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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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 八日 同時刻

「リーマンさんよ、今の聞いたか?」
「ああ、更に上をいく『万能ワクチン』っていうのがあるんだな」
 その頃チーム『JACKPOT』では、パソコンから流れる音声をリーマンとあつしが拾っていた。
「あの娘が服を着替えなくて良かったなあ」
「特別に支給された盗聴マイクだからね、襟に素早く仕込んだゴリラくんに感謝しないとな」
 あずさの襟には、拘束を解くときにこっそりと超小型マイクが仕込まれていた。虫ピンぐらいの大きさにもかかわらず彼女がセブンに戻ってからの音声を、マイクはひとつ残らず鮮明に拾っていた。
「あいつら三百万ドルも儲けやがったのか。マジでセブンに入っとけば良かったぜ」
 あつしは悔しそうに眉をしかめた。
「たった今、我々の目標は『万能ワクチン』を手に入れる事に変更された。もうシーズン2用ワクチンなんて必要ないからな。あの紫苑という男を何としてでも拘束して、輸血を行わなければならない。だがこれが血液型を選ぶワクチンだとすると、すぐにラボで対処法を検討しなければ間に合わなくなってしまう」
「手に入りさえすれば、あんたの組織のCDCでちゃちゃっと出来るんじゃないのか?」
「いや……どうだろう。きっと何か秘密がある。例えば、テープをコピーしても絶対にオリジナルを超えられないだろ? それと同じようにワクチンの効果も薄れてしまうかもしれない」
 パソコンの音声表示画面を見つめながら、リーマンは何かを計算しているような難しい顔を崩さなかった。
「ところで、あつしくん。いま彼らに必要なものは何だ?」
 少し意地の悪い目をしてリーマンが問いかけた。
「そんなの決まってる。金だろ? 向こうも独自でコピーを作ろうとしている。こっちまでそれが回ってくるまでには、俺たちはたぶん全員死んでいるだろうな」
「と、いう事はアーノルドから金が届かなかったらどうなると思う?」
「なるほど。俺たちが交渉のステージに上がれるわけだ。金ならまだごまんとある」
 まだチャンスはあるという顔を作った後、ニヤっと笑う。
 リーマンはパソコンにハッキング用と思われる画面を呼び出した。彼の指が水を得た魚のように高速で動き出す。
「ああ、さっきの電話から記録を洗ってみるよ。君はこれからみんなに説明して、作戦を練ってくれ」
「わかったぜ、リーダーさんよ」
 あつしは軽く手を振ると、みんなの待つ応接室に戻って行った。

「もう行っていいぞ。これは餞別だ。ただし、このへんをうろうろしていたら命は無いと思え」
 約一時間後、ベガスの路地裏で、倒れている男に二つの札束を叩きつけるリーマンの姿があった。次にその男の携帯をポケットから取り上げ道路に叩きつけて破壊する。顔は変形するほど殴られ、シャツまで血まみれのその男は、不幸にも捕まってしまったアーノルドだった。
「あんた、本職の俺よりエグいことするよなあ。うちの組に来てもらいたいぐらいだよ」
 あつしも引く程の暴力をみせたリーマンの顔は、冷静そのもので汗ひとつかいていない。
「さあ、これでこいつはもう取り引き材料を失った。まあこれだけ痛めつければ、もう邪魔はしてこないだろう。ところで、携帯の番号は控えたか?」
「ああ」
 モヒカンとリンダは監視役、ゴリラは運転手、リーマンとあつしが実行役で『アーノルド捕獲作戦』はこれにて終了した。宿泊ホテルの駐車場で拉致された彼は、街から叩き出されてしまった。これは今回の生き残り競争に残れなかった事を意味していた。
 そして、いよいよJACKPOTは『セブン』との交渉のステージに上がる。

 同時刻

「間違いないな? もしガセネタだったら刑務所にブチ込むぞ」
 ブライアンは後部座席で足を組むと、隣に座るナンシーを恫喝する。
「疑い深いわね。それよりも約束を守ってよ。兄さんと私に新しい名前と生活、それにワクチン+百万ドルね」
 黒塗りのボディに映りこむ幹線道路に、車の数は少ない。まだ夜も早いのに、みんな家に引きこもっているのだろうか。
「分かってる。私に連絡してきたのは大正解だ。そうそう、アーノルドから、君の事は聞かされていたよ。噂通りの美人ディーラーじゃないか。でも、解雇されてショックだったんじゃないか? 君はいったい何をやらかしたんだ?」
 意地悪そうな顔でナンシーを見つめる。
「長いものには巻かれろって言うでしょ。いい男より自分の命の方が大事よ。解雇? 別にショックじゃないわよ。飲みすぎてカメラがバレちゃったの! うるさいわね」
 口を尖らせ、ぷいと窓の方に顔を背けた。紫苑という男を愛し、同時に裏切った女の顔が、同じ方向を向いて窓に映りこんでいる。
「失敗は誰にもあることさ。そうだ、ワクチンを接種したヤツは、数年は酒を飲めないみたいだぞ。残念だな」
 可笑しそうにふっと笑うと無線機を助手席の男から受け取り、各方面に指示を出し始めた。
「私だ。住所は分かるな? 慎重に周囲を包囲して、全員生きたまま捕えろ。よし、大佐に代わってくれ」
 無線の向こうからは歴戦の勇士らしい、ハスキーな太い声が聞こえて来る。
「大佐。分かっていると思いますが、いつものように爆発物は使わないで下さい。この件で西側も動いているという噂もありますので、隠密作戦でお願いします。しつこい様ですが、『生きたまま』捕えてください」
 何故かブライアンは、口元を緩めながら無線を切ると、銃を取りだし弾倉を確認した。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま