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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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『アメリカ・ワシントン』 四月五日


「もう一度見せてちょうだい」
〈沈黙の女王〉エリザベートが、会議室にいる二人の男に向かって静かに言葉を発した。今日はイラクでの実験結果を確認するために主要メンバーが集まった。会議室の床には毛足の長いふかふかの紫のじゅうたんが敷き詰められ、見事に3D化された映像が中央のテーブルの上に映し出されている。
 ここはワシントンにある『ビッグミリオン』の本部だ。
 映像はまず白い服を着たイラク人家族の紹介から始まった。父、母、姉、弟の四人家族が十メートル四方の実験室に監禁されているようだ。四角い部屋の内装は白く、中央に大きなテーブルが置かれている。ベッドがそれぞれの壁際に四つありトイレ付のシャワールームも見えた。
『家族のうち十八歳の姉だけにワクチンを投与済』とキャプションが流れると同時に、自動で画面が拡大、縮小し始める。
 一日目、二日目は何も変化は見られないが、三日目になると姉が両手を広げ、弟を指さして母親に強く何かを訴え始める。母親は目がうつろで無表情だ。
 四日目にふらふらと弟が倒れベッドで麻痺を始める。一方、父と母は意味もなく実験室を歩き回り異常な行動を取り始めるが、まだ歩き方はしっかりしていた。
 姉は弟のベッドの脇を片時も離れず、泣きながら看病している。しかし両親は全くそれに興味を示していないばかりか、近くを通るときに姉を指差して笑い転げた。
 五日目になると両親とも上体をゆらゆら揺らしながら、ベッドの上でぼーっとしている。
 六日目に姉は半狂乱になって弟の名を叫ぶが、もう誰の目にも死が迫っているように見える。
 七日目にはついに両親ともベッドの上で寝たきりになり、電気に打たれたように時々激しく暴れ出す。
 八日目、弟死亡。
 十日目、姉以外全員死亡。両親のベッドに腰掛け頭を抱える姉の姿は、とても十八歳とは思えない程に老けていた
 残酷な映像はここでは終わっている。

「以上です。……個体差はありますが、大体七日から十日で全て終わります。病理解剖の結果、予想通り脳に興味深い変化が起こっていました。娘はこのあとも発症しませんでしたが、精神に異常が認められたため一週間後に内密に処理しました」
〈皇帝〉サイモンが感情のない声で報告書を読み上げる。
「上出来ね。この娘のチップランクは?」
 もう一人の幹部に目を向ける。
「チップ容量に換算しますと、ランク0.1ぐらいでしょうか。感染を防げるのは約三十日程度です」
〈賢者〉エリックが事務的な口調で答えた。気怠そうに金縁の眼鏡を外すとテーブルにそっと置く。
「では、エクスプロージョンは成功ね」
「はい。しかしこの映像で分かる通り、これは密封された実験室で行われています。現場では効果が出るまで少し時間がかかるかもしれません。逆に、幼児など弱い個体はすぐに発症すると思われます」
 立ち上がると白いローブをなびかせながら機密ファイルをエリザベートに手渡す。それによると、すでに日本、アメリカ、イギリスなどで数十件の発症が報告されていた。

「シーズン1は接触感染。シーズン2は……楽しみだわ」
 すっと音もなく立ち上がりファイルを机に滑らせると、二人を残したまま部屋を出て行った。
「――CIAが動いているという報告を聞いたか?」
 サイモンは彼女が出て行ったドアを見つめているエリックの耳元に口を近づけそっと呟く。
「うむ。どうやらこちら側にインフォーマー(密告者)がいるようだな。まあ、この件は私に任せてくれ」
〈賢者〉エリックの眼に残忍な青い光が灯り出した。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま