ここまでで自分解説は終了。
屋上に着いた。
重い鉄の扉を開けて、強い風を受ける。
今日は抜けるような晴天。言葉通りの雲ひとつない空が広がっている。昼寝したら気持ち良さそうだ。
屋上のど真ん中にいる真っ黒い狼さえいなかったらの話だが。
「…狼に喧嘩売った覚えはないんだけどなぁ…」
奇妙すぎる場面だ。本来なら校舎内に逃げ込むのが攻略方法。だから、ゆっくりと後ろに下がり、後ろ手にドアノブを掴もうとした。
狼は速い。獲物を捕らえる為の筋力がすごい。人間が敵うはずがない。
牙を剥き出しに向かってくる様はまさに獲物を見つけた猛獣そのもの。
そこでまた【感情の切り離し】が出る。本心では焦りや恐怖に教われているが、切り離された感情では冷静に狼がどう襲ってくるか予測する。
「あわわ!」
情けない声を出し、鉄の扉を背にしゃがみこみ、その勢いを身体を横に回転させることに利用する。狼は鉄の扉に激突する。
だが、そこまで距離を取れるわけではない。その場しのぎにもならない。
体勢を整えるのと狼が再び襲いかかるのはほんの小さな差。
蓮は体勢を立て直して見事に逃げ切る。なんて少年漫画みたいなご都合主義の展開は現実にはない。
立て直して、立ち上がろうとした肩を前足で抑えられ、後ろに倒れる。後頭部を打ち付け鈍痛に唸る。
「…ってぇ…!」
目の前には獲物の喉を容易くかっ切れる鋭い牙。さて、ここで蓮はどうしたかというと、みっともないくらい助けを求めて叫ぶでも、恐怖のあまり気を失うでも、怪我覚悟で狼に立ち向かうでもなかった。

手のすぐ届く、狼の脇腹を撫でたのだ。

何を思ってこんな事をしているのかは本人にもわかっていない。ただひきつった笑みを浮かべていた。
噛みつかれると思った。
そう思わせかのように狼は顔を下げた。
思わず目を瞑るが痛みは一向になく、聞こえるのはすんすんという呼吸音。

「…お前本当に人間か?」

突っ込みそうになった。聞こえたのは男の声。しかも、屋上のどこかではなく真ん前からだ。それはおかしい、目の前には狼しかいなかった。ならば考えられるのは一つ。蓮は慎重に目を開けた。
作品名:少年少女の××× 作家名:yue