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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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 八日 同時刻

「いい名前つけたじゃねえか。俺は気に入ったぜ」
 あつしたちの部屋では寄せ集めチーム「JACKPOT」が発足していた。
 このチーム名は全員で決めたものだが、その由来は『十四億円を当てたラッキーなモヒカンくん』にあやかって付けられたらしい。確かに彼の当選金があればこそのチームだった。新ワクチンを手に入れるためには、これから大金が必要になるに違いない。
 応接間にはモヒカン、リンダ、あつし、ゴリラ、リーマンの五人全員が顔を揃えていた。
「昨夜『チーム8』のベイブが『セブン』の一人に襲われた。私は独自の情報で動き、現場を録画してきた。まずこれを見てもらいたい」
 リーマンがデジカメの動画をテレビに繋ぐ。
 画面では篠崎紫苑がベイブを一瞬で気絶させた後、チップを取り出す様子が隠し撮りされていた。身体の影でよく見えないが、チップは取り出されたあと閃光と小さな爆発音を放っているように見える。
「これを見る限り、『セブン』はCIAと組んだ事になる。その後集めた情報によると、彼らはこの行為の代償として、CIAから新ワクチンを明日にも提供されるらしい」
 その表情から察するに、相当自信のある情報のようだ。
「ふうん。チップって無理やり取り出すと爆発するのね。ところで、私たちもそろそろ動きださないとワクチンが切れて死んじゃうわよね。もうあと一週間もないわ」
 正面に座っているあつしを警戒しながら、リンダは少し焦った様子で立ち上がる。
「ねーちゃん、そう睨むなよ。要は俺たちのワクチンが切れる前に、明日こいつらに提供される新ワクチンを横取りすればいいんだろ? 金さえ使えば可能だぜ。リーマンさんは一応、『金は出すから、とりあえず五人分わけて欲しい』ってアーノルドたちに言ってみてくれ。まあ、たぶん無理だろうけどな」
 頭の中であつしは何か作戦を考えているようだった。
「ちょっと待てよ! おまえら勝手に俺の金を使うとか言ってるけど、ちゃんと俺を通してからにしてくれよ!」
 モヒカンはジャックポットを当てた日から、少し挙動がおかしくなっていた。あの日を境に、知らない人からも昼夜問わずに電話がかかってくるようになった。カジノを歩けば大勢に絡まれるし、寄付を募る団体に囲まれたのも一度や二度ではない。全ての人が自分の金を狙っているように見えるのは無理もないだろう。
 少なくともその髪型と服装を直せばまだ目立たないのだが、誰がアドバイスしても「これが俺のポリシーなんだよ!」と彼はまったく聞き入れようとしなかった。
「おいおい、この作戦を成功させないと俺たち全員がもうすぐ死ぬんだぜ? 金がいくらあったって死んだら元も子もねえだろうが。俺たちがたったひとつだけ一般人より有利なことは、この情報を知っているって事だけなんだからな」
 相変わらずの人を見下した笑いを浮かべながら、モヒカンの肩をぽんぽんと叩く。
「わかってるよ……。わかってるけど」
 モヒカンは泣きそうな顔をしてリンダを見る。
「残念だけど、潔く諦めなさい。ねえ、もしCIAが私たちにワクチンを分けてくれなかったら、どんな作戦で行くつもり?」
 全員があつしに注目した。
「いいか、CIAが『セブン』への約束を守って、新ワクチンを分けるってことを前提の話なんだが……」
 全員に耳を貸せというジェスチャーをした。
「はあ? あんたそれサイテーよ! 他に方法はないの?」
 あつしとリーマン以外は、全員が顔を見合わせている。
「ないな。だが、もし手に入れられたとしても三人分だ。この中の二人は、しばらくの間は諦めるしかない」
 あつしの冷たい言葉に部屋の空気が凍り付く。彼の性格から本能的に危機を感じとったのか、特にゴリラの顔などはまさに蒼白になっていた。
「じゃあ、あんたとゴリラが諦めなさいよ! お金はこっちが出すんだから」
 立ち上がったリンダは二人を交互に睨んだ。
「バーカ。作戦を提案したのは俺だぞ? 他にいい方法があるんなら勝手にやってくれ」
 その言葉を受けてついにリーマンが立ちあがった。
「ケンカをしている場合じゃないぞ。接触感染から空気感染に変化する前に何とかしないと手遅れになる。もし、このあつし君の作戦がうまくいって新ワクチンを手に入れたら、すぐにオリジナルを分析して培養を行い君たちに分ける用意はある。とりあえず、我々CDCがひとつは確保したい」

「それって一週間以内にできるのかな? じゃなきゃ俺たちは終わりだよ」
 弱々しい声でモヒカンが質問する。その小さなつぶらな瞳は少し潤んでいるようにも見えた。
「手に入れさえすれば大丈夫、約束する。ところで、先ほど気になる情報が入った。まあこの情報に関しては確認はとれていないんだが……。実はシーズン1用のワクチンだけは、七日の時点でCDCにも少量だが提供されていたらしいんだ。もしかしたらエージェントの誰かが横流ししたのかもな」
「けっ。エージェントじゃなくて、ビッグミリオングループの誰かかもしれねえぜ。このワクチン関係は、いま世界で一番価値のある商品だからな」
 吐き捨てるようなこのセリフを聞いても、リーマンは顔色ひとつ変えずに冷静に話を進めていく。
「かもな。では話の続きだが、それをラボで感染者に投与したところ全く効かなかったらしい。たぶん被験者は“脳に異常プリオンが生成され始めた状態で”ワクチンを投与されたからだ。つまり……感染してからでは遅すぎるんだね」
「じゃ、じゃあシーズン2用のワクチンを、感染する前に接種しとかないとダメじゃない。後から接種しても意味が無いわ」 
「そういう事だ。CIAが新ワクチンを開発しているという情報が確かならいいんだがな。これはワクチン漬けの胎児から抽出したらしいが、まだ結果を出すことは時期的に不可能だろう。空気感染した者が確認できていないのだから仕方がない。まあ言い方は悪いが、我々は幸運なことに第一段階はクリアしているんだ。生き残るためには目の前の第二段階をクリアしなければならない」
 そう、一般人はまだシーズン1のワクチンさえ持っていない状態なのだ。
「もう……いいよ。俺この金使いまくってから死んじゃおうかな。その前にねーさん、今から結婚しよう」
 頭がこんがらがってもうめんどくさくなったのか、モヒカンはソファに倒れこんだ。冗談ぽく言ったにもかかわらず、リンダの顔には何故かみるみる赤みが差していく。
「どっちにしても、新ワクチンは手に入れなきゃならねえ。ひとつは速攻でCDCに送るとして、残りの飴玉はふたつしかない。でもやる価値はあるぞ。さあ、どうする?」
 あつしのこの言葉に動揺したのか、何となくお互いをけん制しあう。モヒカンだけはまだふて腐れていたが、いきなり立ち上がると手を大きく広げる。
「分かった! やるよ! 『JACKPOT』はすごくダーティーなチームになっちゃうけど、俺たちの目的は一緒だ。――ただし、ひとつだけ条件がある」
「何だ? 言ってみろよ」
 威嚇するようにゴリラがデカい顔を近づける。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま