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かざぐるま
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ビッグミリオン

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『日本・横浜』 四月八日


「遅くなった。なんだ、まだ帰らなかったのか」
 ブライアンが横浜に着いたのはもう深夜の二時をまわった頃だった。「今夜帰る」と連絡を受けたカエラは何かと理由をつけて会社に残っていた。待ちきれない様子でつかつかと彼に歩み寄ると“ハグと言うよりは恋人同士の抱擁”をする。そのまましばらく抱き着いて離さない。
「ところで、入金は確認したか? CIAにモルモットは無事引き渡した。そうだ、ひとついい知らせがある」
 目を細めニコっと笑うと、カエラの身体を注意深くそっと引き離す。
「なあに? もしかしてプロポーズしてくれるの?」
 小悪魔のような微笑みを浮かべながら彼を見上げる。その拍子に大きめのイヤリングが揺れ、モニターの光を反射してキラっと光った。
「その答えはノーだ。今はその時期じゃない。それはそれとして、モルモットの胎児からシーズン2用のワクチンが作れそうだよ。しかし、シーズン3対応のワクチン精製はかなり難しいらしい」
「あら本当? じゃあ本部に潜入するリスクを背負うことはないわね。エリザベートとの“特別な”関係も、もう終わりね」
 彼のおでこに人差し指を当て、嬉しそうにはしゃいだ。しかしその彼女を見るブライアンの眼は心なしか冷めている。
(終わりなのは、君との関係かもしれない)と彼が考えているとは、今のカエラには知る由も無かった。
「いや、まだシーズン3用ワクチンのヒントを手に入れなければならないし、ある秘密を探るまでは作戦は続行する。ここに帰る前にワシントンの本部にも寄ったんだが、そのエリザベートと少し話した。そして分かったことは……。【シーズン2とシーズン3のワクチンは、両方ともある人物に埋め込まれている】ということだ。てっきりラボや倉庫に保管してあるかと思っていたが、オリジナルは人間に埋め込まれているようだ」
「え? まさか。人間にですって?」
「正確に言うと、ある人物の血液に『万能ワクチン』が流れている。これは全てのシーズンに対応できるらしい。そして、その人物とは――代表の『孫にあたる人間』だ。組織もうまい隠し場所を選んだもんだな」
 エリザベートからこれを聞き出すまでの苦労を急に思い出したのか、彼の顔は苦しそうに歪んだ。
「じゃ、じゃあその人を探せばいいのね」
「そう簡単には探せないだろう。1936年から発足した関東軍防疫部が731部隊の前身だから、その時まだ彼は生まれていなかった可能性がある。日本人ということは確かだが、彼の人生は謎な部分が多いんだ」
「そもそも731部隊そのものも謎に包まれているじゃない」
「そうだな。いま分かっている事は、1945年の終戦時に731部隊は解散したが、実験結果などをアメリカ軍に引き渡す事を交換条件として無罪になった人たちがいるってことだ。彼らは戦後の医学界を発展させた影の立役者だとも言われている。その中にもし代表の親族がいたとしたら……」
「恐ろしいわね。実験結果をわざと全部渡して無かったのかもしれない」
 よく手入れされた眉をひそめながら呟いた。
「その可能性は高いよ。エリザベートが調べた結果、代表の名前は偽名らしい。大金を使ってうまく隠したんだろう。本当の名前さえ分かれば、彼の孫を探し出せるかもしれない。彼女は――もうすぐその名前が分かると言っていた」
「なによ! 結局まだあのアバズレとの関係が続くんじゃない。私にとってはバッドニュースだわ」
 髪の毛をかきあげ、後ろを向くとデスクのテーブルに置いてあった車のキーを彼に放り投げる。
「運転して。出勤までまだ時間があるわ。今夜はうちに泊まってもらうわよ」
 モデル出身だけあって、先を歩くカエラの後ろ姿のシルエットは文句無く素晴らしかった。
「分かった。だがひとつ約束してくれるか。“睡眠不足は身体に非常に悪い”から少しは寝かせてくれ」
「だ、め、よ」
 両手を広げ天を仰いだあと、彼は真っ赤なアウディR8スパイダーのエンジンをかけ深夜の駐車場の空気を軽く震わせた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま