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かざぐるま
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ビッグミリオン

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『ラスベガス・チーム4』 四月七日


「リーマンさんはまだ戻っていないみたいだな。早く知らせたいのに」
 モヒカンとリンダは手にそれぞれ一枚ずつ小切手を持っていた。
 彼の手には普通の大きさの小切手が握られていたが、リンダの抱えているのは〈大きな小切手〉だ。
「ねえ、このデカい小切手は要らないんじゃないの?」
 部屋の壁にそれを立てかけながら口を尖らせる。エレベータに乗せる時に相当苦労したのだろうか、大きな小切手は真ん中に折り目が入っていた。
「要るってば。リーマンさんを驚かすのには超効果的だろ?」
 革張りの椅子にふんぞり返ると、シャンデリアに透かすように手元の小切手を確認しながらにこにこしている。
「しっかし、残り五百ドルからの大逆転かあ。ベガスってこんなアメリカンドリームみたいな事が本当に起こるんだなあ」
 書き込まれている千四百万ドルの数字を指でなぞりながら、しみじみとつぶやく。
「まあ、あたしのおかげでもあるわよね。感謝してね」
 緊張が解けてきたのか、リンダの口元も自然に緩んできていた。突然、その雰囲気を祝福するかのような音で内線電話が鳴り響いた。
「はい。え、インタビュー? いえ、間に合ってます。契約書にサインしてある? ……はい。分かりました」
 少し驚いた様子で首を傾げながら電話を切った。
「あんたマスコミのインタビューを受けるって契約書にサインしたの?」
 あきれた様子でモヒカンを睨む。
「うーん。ヤマザキさんに言われるがままにサインしたから、もしかしたらイエスにチェック入れたのかも」
 自信がなさそうに、あきれ顔をしているリンダを小さな眼で見上げている。
「一時間後にまたカジノまで来いって言ってたわよ。あと、それも持って来てくれって」
 彼女の目線の先にあるのは先ほど立てかけた〈折り目のついた小切手〉だった。
「しょうがないわね。シャワーを浴びて着替えるわ。ひとつ忠告しとくわよ。あんたあの茶色のジャケットだけはやめなさい」
 笑いながらそういうと、スパンコールの付いた黒いドレスをその場でいきなり脱ぎ始めた。
「おい、時間が無いのは分かるけど、ここで脱ぐなよ! 分かった。ちょっとジャケット買いに行ってくる」
 小切手を大事そうに胸のポケットにしまうと、モヒカンはふかふかの絨毯を踏みしめながら部屋を出て行った。

 一時間後、眩しい照明に浮かんだ二人は、注文されたとおりの笑顔を苦労しながらも作っていた。
 そのインタビューでは「お金は何に使いますか?」、「当たる予感はしましたか? 何ドル使ってジャックポットを引き当てたんですか?」などの質問が矢継ぎ早に飛んでいた。
「さ、最初の一回転で当たったんで予感も何もありません」
 ひきつった顔でモヒカンは答えるが、彼の顔は明らかにもう帰りたそうだ。
 何を考えて購入したのか、彼の着ているジャケットの色は目の覚めるようなローズ・レッドで、その姿はまるでいんちきマジシャンのようだ。通訳を通して最初は丁寧に答えていたが、後半はもう面倒くさくなったのか「イエース!」しか言わなくなっていた。
 その会場には地元のテレビ局と新聞社も来ており、二人のひきつった顔はその日のローカルニュースと同時に、ネットの映像にも映し出さることになる。
 そして、部屋に帰ってからもモヒカンたちの試練は続く。
「おい! 近藤おまえマジか? 俺? サトルだよ。おまえの顔が今ネットで流れてるぞ。日本に帰って来たら俺らに借りた金を千倍にして返せよ。つーか、ハコ借り切って毎日パーティーしようぜ!」
 さっきからモヒカンの携帯電話は鳴りっぱなしだ。
 恐ろしい事にネットに映像が流れてからすぐに、友人を始め家族、親戚、学校の先生、しまいには今まで会ったことない人たちからひっきりなしに電話が掛かってくる。
「ねえさん。……俺、もう日本に帰りたくねえよお」
 モヒカンは乱暴に携帯の電源を切ると、ソファにぽいっと投げた。インタビューが終わってまだ二時間しか経っていない。
「怖いわよねえ。宝くじを当てて人生が狂っちゃう人の気持ちが分かるわね。私の携帯もずっと鳴りっぱなしよ。しまいには寄付だのなんだのって。いったいどこで番号を調べたのかしら」
 うんざりした様子でテーブルに突っ伏す。
「ふあーあ。リーマンさんに電話してさあ、事情を話そうよ。きっと彼なら一番いい方法を考えてくれるはずだよ」
 あくびが混ざり、言葉尻が怪しくなってきている。彼はもう相当疲れているようだ。
「そうね。そろそろ帰って来てもいいはずだけど。彼が戻ってきたらみんなでミーティングしましょ」
 返事が無いので振り向くと、モヒカンはすでに静かな寝息をたてていた。
 その手にはしっかりと超高額の小切手が握られ、いい夢でも見ているのか口元はとても幸せそうに微笑んでいた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま