「逢坂心春、バンド始めます」
パソコンを立ち上げて動画サイトにアクセスする。実は冬川空太、ボカロPの曲が好きだった。ボカロPは、音声ソフト「ボーカロイド」を使って、アマチュアだが作詞作曲をする人の総称である。アマチュアながらも、レベルの高い作曲をする人もいっぱい居るのだ。元々、ヲタク趣味の長男、晃一が教えてくれたのだ。ちなみにその晃一は、ゲームミュージックの制作の仕事をしている。立樹兄ちゃんは良くわからないが大手企業の社員らしい。PCの画面を見つめるが、新曲はアップされていないようだった。残念だ。
冬川家は基本、両親が遅くまで仕事なので兄弟で夕飯はやりくりしている。今日は、立樹兄ちゃんが作ってくれたようだ。一階に降りると夕飯が置いてあった。夕飯を食べる。
『最近、ネットの動画投稿サイトにアマチュアの人たちが、音楽を投稿するのが人気らしいですね。』
『へえ。そうなんですか。』
『そうです。彼らはPCで音楽を作成するDTM(デスクトップミュージック)ソフトを使って、作曲をしているそうですよ。』
『なるほど~。』
DTMか。晃一兄ちゃんもそんな事言っていた気が。バンド研究部が設立されたらオリジナル曲を作れるかもしれないのか。考えておこう。って、まだ設立まで三人必要じゃん。
翌日、上谷学園に行く途中、高城美咲に会った。
「おーい。美咲!」
「ん?なんだ、空太か。」
「反応薄いなおいっ!」
「なんで毎日嫌でも顔見なきゃいけないアンタ見て、テンション上げなきゃいけないのよ。」
高城美咲と冬川空太は、幼馴染だ。幼稚園、小学校と同じだったのだが、中学校で地域別に分離されて以来、疎遠になった。幸か不幸か、同じ高校になり、ますますツンデレ度を上げていた。今日も話しかけただけなのに罵倒された。
「ってかアンタ、人と話すとき位、ヘッドフォン取りなさいよ。」
二人は歩きながら話す。罵倒からの正論的な注意だった。
「まったく。」
「変わらないなあ。」
他愛のない話を続ける。部活の事や中学校の事。美咲と話すのはけっこう楽しかった。
「そーいえば、空太。新部活設立するって?」
突然、美咲がそう訪ねてきた。
「うん。まあね。バンド研究部って言うんだ。」
「へえ。友達にさ、部活決まってない子がいるんだよね。」
「ほう。名前は?」
聞いておこう。もしかしたら入ってくれるかも・・・。
「ん?逢坂心春って言うんだけど・・・。」
「逢坂!?」
大声を上げてしまった。
「昨日、部活に誘ってみたんだけど・・・。」
「ホント!?」
うんうんと頷き返した。
「あの子、水泳やめて以来、物事に打ち込むって事をやめちゃってさ。だから、いい機会になるかも知れない・・・。あの子のこと、よろしくね。」
「いやいや。まだ入るって決まってないし。」
的確にツッコんでおいた。
その日の昼休み、竜太がメガネを掛けた男子を連れてやってきた。
「空太~。メシ食おうぜ~。」
「その前に、いろいろツッコませてくれ。そこの奴は誰だ。いきなり連れ込んで困ってるだろ。」
「ん~?昨日言ってた新入部員候補。入ってくれるって。」
「ええっ!」
普通そういうのは、そんな軽いノリで言わねえんだコンチキショウ。
そんなこんなで、メガネの男子の自己紹介が始まった。
「一年E組の八重樫悠馬です。ギターはちょっとだけ弾けます。」
おお!同士か!
「普段は何弾いてるの?」
「好きなバンドの曲とか・・・。」
「ななな、何のバンド好き!?」
その後、昼休みは好きなバンドの話で盛り上がり、終了した。午後授業も空太はソワソワしていた。逢坂が入れば残りは一人!希望が見えてきた!空太はチラリと、逢坂を見た。ポケーとしながら授業を聞いていた。思慮深いのか、天然なのか、よくわからないやつだなあ。
「・・川~。冬川!なによそ見してんだ!」
「へ~い。」
逢坂の方を見ると、笑っていた。お前もポケーってしてただろ!
運命の放課後。逢坂心春は冬川達の前に来た。そして、こう言った。
「初心者だけど・・・。大丈夫?」
「おーけーおーけー。教えたるから大丈夫!」
空太はキメ顔でそう言った。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします!」
冬川達は盛大に喜んだ。後一人!あと一人だ!
次の日、逢坂と八重樫は入部届を提出。そして高城先生に呼び出された。
「ハイこれ。部室の鍵ね。」
「ありがとうございます!」
そして、部室に行ってみることにした。部室棟の三階にかけ上がり、部室の扉を開いた。そこは、
ゴミで、散らかっていた。
作品名:「逢坂心春、バンド始めます」 作家名:Snow