ビッグミリオン
そら来た! と紫苑が両手を広げる。
「言ってみてくれ」
「まず一つ目は、私をあなたたちのメンバーに加えて欲しい。ブライアンの敵は私の味方ですからね。DOLLのかたきを自分の手でとってやりたいんです。そして二つ目は、紫苑くんの血に流れる『万能ワクチン』を私にも分けて欲しい。正直、私は金なんていらないんです。ただ――生きたい。生きのびて私たちを裏切った組織に復讐してやりたいんです」
しばらく俺は目をつぶって考えた。その様子を四つの目がじっと見つめている。
「……分かった、条件を飲もう。だが、後でその『万能ワクチン』の話を詳しく聞かせて欲しい。今から住所を言うから、尾行されないように注意して来てくれ」
ほっとした空気が部屋に流れる。
「ありがとう。でも、もうCIAがベガスに増援を送っているとの情報があります。無事にそちらに着けるか分からないので、一つだけ忠告しておきます。紫苑くんの身体に流れている万能ワクチンは、『枕元輸血』をするのが基本です。通常の手順で成分を分離して複製させるのには、それと違いかなりの時間を有します」
「枕元輸血?」
「今は一般的には行われていない方法ですが、近親者や、同型の血液型の提供者から直接輸血をする方法です。ただしこの方法は、ドナー(提供者)の血液を取り込むことによって、GVHDなどの免疫関係の合併症を起こすリスクがあります」
アーノルドの説明は淡々と続く。
「これは推測ですが、ビッグミリオンの代表である鬼頭小次郎が、“自分に輸血できる血液型だと確認してから”紫苑くんに万能ワクチンを注射したんじゃないかと。しかも情報が漏れる事を恐れ、とっくに現物は手元に無いのかもしれません。つまり……鬼頭小次郎に紫苑くんを渡したら、万能ワクチンは世に出て来ない可能性が高いと言う事です」
「なるほど。少し難しいが、大体分かった。とにかくこっちに至急向かってくれ」
住所を知らせて電話を切ると、俺は紫苑を見つめた。
「おまえは、自分の知らないうちに『人類の救世主』にされていたんだな」
だが、紫苑は別の事を考えているのか、少し複雑な表情だ。
「今の説明によるとさ、誰かに輸血するとして俺と血液型が合わない人はどうするんだろ?」
困った顔をして俺たちをみまわす。
「ちなみに、紫苑って何型なの?」
ズバッとあずさが聞きにくい質問をしてしまう。
「B型のプラスだよ。えーと。――みんなは?」
「あたし、B型」
「よっしゃあああ! 俺はね、O型」
「謙介さん……。よっしゃあああ! じゃないよ。いざというとき俺から輸血できないじゃん」
心配そうな視線を痛い程感じる。
「だってこればっかりはしょうがないし、テンション上げるしかないじゃん。俺、聞く前からおまえと違うような気がしてたんだよなあ」
がっかりした様子の二人に見つめられる中、俺は場の空気を変える必要を感じた。
「大丈夫だよ。もし発症しても、お前らの事を絶対に忘れるもんか。もし忘れたりしてたら、得意のパンチで一発ブン殴ってくれたらすぐに思い出すよ」
そう言ってからにこっと笑ったが、二人の表情はさらに暗くなっていった。