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「逢坂心春、バンド始めます」

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 「ど~しよ~、美咲ちゃん。」
 「知らないわよ。あ、そだ、陸上部入らない?」
 「走るの苦手~。」
 私、逢坂心春は非常に困っている。「部活強制参加」という校則をいきなり聞かされ、部活をしたことのない私は何をやればいいのか分からない。昔水泳をやっていたがある事件で水中に入る事が出来なくなってしまった。美咲ちゃんに抱き着きトボトボと帰路に着く。
 まだ校門の桜は、満開では無く八分咲きだった。


 「うーん。」
 私は部活動紹介表を見て唸った。何をしたい。とか、無いからなあ。運動も苦手だしな。文化部もパッとしないなあ。もう既に次の日の放課後だった。後一週間弱以内に入る部活を決めなければ指導になるっ。入学してから二週間弱で指導なんて御免こうむりたい。ん、部活に入らなきゃいけないけど、別に毎日行かなくていいのか。入部だけしちゃって後は幽霊部員に・
・・。
 「なにネガティブな事考えてるのよ。」
 「ひゃうっ!」
 美咲ちゃん!心を読むのは反則だよ!
 「そんなの駄目に決まってるじゃない!心春にとってはいい機会なんじゃない?熱心に打ち込める趣味とか見つかるんじゃないかな。」
 「そう言われても・・・。」
それが問題なのっ!と心の中で訴えた。実際、興味の有るものが無いから困ってるんじゃん。
今日はもう帰ろう。そう決めた。


 「あっっっ!」
 「うわあっ!どうしたのよ心春!」
 「忘れ物した・・・。」
 宿題を忘れてしまった。期限が明日なのだ。高田先生の後先考えない性格は、ちょっとウザかった。取りに行ってくるから先帰ってて。と、美咲ちゃんに言い、さっきまで歩いていた道を引き返す。東京都の郊外の端に上谷市はあるので、街は賑わっていた。上谷駅と反対方向に全力ダッシュで向かっているので、いろんな人に見られた。
 五分ほどダッシュし、絶賛息切れ中の私は校門を抜けた。先に美咲ちゃん帰ったしダッシュしなくても良かったんじゃない?と思ったがそこは「ノリ」だ。
先ほど、全ての顔を見せていた夕焼けは、もう沈みかけていた。昇降口から校内に入る。部活で残っている生徒が居るが、放課後ほど賑わってはいなかった。階段を駆け上がり、二階に到達した。階段の前で体制を崩し、息を整える。流石に走りすぎた。めっちゃ疲れた。二階の廊下は暗かったが、一つ明るい教室があった。何組?B組じゃん。先生居るのかな。などと考えながら教室に向かう。
突然、一年B組の教室から音が鳴り始めた。
 「曲・・・?」
 聞いたことのない曲だった。でも何故か自分は聞き入ってしまった。ドラムとギターだけの曲だが、音色がとても良かった。音楽に関しては知識0なので良くわからないが、とても楽しそうな曲だった。気づくと既に曲が終っていた。教室を覗いてみる。男子が二人・・。あ、居眠りしていた男子と、背が高い男子だった。二人とも楽しそうにしていた。入ると邪魔かなと思ったが、宿題がピンチだ。取りに行かなければ。
少し躊躇ったが、私はその教室の扉を開いた。


 「ん?」
 扉の音と自分の存在に気付いた、居眠り男子冬川君は自分をまじまじと見つめた。そして見つめた後、冬川君の第一声がこれだった。
 「にゅ、入部希望者ですか!?」
 キラキラと目を輝かせそう言った。何か、勘違いされたらしい。と、気づく前に冬川君は、第二声を発していた。
 「竜海!入部希望者だ!」
 「え!?マジで?」
 「いやいやいやいやいや。違いますっ!」
 「いや」という言葉を五回繰り返すほど否定した。冬川君はとても悲しそうな顔をしてこちらを見る。
 「えーと、逢坂さん?だっけ。もう部活とか決めてるの?」
 「いや、別に・・・。」
 と、答えた瞬間。冬川君と舞島君は顔を見合わせ、アイコンタクトを取っていた。なにやら怖い。
 「俺ら今からさ、バンド研究部っていうの設立するんだけどさ、部員が足りなくて・・。で、俺たち的には入ってくれたら嬉しいんだけど・・・。どう?」
 「おい空太。イキナリそんなこと言ったって無理に決まってるだろ。」
 確かに、何の部活に入るか決まってないし、さっきの演奏とても良かったし、とても面白そうなメンバーだな。と、思った。
 「興味はあるかも・・・。」
 「マジですか!?」
 と、舞島君が言う。
 「ちょっと考えてみます。」
 と、言い宿題のプリントを取った。
 「じゃあ、入りたいと思ったらさ、多分明日放課後にまたここに居るから、来てくれ!」
 「うん。分かった。」
 そう言い教室を出た。


 もう辺りは真っ暗だった。まだ春の初めなので、日が短い。上谷駅から電車に乗り、上谷北駅で降りる。住宅街ばかりの上谷北は少し寂しい。
 興味がある。と言ったのは本当だ。とても楽しそうに演奏していた二人を思い出す。あんな風に熱中出来るものがあればいいのに。と思った。楽しい水泳を失い、完全に生きる目的を失った。そんな自分が、興味や関心を持つのは初めてかもしれない。やってみたいな、と思った。音楽はJPOP位なら聞いたことがある。でもそんな初心者がバンドなんて出来るのかな。という不安もあった。
 家に着いた。玄関のドアを開ける。
 「ただいま~。」
 「あ。姉ちゃんお帰り。」
 弟の誠だった。今年中学生になったのだ。
 「そういえば誠、何部に入ったの?」
 「ん~?剣道部。」
 「へえ。あ、怪我してるどうしたの?」
 「ん?何でもない。」
 そうか。剣道部か。やりたいこと、見つけたのか。自分もやりたいことがあれば・・・。
 いや、自分で、自分の意志で見つけるんだ。


                    5
 逢坂との話を終えた空太は竜海と帰ることにした。片づけを終えた頃には最終下校時刻三十分前の、午後六時半だった。逢坂が入ってくれたらあと二人。お先は真っ暗だった。
 「そーいえばさ、逢坂さん以外にももう一人入りそうなんだよねえ。」
 竜海からの突然の言葉は衝撃的だった。
 「お前・・。マジで?」
 「マジマジ。ツイッターでさ、知り合った男子なんだけど、まさかの同じ高校で、まだ部活決めてないらしいから誘ったんだよねえ。」
 「ハア?そういうことは早く言えよ!」
 「でも、問題はあと一人と逢坂さん、だね。」
 「だな。後一週間かあ。前途多難だなあ。」
 でも、希望は見えてきた。


 家に帰ると、兄貴が先に帰ってきていた。我々冬川家の二男、立樹兄ちゃん。最近就職が決まり、落ち着くまで家に居るとの事。ちなみに、自分にギターを教えたのはこの男だった。
 「空太。お帰り。」
 「ただいま。」
 「部活どうよ。」
 「まだ二人。入りそうなのも二人。」
 「おお~。よかったじゃん。」
 と言い放ち、ビールを持って自分の部屋に戻った。ホントに社会人か?あいつ。
 自分も部屋に戻りベットにドカッっと座る。肩に掛けていたギターケースを開ける。ギターをアンプに繋ぎ、開放弦をジャランと鳴らす。バンド研究部が結成したらと考えると、とてもわくわくした。決戦は明日。逢坂が入ってくれる事を祈ろう。
 「あ、新曲出てないかな?」