小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ビッグミリオン

INDEX|36ページ/121ページ|

次のページ前のページ
 

『ラスベガス・チーム4』 四月四日


「ちょっと! あんた人のチップを後ろから持って行こうとしてんじゃないわよ!」
 リンダは脇から伸びたモヒカンの手をぴしゃりと叩き、振り向きざま睨んだ。
「いてっ! ケチくせえ事言うなよ。勝ったらちゃんと返すからさ」
 ブラックジャックのテーブルで負けまくっているポンコツ二人組が騒いでいるのを見て、女性ディーラーが苦笑いをしている。
 アツくなったリンダは、昨夜からずっと同じテーブルで勝負していた。すでに八千ドルが半分以下になっている。つまり、もう日本円にして四十万円程しか残っていない。
 カジノもそうだが、ギャンブルは長い目で見れば胴元(カジノ側)が勝つに決まっているのだ。
「あんた自分のチップはどうしたのよ?」
「――無くなっちゃいました、スイマセン」
 モヒカンはしょげ返っていた。彼の自慢のオレンジのトサカも、心なしか萎れているように見える。
「えっと、聞くのもめんどくさいけど一応聞いてもいい? 今度は何をやったの?」
「スロットマシンだよ。〈メガバックス〉って知ってる? 大人気のマシンでさあ、今ジャックポットの賞金が十億円を超えてんだよ。やっと台が空いたから勝負したけど、結局〈メガガックシ〉だよ」
「……あんた、まさかそれ面白いとか思って言ってるわけ?」
 彼女はくるりと背中を向けた。
「いえ」
「しょうがないわねえ。これやるからもう近づかないでよ。あんたが来るとツキが逃げちゃうわ」
 彼が可哀想だと思ったのか、百ドルチップ五枚を後ろに立っているモヒカンに肩越しに渡した。
「これっぽっちかよ。姉さんケチだなあ」
 聞こえないような小さな声でつぶやく。
「何か言った? よーし、今からその鼻のピアス引きちぎるわよ」
 邪悪な笑顔を浮かべながら振り向いたがもう居ない。トサカをなびかせながら全力で走って逃げていく彼の姿がスロットマシンに見え隠れしていた。
「ったくもう。でも、なんかアイツ憎めないんだよねえ」
 少し目を細めながらふふっと笑うと、次の勝負の前にマティーニを注文する。

 彼女は知らなかった。『ツイてない男』に渡したわずか五枚の百ドルチップが、この後『チーム4』の運命を劇的に変えるという事を。




『ラスベガス・チームセブン』 四月四日



 その頃チーム『セブン』のあずさと紫苑は、フラミンゴホテルのプールで束の間の休憩を楽しんでいた。
 このプールサイドはヤシの木に囲まれ、ベガスにいながらも南国ムードを醸し出している。色鮮やかなビキニを着た女性たちも、楽しそうな笑い声を上げながら人工滝の下をくぐり抜けて遊んでいた。
 残念なことに、俺は手元の現金を金庫にしまってから遅れて行くことになっていた。

「あずささあ、そのビキニちょっと胸を強調しすぎじゃね?」
 青いカクテルを両手に持って立っているあずさに、サングラスをずらしながら紫苑が笑いかけた。カクテルグラスを通った太陽光線が、細く奇麗な彼女の脚にゆらゆらと青く反射している。
「まずは『買って来てくれてありがと』でしょ! あんたじゃんけんだけは強いんだから」
 カクテルを渡すと、口をとがらせながら恥ずかしそうに胸のビキニを上に引っ張り上げる。
「サンキュー! しっかし謙介さん遅いなよあ。――そう言えばさ、謙介さんって最初見た時と比べると、かなり雰囲気変わったと思わない?」
 白いお揃いのデッキチェアに並んで腰を下ろした。傍らにはピンク色のビーチボールが水玉をはじいたまま転がっている。日光の下の、紫苑の腹筋は屈んだ状態でもくっきりと割れていた。
「そうね、最初会った時は何か自信が無さそうで暗い人だと思ったけど。今は全くの別人よね」
「だろ? 吹っ切れたって言うか、何か妙なカリスマ性が出てきてるよな。宗教でも始めたら成功しそうな感じ……だよね」
 ストローを口に咥えたまま、すぐ目の前を通った〈極めて刺激的な水着の女性〉を目で追いかけ始める。
「もともとリーダーの素質があったんじゃない? 目の付け所が他の人と違うし」
「そうだなあ。あの人なら着いて行っても大丈夫って気がする。ところで、あずさは謙介さんのことどう思ってるの?」
 表情を見逃すまいと、今度はあずさの眼をまっすぐに見ている。不意打ちをかけたらしい。
「えっ? ……ノーコメントです!」
 カクテルで酔ったのかは分からないが、突然の質問にうろたえたその顔は少し赤くなっているように見えた。
「はははっ! です! じゃねえよ」
 言葉尻のマネをすると、例の魅力的な笑顔を浮かべる。そして彼女から視線をそらすと、サングラスを上げて寂しそうに横を向いた。

「おーい! お待たせ」
 プールサイドで楽しそうに話している〈絵になるようなカップル〉を見つけて手を振る。
 ぶんぶんと手を振っているが、一つ心配な事が今の俺にはあった。出発前に急いでトランクに詰めたせいで、サイズの小さい紺の水着しか持ってきて無かったのだ。
「謙介さん……。ずいぶんセクシーな水着ですねって、その水着はないわー」
 くっくと腹筋を波打たせながら紫苑が笑う。つられてあずさも我慢できずに笑い出す。
「うーん、やっぱりヘンかこれ。間違えて子供の時のヤツ持ってきたからなあ」
 急に照れ臭くなり、タオルで前を隠す。
「隠したってダメよ。後で水着買いに付き合ってあげるから、そ、それ捨てちゃいなさいよ」
 デコレーションされた爪を唇に当ててまだくすくす笑っている。
「……お前ら笑いすぎだろ。ところで、ちょっと聞いてくれ。さっき誰と会ったと思う? 『チーム3』のあつしとゴリラだよ! 少し彼らと話したんだけど『チーム4』のモヒカンたちも来ているらしい」
「あいつらじゃ、“ベガスに喰われて”終わりだよ。騙す方も悪いが、騙される方もどうかと」
 相変わらず冷静な紫苑の意見に俺たちは頷く。
「彼らのホテルもあつしから聞いといた。まだ四日目だから何とも言えないが、いい機会だから俺の意見を言っておく。もし、百万ドルを大幅に超えるような勝ちになったら、足りていないチームに分けようと思う。もちろんその金で彼らが達成する範囲ならって話だけど。どう思う?」
 今回のルールだと、いくら勝っても貰える賞金は一緒だ。なら、なるべく多くのチームが賞金を手にした方がいいと俺は考えた。
「でも謙介さん、俺たち『セブン』がもし六百万ドル勝ったらどうする? そのまま逃げれば一人二百万ドル、つまり達成賞金の二倍の二億円だよね。それでも分け与えるって言うんなら、俺は従うよ」
「あたしも紫苑と同じ意見よ。謙介さんが主催者のルールに従うっていうんならそれでいいわ。クリアすれば最低でも一人一億円は貰えるわけだし」
 俺の目を見てニコっと笑った。
「でもさ、九十九万ドルとかで惜しくも届かなかった場合はどうするかだよな」
 紫苑のこの意見に俺とあずさはぐっと黙ってしまった。日本に帰った時にそれは全て没収となり、俺たちには一円も入って来ないのだ。あとは元の冴えない生活に戻るだけ。つまり――負け犬だ。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま