「逢坂心春、バンド始めます」
舞島竜海。小学校の頃からの親友。普段いじられキャラなのでこういう時はとことん人をいじる。さらに長身足長というモデル体型に小さい顔。いわゆるイケメンだ。ドラムをやっている。絶対その長髪は邪魔だと思うがな。
「で。ホントに軽音部入るの空太?」
「ま。まずは見学かな。どんな感じなのか分かんないし。竜海も来るだろ?」
「行くよー。」
「じゃ、放課後な。」
「おっけー。」
緩い声で竜海は答えた。こんな緩いキャラばっかで大丈夫なのか、この物語は。自分も人の事言えないが。
学年集会が始まった。他愛ない話なので聞き流した。その後も教科書配布などが続いた。自分は放課後が楽しみすぎて、心此処に非ずって感じだった。
そして放課後。待ちに待った放課後だ。帰りのホームルームを終えたらすぐに竜海のところに行った。
「よし。竜海行くぞ。」
「いいよー。そんなに楽しみなんだね空太。
「当たり前だろ。この学校に入ったのも、すごくギターが上手い先生がいるから・・・。って!先行くなし!」
そんなこんなで、部室前に我々二人は立っている。
「お、おい。竜海。行けよ。」
「空太が誘ったんだろ~。嫌だよ。」
「行けってほら!」
「ちょっと押すなよ!」
竜海を無理やり押して、ドアを開けさせる。
「おじゃましまーす。」
二人はびくびくしながら中に入る。すると先輩方が立っていた。
「お!何何!入部希望者?」
一人の先輩が反応する。そしてもう一人が、
「二名様ご来店でーす。」
な、なんだこのノリは。つ、ついていけない!
「部長!入部希望者です!」
「オウ!」
部長と呼ばれたチャラい系の男はひょこひょこと、二人の前に歩いてきた。
「部長の松本信也だ。よろしく!えーと、入部希望?」
「いえ!見学です。」
答えたのは自分だった。
「そうか。じゃあそこの椅子に座って。」
「ありがとうございます。」
二人は指定された椅子に座る。よし。見学だ。
「まあ、ウチの部見せるものっつたら演奏しかないからさあ。演奏聴いてくれる?」
「も、もちろんです!」
「よ、よろしくお願いします!」
いきなり演奏が聴けるなんて光栄だ。
「よしっ。じゃあみんな準備!」
「はーい。」
部長の指示で部員が準備を始める。準備が終わったみたいだ。足元にはいっぱい敷き詰められたエフェクター。それぞれが楽器を持つ。松本部長はギター&ボーカルだった。
「よし!じゃあ始めるぞ!」
ドラマーがドラムスティックを鳴らし合図を始め、演奏が始まる。有名なバンドのカバーだった。正直、うまい。特にギターとドラムのレベルが高い。でも、何か足りない。そんな気がした。演奏が終わる。自分はいつの間にか拍手をしていた。
「ありがとう!まあ今の演奏を元に入るか入らないか検討してくれ。」
「はい!ありがとうございました!」
二人はそのまま部室を出た。窓の外はすでに夕焼けに染まっていた。
「どうだった?空太。」
「・・・。」
確かに上手かった。でも、憧れられなかった。何かが足りない。自分の求めていた音楽と何か違う。そう思った。
「竜海。お前はどうだった?」
「上手かったね、ドラムとギター。でもなんか・・。」
「なんか、足りないよね。」
話し合い、何が足りないのか考えた。その日はそのまま帰路に着いた。
結局、二人は軽音部に入部しなかった。
3
「どうするー空太。部活は強制参加だよ?」
「うーーーん。」
空太は唸る、十秒位唸った。息が切れた。
「そうだよなー。部活強制参加だもんな。」
「五月まで二週間あるけど・・・。」
また空太は唸る。思い切って軽音部に入部するか、他の部活に入るか。でもバンド組みたいしなあ。ん?
「なあ竜海。俺らで部活作らねえか?」
「いいけど・・。部活作るには最低でも五人必要だよ?あと三人。どうするの?」
「うっ」
考えてなかった。どうしよう。
「ま、まずは先生に相談しよう。」
とっさに思いついたにしては、ナイスアイデアだった。
「バンド研究部?」
高田先生は疑問を投げかけた。
「軽音部入ればいいじゃん。」
高田先生の癖に痛いところを突いてきた。
「いやー実はこれこれしかじかで・・・。」
説明を始めたのは竜海だった。簡潔に説明を終える。
「そうか。なるほどね。」
と、頷きながら先生は言った。分かってくれたらしい。
「わかった。じゃあちょっと待ってて。高城先生!」
「はいー!」
高城先生と呼ばれた先生は、走ってこちらに向かってきた。
「あ、高城先生!こいつらかれこれしかじかで・・。」
俺たちから聞いたことを高田先生は説明した。
「分かりました。後は任せてください。」
「はい。お願いします!」
高城先生は高田先生との会話を終え、こちらを向く。掛けているメガネを外しながら、こう言った。
「で、君たちは私が顧問を務めている軽音部のどこが不満なの?」
「・・・え?」
高城先生は軽音部の顧問だった。メガネを外すとけっこう美人だった。でも、怖い。めっちゃ怖いよ。
「そうか。何かが足りない・・・か。実は私もそう思ってたのよねえ。」
「え?そうなんですか?」
空太は聞き返した。
「まあそれに気付くのは、本人次第だから何も言ってないんだけどね。」
「はあ。」
「そういうことなら良いわよ。新規部活動を設立しても。でも、ちゃんと部員は五人居るの?」
「「・・・。」」
私立上谷学園新規部活動設立条件
1・顧問の教諭が一名以上居ること。
2・部員が最低五人以上居ること。
3・学園長・顧問のサインが部活申請用紙にあること。
4・部室などの活動拠点があること。
「バンド研究部(仮)」は、部員数が足りなかった。
「ええっ!居ないの?なら五月までに後三人見つけることね。部室はストックしておいてあげるから。顧問にもなってあげる。」
「ありがとうございます!」
高城先生は優しかった。
「よし。」
部室はまだ貰えなかったので、とりあえず、高田先生のコネで一年B組の教室を使わせて貰えた。ここで新入部員を獲得する方法を考える事にした。
「で、こっからが問題だぞ空太。」
「分かってるよ。どうする竜太。」
二人とも策は無かった。その日は帰ることにした。新入部員が入ってくれることを祈りながら。
次の日。そして放課後。「バンド研究部(仮)」の二人は一年B組に居た。二人はとりあえずポスターを作ることにした。
「できた!」
自分は書き終えたポスターを得意げに竜海に見せた。
「・・・。空太。ないだろ。」
俺のセンスは竜海には理解できなかったらしい。可哀そうに。
結局、竜海の作ったポスターをあちこちに張り付けた。やることはやった。あとは新入部員を待つだけだ。二人は一年B組に戻り、持ってきたギターとドラムのセッションをしていた。一曲目を終え、次に何を演奏するか話し合っていた。五月まで後一週間弱。部員は後三人必要。
そして、運命の扉が開いた。
作品名:「逢坂心春、バンド始めます」 作家名:Snow