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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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 突然――大きな拍手が二人の耳に聞こえて来る。拍手をしているのは〈ガリガリ〉アーノルドだ。
「はい、そこまで。所属は違っても同じ国を愛する者同士だろ?」
 まだ睨み合っている二人に近づくと、両手をそれぞれの腕に添え、ゆっくりと降ろさせた。
「CDC上部機関の、保健福祉省さんは銃まで持たせるの?」
 DOLLは両手を広げてソファにもたれると、やっと笑顔を見せる。
「私は特別でね。何しろ時間がないんだ。君たちも知っていると思うが、今回は世界的なパンデミックに発展する可能性が高い」
 リーマンも銃に安全装置をかけ、脇のホルスターにしまった。
「時間が無いのにCIAとCDCが、偶然ベガスに休暇で来ちゃったって?」
 アーノルドが場を和ませようとジョークを言ったが、誰も笑わなかった。肩を竦めると二人に椅子を勧め、紅茶を入れる名目でキッチンに避難していく。
「情報はそちらの方が多いようだね。我々CDCはハッキリ言うと出遅れている。世界でいち早く病原体を管理すべき組織なのに、だ。ところで君たちは、ビッグミリオンに潜り込んで何が分かったんだ?」
 椅子から身体を乗り出すようにして質問する。
「そうね。こうなったら互い隠してもメリットはないわね。でも、私たちの身分は他言無用よ。実はね――ビッグミリオンはひとことで言うと『カルト集団』なのよ。太平洋戦争時代の亡霊が今も元気に蠢いているわ。恐ろしい事に、あの731部隊の生き残りも関与しているらしいの。代表は日本人って噂だけれど、私たちのレベルじゃ顔さえまともに見た事はないわ。私の兄が組織の幹部と接触しているけど、『シーズン2のワクチンを手に入れるのは難しいだろう』って言ってる」
「シーズン2とは?」
 眉をしかめて、更に身を乗り出す。
「シーズン1は接触感染。これは分かるわね? シーズン2はそれに加え空気感染も伴うのよ。私たちの首に埋まっているチップのワクチンはシーズン1用なの。いい? 良く聞いて。『このウイルスは自分で特性を変化させる事ができる』のよ」
「バカな。空気感染なんかしだしたら、合衆国大統領でさえ今キャンディを舐めていることを忘れるぞ。なぜ君たちは知っていたのにもっと早くこの計画を止められなかったんだ? CIAは無能揃いか!」
 リーマンのこめかみには血管が浮かび、眼には凶暴な光が灯った。
「ちょっと、酷い言い方ね。このカルト集団に潜り込むのにどれだけ兄と私たちが苦労したと思うの? 戸籍も指紋も別人のを用意して整形までしたのよ。そして入社したら……これ見て」
 DOLLの肩には『STU』と書いたタトゥーが掘られていた。キッチンでは、アーノルドも袖を捲り上げ同じタトゥーを見せながら唇の端を曲げている。
「上層部は隠しているけど、ラテン語でSeptem・Tres・Unusの頭文字を取っているの。意味は『731』よ。社員には全てこの刺青が入っているわ。まあ、本当の意味を知っている人はほんの僅かでしょうけど」
 女性のDOLLにとって、自分が望まない刺青を入れられる事は想像以上に辛かったのだろう。乱暴にドレスの袖を降ろすと軽く舌打ちをした。
「ということは731部隊の生き残りか、その意志を継ぐ者によってビッグミリオンは運営されているという事なのか?」
 目を丸くして驚くと、ポケットから電子メモ張を取りだし何かを打ち込み始めた。
「それを探るのも私たちの任務よ。これからCDCでのあなたの任務も……険しくなっていくはず」
 DOLLが『も』に力を入れたことに違和感を感じたのか、リーマンは手を止め顔を上げた。
「これはまだ未確認情報だけど、兄ブライアンが幹部に上手に取り入って聞いた話では『シーズン3』もあるかもしれないのよ。私たちの任務のひとつはワクチンを手に入れる事だったけれど、それはシーズン2までの話だわ。……このウイルスが次にどのような進化をするかは、ほんの一握りの幹部しか知らないのよ」
 よほど兄の任務の一部を憎んでいるのか、今度は『上手に』という単語に何か憎しみを込めている言いかただった。
「なるほど。いま分かっていることは、まだこれは始まりに過ぎない――と。これは私の番号だ。こちらも何か分かったら連絡する」
 音もなく椅子から立ち上がると、紅茶のおかわりを入れているアーノルドに軽く手を上げ部屋を出て行った。
「ねえ、これで良かったのかしら? もしCDCがこの情報を元に表立って動きだしたら、きっと予想以上のパニックになる。例え兄の作戦が成功して新ワクチンが出来ても、彼には行きとどかないわ。真面目な人みたいだから何か、ね」
「そうですね。彼には気の毒ですが、我々の身分が晒された今となっては、組織同士の垣根を超える時期だと思います。どっちにしても感染は広がる一方なので、このリークが問題になることも無いでしょう。まあ――シーズン2が思ったより早く発動した場合は、逆にパニックにもならないでしょうから」
「……そうね。誰もが、自分が何をするべきかを『忘れてしまう』わね」
 ため息をつきながら冷たくなった拳銃をつまみあげると、テーブルの上にことんと置いた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま