「逢坂心春、バンド始めます」
第一話~逢坂心春、バンド始めます~
1
桜の花びらが私の頭に乗っかる。
春。
それは出会いと別れの季節。
地元の上谷第一中学校を卒業した私は同級生と別れ、なんとなく志望校にした上谷学園の同級生と出会った。「目的も、意志も、夢も無い私にとって学校生活なんて憂鬱なものだ。」って、ステキ物語だったらそんな考え吹っ飛ばしてくれる出会いがあるんだろう。どっかの偉い博士が、「少年よ、大志を抱け。」なんてステキ名言残していたけれど、そもそも目的無いし、少年じゃなくて少女だし。
こんなプロローグが消極的な物語なんて太宰治くらいしか書かない。こんな消極的主人公の物語を書く作者は、どんな心の病を負っているのだろう。可哀そうに。消極的な自分が心配する資格ないが。
耳に着けているヘッドホンが邪魔になったので外し首にかける。まだ寒さが残っているのか、はあ。と漏らした溜息が白かった。校門の近くの桜は咲いているが満開では無い。私と同じ中途半端さだった。
そういえば、入学式は終わったけどクラス表配られなかったなあ。知ってる子いるかなあ。いたらいいな。む、また憂鬱な気分になってしまった。ポジティブポジティブ。
昇降口の前に貼られたクラス表を見る。十秒後、自分の名前を発見する。
「一年B組、か。」
たしか二階だったな。
昇降口で2年B組という文字を見つけて、そこに向かう。自分の出席番号が書かれている靴箱に靴を入れ上履きをカバンから取り出す。昇降口のすぐ右に階段があったので上に昇る。また二年B組という文字を見つけた。そこに向かう。教室のドアを開き中に入る。ずらっと並べられた机、何人かの生徒、前と後ろに黒板。
うん。普通。
ヘッドホンを首から外し、カバンの中に入れながら自分の出席番号の書かれた机を探す。あ、見つけた。
机に座ってみた。木材の匂いがまさに学校って感じだった。学校だからね。
「今日から楽しい高校生活が始まるっ!」って雰囲気ではなかったので、机にそのまま突っ伏して寝る。このまま青春時代が終わっちゃうのかなあ。
「ステキ物語始まんないかなあ。」
「何言ってんの心春?」
「ひゃうっっ!」
奇声をあげてしまった。周囲の目が自分に向く。声がした方向を向いてみる。
「み、美咲ちゃん!驚いたよ!」
「私はアンタの奇声に驚いたけどね。」
高城真咲。中学校の同級生だ。体格はスリムで髪はショート。元陸上部でめちゃくちゃ足が速い。成績優秀で陸上部のエース。「どんだけハイスペックなんだよ。」とつくづく思う。
「ん?でも美咲ちゃん頭いいのになんでこんな普通の学校に居るの?」
「あーうん。ここでお姉ちゃんが教師やってるんだよねえ。だから様子見。」
「え?教師?すごいね美咲ちゃん姉!」
「あーいや、それがさ・・。ゴメン何でもない。」
美咲ちゃんは少し憂鬱そうな顔をした。
「?」
きっと複雑な家庭の事情があるんだよ。と勝手に解釈して私は話を進めた。
「でも良かったよー。美咲ちゃんと同じクラスで。」
「私も。ちゃんと心春の世話が出来る訳だ。」
そう。私、逢坂心春は少し抜けているので(ホントに少しだよ?)美咲ちゃんにはお世話になっているのだ。
「今年も一年よろしくお願いします!」
「モチロン!」
美咲ちゃんは嬉しそうに答えた。また一年お世話してもらえるらしい。
「で、心春。何?ステキ物語って?」
「ななな、何でもないよ!うん!気にしないで!」
「声上ずってるよ?」
聞かれていたのか!恥ずかしい!顔が熱い!
「おっと、もうホームルームだ。それじゃね。」
「うん。」
もう一度机に突っ伏す。今の一瞬でどっと疲れた。こんな恥ずかしい思いは二度目だ。(一回目は本屋でレジに本を持って行って会計しようとして、財布を家に忘れた事に気づいた時だ。皆さんやってしまったことありません?)
と、読者に問いかけたところに担任の先生が教室に入ってきた。
「お前ら座れー。ホームルーム始めるぞ。」
上谷学園のゆるキャラと噂の高田先生だ。優しそうでよかった。
「あ、出席簿忘れた。すまんみんな!取ってくる。」
前言撤回。ドジで面倒臭そう。(人の事言えないが。)周囲がざわつく。高田先生は初日で生徒たちに馬鹿にされるキャラを植え付けてしまったようだ。先生が戻ってきた。
「よし。自己紹介しよう。えー、一年B組の担任になった高田健一だ。気軽に高さんとでも呼んでくれ。担当教科は化学だ。よろしく。」
適当に聞き流した心春はクラスメイトを見回す。みんな優しそうだ。おっと、男子の中に寝ている子がいる。
「よし、みんなも自己紹介していくか。じゃあまず、相沢。」
「はーい。」
緩い自己紹介が始まった。また適当に聞き流す。
「次、逢坂。」
「はい。」
教卓の前に出る。
「えー。逢坂心春です。心春って書いてこのはって読みます。少しドジなところがありますがよろしくお願いします。」
よし。上手くいっただろう。こっから聞き流しタイム。何人かの自己紹介が終わった。
「次。冬川。」
反応がない。
「おーい。冬川くーん。」
「ひゃいっ」
あ、声裏返った。寝てた男子だ。
「すいません。冬川空太です。趣味はギターです。よろしくお願いします。」
眠そうな声でツンツン頭の冬川君が自己紹介を終えた。
「よし。もう寝るなよ冬川。次。」
「はーい。」
こうして緩―い自己紹介が終わった。
「じゃあ連絡事項だ。」
パン。と手をたたき高田先生は話を始めた。
「えーと。この後学年集会があるので体育館に行くように。それから・・。」
この時、高田先生は私にとって聞き流しできない一言を眠そうな目で言い放つ。この一言で私の高校生活はガラリと変わってしまった。いや、変わってくれた。
「あーそうそう。この学校部活強制参加だから。五月までに部活入っとけよ。」
え?
部活?
なにそれ?
ああ、そういえばこの私立上谷学園は、部活に力を入れる学校だった。適当に高校を決めたバチが当たった。どうしよう。部活なんて入ったことないよ!
2
高校初日のホームルームで自分、冬川空太は居眠りをしてしまった。失敗した。言えない、高校の部活が楽しみで昨日眠れなかったなんて親友の竜海にも言えない。みんなに笑われた。くそっ。なんたる失態だ。本屋でレジに本を持って行って会計しようとして、財布を家に忘れた事に気づいた時くらい恥ずかしい。自己紹介は上手くいったが失態を犯すなら自己紹介中のほうがマシだった。
自己紹介を終えた自分は、深い溜息をつきながら椅子に座った。後ろに座っている舞島竜海がクスクスと声を殺しながら笑っているのが分かった。あいつ、殺す。
担任の高田先生がパンッと手をたたき話をはじめた。まだ顔の熱は冷めなかった。
「クスッ。おい空太。プッ。」
「何か言いたそうだなあ。竜海。」
学年集会をやるとかなんとかで体育館に向かう途中、メンドクサイことに竜海に絡まれた。
「いやー。思いっきり恥かいたな空太。」
「うるせえ。」
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桜の花びらが私の頭に乗っかる。
春。
それは出会いと別れの季節。
地元の上谷第一中学校を卒業した私は同級生と別れ、なんとなく志望校にした上谷学園の同級生と出会った。「目的も、意志も、夢も無い私にとって学校生活なんて憂鬱なものだ。」って、ステキ物語だったらそんな考え吹っ飛ばしてくれる出会いがあるんだろう。どっかの偉い博士が、「少年よ、大志を抱け。」なんてステキ名言残していたけれど、そもそも目的無いし、少年じゃなくて少女だし。
こんなプロローグが消極的な物語なんて太宰治くらいしか書かない。こんな消極的主人公の物語を書く作者は、どんな心の病を負っているのだろう。可哀そうに。消極的な自分が心配する資格ないが。
耳に着けているヘッドホンが邪魔になったので外し首にかける。まだ寒さが残っているのか、はあ。と漏らした溜息が白かった。校門の近くの桜は咲いているが満開では無い。私と同じ中途半端さだった。
そういえば、入学式は終わったけどクラス表配られなかったなあ。知ってる子いるかなあ。いたらいいな。む、また憂鬱な気分になってしまった。ポジティブポジティブ。
昇降口の前に貼られたクラス表を見る。十秒後、自分の名前を発見する。
「一年B組、か。」
たしか二階だったな。
昇降口で2年B組という文字を見つけて、そこに向かう。自分の出席番号が書かれている靴箱に靴を入れ上履きをカバンから取り出す。昇降口のすぐ右に階段があったので上に昇る。また二年B組という文字を見つけた。そこに向かう。教室のドアを開き中に入る。ずらっと並べられた机、何人かの生徒、前と後ろに黒板。
うん。普通。
ヘッドホンを首から外し、カバンの中に入れながら自分の出席番号の書かれた机を探す。あ、見つけた。
机に座ってみた。木材の匂いがまさに学校って感じだった。学校だからね。
「今日から楽しい高校生活が始まるっ!」って雰囲気ではなかったので、机にそのまま突っ伏して寝る。このまま青春時代が終わっちゃうのかなあ。
「ステキ物語始まんないかなあ。」
「何言ってんの心春?」
「ひゃうっっ!」
奇声をあげてしまった。周囲の目が自分に向く。声がした方向を向いてみる。
「み、美咲ちゃん!驚いたよ!」
「私はアンタの奇声に驚いたけどね。」
高城真咲。中学校の同級生だ。体格はスリムで髪はショート。元陸上部でめちゃくちゃ足が速い。成績優秀で陸上部のエース。「どんだけハイスペックなんだよ。」とつくづく思う。
「ん?でも美咲ちゃん頭いいのになんでこんな普通の学校に居るの?」
「あーうん。ここでお姉ちゃんが教師やってるんだよねえ。だから様子見。」
「え?教師?すごいね美咲ちゃん姉!」
「あーいや、それがさ・・。ゴメン何でもない。」
美咲ちゃんは少し憂鬱そうな顔をした。
「?」
きっと複雑な家庭の事情があるんだよ。と勝手に解釈して私は話を進めた。
「でも良かったよー。美咲ちゃんと同じクラスで。」
「私も。ちゃんと心春の世話が出来る訳だ。」
そう。私、逢坂心春は少し抜けているので(ホントに少しだよ?)美咲ちゃんにはお世話になっているのだ。
「今年も一年よろしくお願いします!」
「モチロン!」
美咲ちゃんは嬉しそうに答えた。また一年お世話してもらえるらしい。
「で、心春。何?ステキ物語って?」
「ななな、何でもないよ!うん!気にしないで!」
「声上ずってるよ?」
聞かれていたのか!恥ずかしい!顔が熱い!
「おっと、もうホームルームだ。それじゃね。」
「うん。」
もう一度机に突っ伏す。今の一瞬でどっと疲れた。こんな恥ずかしい思いは二度目だ。(一回目は本屋でレジに本を持って行って会計しようとして、財布を家に忘れた事に気づいた時だ。皆さんやってしまったことありません?)
と、読者に問いかけたところに担任の先生が教室に入ってきた。
「お前ら座れー。ホームルーム始めるぞ。」
上谷学園のゆるキャラと噂の高田先生だ。優しそうでよかった。
「あ、出席簿忘れた。すまんみんな!取ってくる。」
前言撤回。ドジで面倒臭そう。(人の事言えないが。)周囲がざわつく。高田先生は初日で生徒たちに馬鹿にされるキャラを植え付けてしまったようだ。先生が戻ってきた。
「よし。自己紹介しよう。えー、一年B組の担任になった高田健一だ。気軽に高さんとでも呼んでくれ。担当教科は化学だ。よろしく。」
適当に聞き流した心春はクラスメイトを見回す。みんな優しそうだ。おっと、男子の中に寝ている子がいる。
「よし、みんなも自己紹介していくか。じゃあまず、相沢。」
「はーい。」
緩い自己紹介が始まった。また適当に聞き流す。
「次、逢坂。」
「はい。」
教卓の前に出る。
「えー。逢坂心春です。心春って書いてこのはって読みます。少しドジなところがありますがよろしくお願いします。」
よし。上手くいっただろう。こっから聞き流しタイム。何人かの自己紹介が終わった。
「次。冬川。」
反応がない。
「おーい。冬川くーん。」
「ひゃいっ」
あ、声裏返った。寝てた男子だ。
「すいません。冬川空太です。趣味はギターです。よろしくお願いします。」
眠そうな声でツンツン頭の冬川君が自己紹介を終えた。
「よし。もう寝るなよ冬川。次。」
「はーい。」
こうして緩―い自己紹介が終わった。
「じゃあ連絡事項だ。」
パン。と手をたたき高田先生は話を始めた。
「えーと。この後学年集会があるので体育館に行くように。それから・・。」
この時、高田先生は私にとって聞き流しできない一言を眠そうな目で言い放つ。この一言で私の高校生活はガラリと変わってしまった。いや、変わってくれた。
「あーそうそう。この学校部活強制参加だから。五月までに部活入っとけよ。」
え?
部活?
なにそれ?
ああ、そういえばこの私立上谷学園は、部活に力を入れる学校だった。適当に高校を決めたバチが当たった。どうしよう。部活なんて入ったことないよ!
2
高校初日のホームルームで自分、冬川空太は居眠りをしてしまった。失敗した。言えない、高校の部活が楽しみで昨日眠れなかったなんて親友の竜海にも言えない。みんなに笑われた。くそっ。なんたる失態だ。本屋でレジに本を持って行って会計しようとして、財布を家に忘れた事に気づいた時くらい恥ずかしい。自己紹介は上手くいったが失態を犯すなら自己紹介中のほうがマシだった。
自己紹介を終えた自分は、深い溜息をつきながら椅子に座った。後ろに座っている舞島竜海がクスクスと声を殺しながら笑っているのが分かった。あいつ、殺す。
担任の高田先生がパンッと手をたたき話をはじめた。まだ顔の熱は冷めなかった。
「クスッ。おい空太。プッ。」
「何か言いたそうだなあ。竜海。」
学年集会をやるとかなんとかで体育館に向かう途中、メンドクサイことに竜海に絡まれた。
「いやー。思いっきり恥かいたな空太。」
「うるせえ。」
作品名:「逢坂心春、バンド始めます」 作家名:Snow