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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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「おかえり! 割と早かったじゃない。ナンシーと女子会してたわよ」
 ホテルの部屋に戻ると、テーブルにはワインのボトルが転がっていた。二人とも顔が真っ赤で、ナンシーに至ってはTシャツがまくれてヘソが丸出しだ。
「ただいま。紫苑と競争しながら下見をしてきたよ。では、突然ですが紹介します。今日から俺のメカニックくんです。はい、拍手!」
「よ、メカニック。しっかりやるのよ」
 真っ赤な顔で拍手をしているあずさたちだが、あまり良く分かっていないようだ。
 ひきつった笑顔で両手を上げて拍手に答えてから、紫苑はヘルメットを革張りのソファに放り投げた。
「なあ、聞いてくれよ。謙介さんって絶対に元不良だぞ。俺、現役レーサーなのに負けちゃったよ」
 首を振りながらあずさの横にどかっと腰を下ろすと、赤ワインをびんグラスになみなみと注ぎこんだ。少しやきもちを焼いているような目でその二人を見てナンシーは一気に自分のグラスを空ける。
「バイク=不良ってのは違うと思うぞ。とりあえず約束通りビールおごれよ」
「はいはい!」
 しぶしぶ立ち上がると、途中のドラッグストアで買ったバドワイザーをみんなに振舞った。
 戦利品のビールが終わるころ、ナンシーの携帯の着信音が鳴った。しかし彼女は酔いつぶれて寝てしまって気づいていないようだ。長い呼び出しに文句を言いながら、酔っぱらったあずさが電話に出る。
「はろー?」
「アーノルドだ。カメラからの音声が途絶えているぞ。ペンダントの裏のボリュームを調整してくれ。それでもダメならまた連絡する」
「わっかりましたあ!!」
 あずさは電話を耳に当てながら敬礼した。だが、下唇まで突き出す必要は無いはずだ。
「……おまえさあ、人の電話に勝手に出るなよ。メカニックくんからもなんか言ってやって。っていうか、何がわかったんだ?」
 どうにかして起こそうとしているのか〈寝ているナンシーの鼻を真剣な目をしてつまんでいる〉あずさを見た。
「んー、何かペンダントのカメラのボリュームがどうのこうの言ってた。渋い声の男の人だったよ」
「ボリューム? ボリュームって言ったのか?」
 ナンシーの首にかかっているペンダントをまじまじと見た。例のフリーメイソンの目玉がついたペンダントヘッドだ。趣味は決して良いとは言えないが、よほど気に入っているのだろう。
 彼女の横に座り、ペンダントをゆっくり手にとってみた。近くで見ると、表には黒いレンズの様なものがあり、裏返すと小さなボタンと何かを調整する目盛りが付いていた。
 紫苑に手振りで〈電気を消せ〉と合図し、手探りでペンダントのツメを外す。中からころっと何かが出てきた。手触りから小型の機械だと確信し電気を点けると、それは小型の高性能カメラだった。
 すぐにナンシーの携帯を手に取り着信履歴から最新の番号を押す。
「――もうばれちゃったのか。こちらは『チーム8』だ。お察しのとおり君たちをずっと監視していた。ところで、少し会って話をしないか?」
 渋い声の男だ。
「監視? チーム同士で争うチャレンジじゃないのに、なぜ監視する必要がある?」
「詳しいことは会ってからだ。君たちに有利な話もある。あ、そうそう! ナンシーにはクビだって伝えておいてくれ。では三十分後にラウンジで」
 こちらの返事も聞かずに一方的に電話は切れた。


〈ガリガリ〉アーノルドから監視がばれてしまった事を聞いた〈DOLL〉キャサリンは深い溜息をついていた。
「もうちょっといい方法は無かったの? でもまあ、これで話を持って行くチームは決まったわね」
 長い脚を組みなおしながら、煙草の煙を天井に向かって吹きあげる。
「そうですね。我々の裁量で金を使うということは、他のチームと組んでもかまわないということですから」
「ちょっと! ――これブライアンには聞こえていないわよね。まあ、あなたのハッキング技術は最高レベルだし大丈夫だとは思うけれど」
「はい、衛星への復路に強烈なジャミングを仕掛けています。ところで、CIAからのワクチン供給が望めなくなったら、貴女はともかく僕はランクが低いので一年も経つと感染してしまいますが」
 トントンと自分の首筋を叩きながら心配そうな表情を浮かべる。
「それは安心していいわ。CIAから兄さんと私たちには、かなりの報酬が支払われるから。報酬にはもちろんワクチンも含まれる。前にも言ったけれど、私はビッグミリオングループを信用していない。特に〈沈黙の女王〉エリザベートはね」
 何かを思い出したのかDOLLの眼が急に険しくなり、軽く唇を噛んだ。
 エリザベートはブライアンに“必要以上に”目をかけていた。兄を慕う妹にとってそれは、不愉快以外の何ものでもなかったに違いない。
 その時、スイートのドアが開き〈童顔〉ベイブが部屋に入ってきた。
「しっ!」という風に彼女は唇に手に当て、アーノルドに素早く目で合図する。
「二人とも神妙な顔しちゃってどうしたんだい?」
 資料の束をテーブルに置くと、ベイブはテーブルの上に足を乗っけてくつろぎ始めた。
 ブライアンと同時期にビッグミリオングループに潜り込んだ二人には、ベイブの存在が致命的に邪魔だった。残り日数を考えると、そろそろ邪魔者には消えてもらわないとならないだろう。
「後は頼むわね」
 そう言い残すとDOLLは早々に寝室に消えていった。一方アーノルドはその細い身体を黒いスーツにくぐらせる。
「少し出かけてくる。明日からはもっと忙しくなるぞ」
 ベイブの鍛えられた肩をぽんっと叩くと、アーノルドは『チームセブン』に会うためにラウンジに向かった。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま