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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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未来への代償


『ワシントン州立病院』 四月七日


「どんどん運び込まれて来るぞ! 病室が空き次第、順次隔離しろ!」
 裏の搬入口から病院スタッフの掠れた叫び声が聞こえて来る。
 今朝になってから交通事故で運ばれる人数が、通常の十数倍にも達していた。スタッフは身体中汗にまみれ、疲れ切ったその顔はすでに病人と見分けがつかない程だった。
 CDCからの通達により〈伝染病の疑いがると思われる〉ケガ人は、急ごしらえの隔離病棟に搬入されて行く。病院の周りにはマスコミが集まり、エドワード博士らが乗ったバンの通行さえも妨げた。
「通して下さい! CDCです」
 いらいらした表情の運転手がぱぱあんとクラクションを鳴らすが、一向に道は空かない。
「ご覧ください! CDCの車両が見えます。彼らが来たということは、これは伝染病なのでしょうか? 後ほどインタビューしてみたいと思います!」
 興奮顔の黒い肌の女性ニュースキャスターが、人ごみをかき分けてバンの窓を手のひらで激しく叩く。
「なんじゃこの騒ぎは。マスコミの動きが早すぎるじゃろ。とにかく機長がまだ生きているか電話で確認してみてくれ」
 スタッフが車の中から病院にコールする。しかし回線がパンクしているのか、全くつながらない。バンの周りには他のテレビ局のキャスターまで加わり、車内を無遠慮に覗き込んでいる。
 この状況で今降りるのは危険と博士は判断したのか、彼は後部座席に憮然とした表情でふんぞり返っていた。
 五分程するとやっとナースセンターに繋がり、院長に電話をまわしてもらう。
「CDCのエドワードですが、例の機長はご存命ですか?」
 病院内もパニックなのか、看護士の大声とストレッチャーの走る音が電話に飛び込んでくる。
「いえ、残念ながら先ほど亡くなりました。言われた通り、ご家族には感染の可能性があるので連絡はしましたが会わせていません。申し訳ありませんが、地下駐車場からお入り下さい」
 院長の声は疲れ、何か博士を責めているニュアンスも感じられた。もっと早く来いと言う事なのだろうか。電話はスピーカーだったので、車内の若いスタッフがてきぱきと準備を始める。
「よし、地下駐車場につけろ。おいおまえ、防護服を忘れるなよ。サンプルとして機長の遺体と、最新の交通事故のケガ人を確保しろ。家族の了解? 『アメリカ合衆国の命令』と言え! 全員レベル4の装備を着用! 繰り返す、レベル4だ!」
 隊長が大声で指示を出す。現実と思えない程の慌ただしさに、博士はふうっとひとつため息をついた。
 マスコミを半ば強引に車でかき分けて地下駐車場に着くと、車の中から血気盛んなスタッフたちが走り出た。オレンジ色の防護服を身に着け続々と病院に入って行く。しかし博士は何故かしばらく車から降りなかった。誰もいないのを確認しているのか、周りをじろりと見回すと自分の携帯電話を手に取る。
「わしじゃ。孫のミリアとドナルドを至急CDC本部に連れてきてくれ。ひそひそ声? いや、この会話を聞かれるとまずいんじゃ。とにかく今すぐに手袋とマスクを用意して、家族全員に装着させろ。一刻を争うぞ」
 ニューハンプシャーにいる娘夫婦と、その孫の安全を守るためにはこの電話がどうしても必要だった。
 この時、専門家の博士でさえも『接触感染のみ』を警戒していた。確かに、このウイルスの本性が明らかになる前までは的確な判断だっただろう。しかし、ウイルスは今まさに劇的な進化を遂げようとしていた。
 そう、『作った本人』でも想像がつかない程のスピードで。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま