ビッグミリオン
「ああ、君か! 例の勝負は本当にアツかったな。私も年甲斐も無く興奮したよ、はっはっは! まあゴールドマンに賭けて、結局はとんだ散財をしてしまったがね。そうそう、彼はあのまま病院に運ばれて今も入院しているよ。伝説ってのは――散る時は儚いものだな」
「本当に申し訳ないです。全てを話したいんですが、今は時間がありません。ゴールドマンさんは本当に素晴らしいディーラーだったと思います。もしあんな事が無ければ、完全にこちらが負けていました。ところで……。もし良かったらでかまいませんが、俺をここからあなたの車に乗せてっていただけませんか? 突然あつかましいお願いをして申し訳ありません」
今は本当に時間が無いが、(もし生き残る事ができたら、またこの人に会いに来よう)と思いながら俺は深々と頭を下げた。
「ああ、全然かまわんよ。どこのカジノまで送ろうか? 最近ディーラーがばたばた謎の病気で倒れているみたいだが、『我々が作り出したこのベガスは、最後の一人が倒れるまで営業を止めない』とオーナーたちは意気込んでおる。君たちは、まだこっちで勝負は続けるのだろ?」
にっこりと笑うと目じりのしわが、彼の顔だちをひときわ優しく際立たせる。
「いえ、勝負には勝負なんですが、実は今――追われてるんです」
「おっと! 若者は元気があっていいな。そういうのも私は嫌いじゃないぞ。実はな、昔はよく私も警察のお世話になったものだった。分かった、だが一つだけ条件がある」
急に彼の顔から笑顔が消え、何とも言えない真剣な顔になった。
(どんな難問が出されるのだろう)と俺は――ごくりと唾を飲みこんだ。
「このカートがすごく重くて年寄りの力じゃかなわん。車までひとつ押してくれないかな?」