小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ビッグミリオン

INDEX|9ページ/121ページ|

次のページ前のページ
 

「さてさて。チーム全員がこれで集まったわけだが、一応年上として進行係をしようかな。紫苑くんって呼んでもいいか?」
「紫苑でいいよ。その代り、俺は謙介さんって呼ぶよ。そっちはあずさちゃんね」
 グラスにワインを自分でなみなみと注ぐと、香りを楽しむように目を細めた。
「よし、じゃあこれから俺たちは同じチームだ。さっそく五十万ドルを倍にする作戦をたてよう。えーっとまず何か意見はないかにゃ?」
 リーダーシップをとるという事に緊張と、多少の酔いもあったせいもあり早速少し噛んでしまう。これから十日間、今日初めて会ったこの二人と行動、そして運命をも共にするのだから俺が緊張するのも無理はない。しかも――その一人は女性で自分の好みにストライクなのだ。
(良かった。誰も噛んだ事に気づいていないようだ)
 ゆっくり二人を交互に見ながら意見を待つ。あずさはうーんと唸りながら、細い指でこめかみをとんとんと叩いている。
「そうねえ。あたしの考えだけど、ラスベガスで勝負するってのはどうかしら。チケットさえ上手くとれれば、八割は勝負の時間に費やせると思うにゃ」
 海外旅行は久しぶりなのか、うっとりと遠くを見る目をしている。そしてその口元は違う意味でも少し緩んでいるようにも見えた。
「おおう! あずさちゃん良い事言うね。俺もラスベガスに一度行ってみたかったんだ。はい、決定にゃ!」
 あずさはともかく紫苑のこの言い方に少しムカついたが、良く考えると実は悪くない案だと気付いた。ラスベガスならきっと、短期間で国内よりはデカい勝負ができるに違いない。
「君たちって……耳がいいんだね」
「じゃあさ、もうラスベガスに決定しましょうよ。税関の申請に時間がかかるかもしれないけれど、何とかなるわ」
 少し落ち込んでいる俺をよそに、まだ目をきらきらさせている。
「ちょっと待って。その前に、一つ提案があるんだが……」
 俺のこの言葉に興味を惹かれたように、盛り上がっていた二人はこちらに視線を向けた。
「もう気づいているかもしれないが、このルールには『穴』があるんだ。それもルールに抵触しない抜け穴と言うべきかな。もし誰か他のチームに知り合いがいれば成功率は高いんだけど」
「もしかして、あの方法かな。謙介さん、あれはダメだって」
 紫苑はソファの奥にどすん! と背中を埋めた。
「紫苑も気づいていたんだな。これがうまくいけば、大金を持ってこのゲームを終わらせる事ができるんだけど」
「なになに? 二人だけで分かったような顔してずるいよ! あたしにも教えて」
 頬を膨らませて身を乗り出す。
「んー。このルールに隠された穴はね……。チャレンジってさ、三人で百万ドル突破すればクリアだよな。で、当然他のチームも同じ条件だ。例えば俺たちが『シックス』の三人と協定を結ぶ。彼らも俺たちと同じ考えでOKしたとする」
「うんうん! で?」
 彼女は興味深そうな顔をして真剣に聞いている。その顔を見て俺は少し可笑しくなった。
「この先は俺が。で、俺達は彼らに自分たちのお金を全部あげちゃう。つまり『セブン』が『シックス』に五十万ドルを渡す。めでたく『シックス』はチャレンジクリアだ。明日のスタート後十秒でクリアだよ」
 紫苑が俺の代わりに答えた。
「え……。でもさ、私たちのチームは失格になっちゃうよ」
「まあ当然そうなる。だが前もって『シックス』と話をつけていたらどうなると思う? 彼らは報酬として、主催者から1人一億円もらう。しめて三億円だ。しかもリスクゼロでね。そして彼らから俺たちは、分け前の三億円の半分をいただく。どうだ?」
 指を五本出しながら紫苑はニヤッと笑う。
「すっごーい! あなたたち頭いいね。――てことはちょっと待って。十チームがそれぞれペアを組めば、速攻で全員クリアじゃん! 五千万円全員ゲットじゃん!」
 マジリスペクトっす先輩! って感じの眼で俺達を交互に見ている。 
 しかし、俺はあずさのこの様子を見て、この後ある問題点を言うのが気の毒になってしまった。よし、ここも紫苑に代わりに言ってもらおう。
「では、問題点を紫苑くんどうぞ」
「問題点なんてないじゃん!」
 びっくりしたように彼女は目を丸くしながら口を尖らす。
「謙介さん、いやな役を振るなあ。んー、実はね……落とし穴もあるんだよ。みんながその方法をとったとしても、クリアしたチームの奴らから〈五千万円を回収できる保証〉は何も無いんだ。分かる?」
「そうだ。クリアしたチームが『そんな約束した覚えはない』って言えば、この話はそれまでなんだよ」
 紫苑の言葉を引き取り、ゆっくりと言い聞かせるようにあずさの目を見つめた。
「でも、文書とかにしとけばいいんじゃないかな?」
「うん。でも果たしてそう上手くいくかな」
 既にこの攻略法に気付いたチームは、今まさに動き出しているかもしれない。この瞬間、そこにあるドアがノックされてもおかしくないのだ。しかし、いつまで経ってもノックの音は無い。
 そりゃそうだ。人間の心理を考えてみれば、この攻略法はまさに『絵にかいた餅』なのだから。きっと主催者側もこうなるのが分かっていて、ルールに書き込まなかったのだろう。
 結局俺たちは夜中まで議論を続け、スタートしたら成田からまずロスへ飛ぶということで意見が一致した。


 同時刻


『チーム3』と『チーム4』の六人は、少し警戒するような様子で一つの部屋に次々に吸い込まれて行った。部屋の中では『チーム3』のリーダー、御手洗(みたらい)あつしが中心となり、明日の事について話し合っている。
「さて、我々は幸運な事に今こうして集まっている。この〈談合〉に一番必要な事は、お互いの固い信用を得る事だ」
 あつしはいったんここで言葉を切り、残りの五人の同志を見廻した。
『チーム3』はあつしと、ゴリラ並の体格をした山本、中国人のメガネのおばあちゃんだ。
『チーム4』は日本人とアメリカ人のハーフのリンダ、パンクファッションでモヒカン頭の近藤、そして気の弱そうなサラリーマン風の男性だった。
「言っている事はよく分かりますけど、あつしさんのチームが裏切らないって保障はないっしょ。どちらかのチームに五十万ドルを渡すんなら、この話を持って来た『チーム3』がこちらに渡して下さいよ」
 モヒカンが口を尖らせる。
「そうよ、提案したそっちがリスクを負うべきよ。私たちはもともと絵を買うつもりだったんだから」
 ブロンドの髪の毛をかきあげながら、リンダが流暢な日本語でモヒカンを支持した。
「絵だって?」
 ゴリラ山本が大きな身体で威嚇するように振り向き、リンダを睨む。
「ええ。私の知り合いに画商がいて、ホクサイの絵を何点か手に入れられるの。それをオークションにかけて捌けば、ひょっとして百万ドルを超えるかも」
「オークションねえ。他の二人も本当にそれがうまく行くと思っているのか?」
 バカにしたような顔でゴリラ山本が笑う。その笑いが合図のように、豪華なソファに深々と座り足を組んでいるあつしが肩をすくめながら立ち上がった。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま