ビッグミリオン
現実のものとも思えないこの話を聞いていると、逆に危機感が無くなってくるから不思議だ。さっきまではただお金を増やせば良いと考えていたのが夢のようだ。
「そうですね、半年程度でしょうか。詳しいことは分かりませんが」
俺は一度頭を整理した。つまりこの首に埋まっているチップのワクチンが無くなると、今は平気でもやがては死ぬということだ。しかも無くならなくても、いずれは空気感染が待っている。
「お解かりいただけましたか? 絶望しかないと思われるでしょうが、少しだけ希望があります。ビッグミリオンのトップの連中は絶対に『シーズン2対応ワクチン』を密かに所有しているはずです。僕たちの本当の任務は、ビッグミリオンの人間に扮したままそれを手に入れることなのです。しかし、このままでは非常に厳しいと言わざるを得ません」
「では、どうするんですか?」
「保険として僕たちの組織が、独自に『新型ワクチン』の開発を進めています。胎児の血液からサンプルを作るそうですが、残念ながら詳細は知らされていません。CDCや他の組織も動き出しているという報告も入っています」
この時俺は、この男が属しているのは国家レベルの情報組織だと確信した。
「要するに、その新型ワクチンができるまでこのチップに頼るしかないと言うことですね。あなた方がビッグミリオングループに居続けるためには、ベイブを早急に排除したい。だが、自分たちがこれ以上疑われたら、動けなくなってしまう。そのために俺たちに話を持って来たということですね」
ここで一息ついた。選択肢は限られている。
「少し時間を下さい。チームに戻って相談したいと思います」
「分かりました。しかし、時間はあまりありません。最後に、もう一ついいニュースがあります。もし『シーズン2対応ワクチン』が手に入った場合、僕の権限であなた方に優先して与えます。――ではよい返事を期待しています」
そう言うとテーブルに男の写真を置いた。俺は無言でその写真を受け取りポケットに突っ込むとラウンジを後にした。