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かざぐるま
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novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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 その中にあずさを肩車してピースサインを出しているヤツもあった。写真の中のあずさは、これ以上ない程の笑顔で白い歯を見せている。俺は気づかれないようにそっとその写真を手に取り、スーツのポケットに仕舞った。
「これを見てくれ!」
 ひらひらと手を振る紫苑の手にはメモが一枚あった。ドレッシングテーブルの上にに無造作に置いてあったらしい。
「女は預かった。返して欲しければ新ワクチンを渡せ。なお、十五分間このホテルは無人になっている。信じられないかもしれないが、我々は“時間を”買い取った。もちろん防犯カメラの時間もだ。ではまた連絡する。Jより」
「時間を買い取るだって? バカな」
 もしこれが本当だとすると、途方もない金か権力が必要だろう。
「とにかく、あずさが拉致された事実は確かだ。手がかりが他に無いか部屋をくまなく探してみてくれ。俺はホテルの従業員を探して話を聞いてくる」
 返事も聞かず、部屋を飛び出した。一階のドアが開くと、とたんに狐につままれた気分になった。驚くことに、さっき駆け抜けたロビーにはいつもと同じように人が溢れかえっていて、フロントも普通に業務を行っているではないか。
 怒りが湧いてきたが、ここは冷静にならないといけない。
「ちょっといい? さっきここに誰もいなかったんだけど、君たちはどこにいたんだ?」
 俺の言葉にフロントの女性は首を傾げるだけだ。
「お客様のおっしゃった事に対して、私たちには皆目見当がつきません。ずっとここに立っていましたから、たぶん見間違いではないかと思います」
 妙な事に、彼女はマニュアルどおりの笑顔でそう答えた。だが、普通だったらこんな質問に対しては、少しは当惑した顔をするはずだ。その反応は、まるで“答えを用意していた”かのようだった。
 これでは埒が開かない。
 念のため、接客が終わったばかりのコンシェルジュにも同じ質問をしてみる。予感はしていたが、判で押したように同じ答えが返ってきた。どんな質問をしても、手ごたえがまるで感じられない。
 ロビーの数人の客にも質問したが、肩をすくめるだけだったので、俺はとりあえず部屋に帰ることにした。
「紫苑、ダメだ。みんなロボットの様に『知らない』と同じ答えだ。しまいには『いい精神科医を紹介しましょうか?』って言われたよ。まるで訳が分からない。そっちは何か分かったか?」
 気持ちは焦るばかりだった。やはり拉致されたのは本当なのか。
「ダメだね。押し入った形跡が全くない。こうなったら、Jというヤツから電話を待つしかないかもね」
 その時、紫苑の言葉に被るように携帯が鳴った。
「はい。えっ? 新ワクチンが届いた? ずいぶん早いな。三十分後ね。分かった、部屋で待ってるよ」
 電話を切ると何か相手の言葉に違和感を感じ取ったのか、彼は少し首をかしげている。
「アーノルドからか? ……どうも妙なタイミングだな。あずさの事と関係なければいいけど」
「うん。何か声の調子がヘンだったな。俺さ、嘘をついている人間は声ではっきりと分かる時があるんだ。例えるなら、昔いじめられていた頃、いじめっ子たちが先生に嘘をつくときの声のトーンだよ」
 どう考えても、CIAが俺たちに嘘をつくメリットは無いはずだ。だが――もしあずさが拉致された件に関係しているとすれば、ホテルの時間を買い取るには大きな組織の力か、金しかない。
 携帯を借りてアーノルドにかけ直す。
「申し訳ないけど、ひとつ頼まれてくれないか。実はうちのチームの女の子がさっき誘拐されたんだ。そうだな、たぶん一時間以内だ。CIAの衛星で探知できるかやってみてくれ。……分かった、ありがとう。では三十分後に」
「時間が少しかかるけど、ここに来るまでには分かるって言ってた。だが彼らがもし関わってたとしたら来てもデタラメな事を言うだろうな」
 携帯を放り投げて返すと、紫苑は真面目な顔をして無言で頷いた。
 とにかくまずは新ワクチンを手に入れなければ、Jと取り引きはできない。CIAがどんなに疑わしくても、三十分後には取り引きだ。
 Jからの電話は――まだ無い。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま