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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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 ドアが荒々しくノックされた。モヒカンにつられて机に突っ伏したまま眠ってしまったリンダはその音で目を覚ます。
「ったく、うるさいわね。またマスコミかしら」
 白いクローゼットの扉を開け、髪の毛を直すとドアを開ける。
「よお、久しぶり! ってこないだ会ったな。この度はおめでとう。ニュース見たよ」
 あつしがシャンパンを持ってニヤニヤしながら立っていた。その後ろには頭ひとつデカいゴリラの顔も見える。
「何でこの部屋が分かったのよ。今取り込み中だから帰ってくれない?」
 冷たく言い放つと下唇を突きだす。こいつらがわざわざ訪ねて来るって事は、何か良からぬ事を考えているに違いないと思っているようだ。
「以前、このホテルに入るのをたまたま見かけたからね。まあとにかく入れてくれ。悪い話じゃない」
 勝手にミニバーまで歩くとワインクーラーに氷を入れる。笑顔を見せていたが、その眼は部屋の隅々まですばやく見廻していた。
「そこでイビキをかいているのはモヒカンくんかな? リーマンはどうした?」
「しばらく帰って来てないわ。こっちが聞きたいくらいよ。ところであなた達なんの用? また騙そうったってそうはいかないわよ」
 スタート日の怒りが蘇ったのか、顔は少し紅潮してこめかみに血管が浮かびだした。
「とんでもない! 今日はお祝いを言いに来ただけだ。と、言いたいところだが君たちにとって大事な情報を持ってきたんだ。いいか? 単刀直入に言うと、このままでは俺たちの命はヤバい」
「しんじゃうんだぞー!」
 口に手をあててゴリラが小さい声で後ろから煽る。
「てめえはだまってろ! おい姉ちゃん、真面目に聞けよ。実は俺たちに持たされた資本金の紙幣は、ウイルスで汚染されていたんだ。あんたも! 俺も! そうとも知らずにこのウイルスをベガス中に撒き散らしていたんだ。分かるか?」
 ゴリラはいきなり怒鳴られて、しゅんっとして下を向いている。そして部屋の空気もその瞬間からだんだんと悪くなっていく。 
「へーえ。本当なら怖い話だわね。でも私たちこの通りピンピンしてるじゃない。何か証拠でもあるの?」
「疑うんなら、これを見てみろ。命に関わる情報だからしっかり読めよ」
 椅子に座れという風に顎を突き出すと、自分も革張りのソファにどかっと座った。目の前ではモヒカンが何も知らずにのんきにイビキをかいている。
 リンダはモヒカンの足を重そうにどけると、隣に座り報告書に目を通し始めた。
「これって――現実の事なの? 信じられない。私たち紙幣にべたべた触っちゃったわよ!」
 読み終わったその顔は紙のように真っ白だ。
「現実だよ。俺たちの首に埋まっているチップの中のワクチンが、症状が出るのを押さえていると思う。そして、このワクチンの効果がどれくらい続くかは……」 
「約、二週間だ。よくそこまで調べたね」
 その声に全員が振り向くといつの間にかリーマンが壁にもたれて立っていた。ゴリラは一瞬リーマンを睨んだが、その精悍な姿を見て目を逸らす。その男はもうエージェントの風格を隠そうともしていなかった。
「よう、元気だったか? おいおい、その脇の下の膨らみは何だ? まさか拳銃じゃねえだろうな」
 ニヤっと笑いながらもあつしはいつでも立てるように浅く座り直した。
「まさか。とりあえず君たち、ジャックポットおめでとう! 私の資金もそろそろ無くなる所だったよ」
 笑顔でリンダに親指を立てると、ミニバーの椅子をひとつ手に取り『奇妙な会合』に自分の席を作った。
「さて、リンダくん。残念ながら、この人たちが言っていることはほぼ正解だ。我々は既に感染している可能性が高いと言える。しかし、ワクチンがそれを食い止めているうちは発症しない」
 悲しい顔を作りながらリーマンは淡々と話し出した。
「えっ! じゃ、じゃあ二週間って言ったわよね? それが過ぎるとまさか……」
「ああ。機長がいきなり記憶を無くしたってニュースを見たか? そう、あれがこの病気の症状なんだよ。自分の過去、恋人や友達の記憶はおろか両親の顔さえも忘れてしまう。それも短期間にね」
 最近のニュースで、ここにいる誰もが機長の奇行を耳にしていた。
「なるほどなあ。感染は思ったよりも広がっているってことか。で、あんたは何者なんだよ。まずそれから説明してくれ」
 あつしは挑戦的な鋭い眼光でリーマンを睨み付けていた。対立しているヤクザにさえ、そんな眼はしなかっただろう。その腰に挟んだ拳銃のせいか、少々座り心地が悪そうに見える。
「いいだろう。私は、アメリカ政府から派遣されたエージェントだ。今回のこのチャレンジに強引に参加させてもらった。もちろん、このウイルスを調べるためにだ。その為には少々乱暴な手段もとることもある。そうだ、そこのゴリラくん。こないだは蹴ってしまって本当に悪かった」
 ゴリラに向かって軽く頭を下げた。つられてゴリラも神妙に頭を下げる。
「じゃああれか? うちのチームのおばあちゃんが殺されたのも、それに何か関係があるのか?」
「さあ……それは分からないな。いま分かってることは、私が身分を明かしたこの瞬間から君たちにも協力してもらわなければならないって事だ。異議は認めない」
 おばあちゃんの話を出された時に一瞬目をそらしたが、最後まで低い声で威圧的に答えた。
「なんだよ、それは脅迫か? 協力すれば、俺たちの命は助かるのか?」
 不安な顔をしてゴリラが発言した。
「我々が合同チームを作って協力しあえば、もしかしたら助かる可能性はある。金はかかるかもしれないが、資金は……そこで寝ているモヒカンくんが握りしめているじゃないか。ただ、その為にはCIAを出し抜かなければならないが」
「はあああああ!?」
 全員が口をぽかーんと開ける。モヒカンだけはリンダに足を強引にどかされたためか、エビのような体勢でまだイビキをかいていたが。
 話し合いが終わるとリーマンがリーダーとなり、今日この場でチーム3とチーム4の『奇妙な合同チーム』が発足した。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま