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かざぐるま
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ビッグミリオン

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『ラスベガス・チーム3』 四月三日



『チーム3』のあつしは日本人の〈カモ〉を探していた。いろいろなカジノを廻って、MGMグランドホテルでやっと一人目の該当者を見つけた。
「ちょっと! あんた達もここに来ていたのね?」
 突然、後ろからどこかで見たことのあるブロンドの女が話しかけてくる。しかし、声を掛けられた当人は昼間にリンダたちを見かけていたので全く動揺はしていないようだ。
 彼は足を止め、連れの老紳士に「少し待って下さい」という風に手を上げると、ダイヤのピアスを光らせながらゆっくりと振り向く。
「これは、これは。リンダくんでしたっけ? あなたのような美人にまた会えて光栄です。しかし見ての通り今非常に忙しいので、また」
 口調は丁寧だが、あつしの目ははっきりと「邪魔だ、とっとと向こうへ行け」と語っていた。
「ふーん。その様子だと、また誰かを騙そうって考えてるんじゃない?」
 彼女は下から覗き込むようにあつしの目を見上げた。
「てめえ、邪魔すんじゃねえ! さっさとどっかいっちまえ!」
 もう一歩リンダに近づくと、カモに聞こえない様に耳元で鋭くささやく。
「あら怖い、怖い。じゃ、頑張ってね」
 べぇっと舌を出して、リンダはくるっと後ろを向くと去って行った。
「お待たせしました。ではスイートにお部屋をとってありますので、詳しい話はそちらで」
 ニコニコしながら、カモの所に戻ると『商談』をするためにフォーシーズンズ・ホテルのスイートルームに向かった。

 数時間前

 さんざん話し合った結果、あつしたちの作戦は『詐欺』に決まった。
 カジノで闇雲に勝負しても、確実に勝てるわけではないからだ。ケタ違いの金持ちが集まるカジノに来たのには、彼らなりの作戦があった。
 歴史に詳しいあつしは、チームの中国人のおばあさんを使って一芝居打つことにした。
 それは、おばあさんを〈康煕帝の子孫〉にしてしまおうというものだった。清朝皇帝だった康煕帝が生前使用したと伝えられている百三十個のうちの一つ、『玉璽(ぎょくじ)』を客に売りつけるのだ。
 本物は重さ約三キログラム、長さ十四センチ、幅十センチで雲龍の文様が掘られており、文化的にも非常に貴重な印章である。数年前のオークションで中国人が約八億円で競り落としたことを彼は覚えていた。
 まず中国語の通訳をホテルに手配させると、キムという男が部屋にやってきた。中国系のアメリカ人だが、英語、中国語、日本語を自在にあやつる事ができた。この計画の秘密を守らせるにはこの男にも大金を払わねばならないだろう。
 一方、おばあさんは組織のコネクションを使って、中国から精巧なレプリカを取り寄せる段取りを始めた。複雑なルートを通って来るために到着は四月七日になる。八日にオークションを開くとして、ぎりぎりタイムリミットには間に合う予定だ。もちろんニセモノの家系図や、身分証明書も同時に手配してある。
 とにかく複数のカモを見つけ、三日後にオークションを開かねばならない。骨董品に興味のある金持ちの日本人を探すことが当面のあつしの役割であった。
 おばあさんは裕福な老婦人を演じるために通訳と一体になってさっそくシナリオの作成を始める。それらしい服装や装飾品にも気を使わなければならないので、そこにも惜しまずに金をかけるつもりだ。
「うおおお! 腰がいてえ!」
 大きな伸びをしながらゴリラは叫んだ。彼は別に部屋をとり、見せ金をせっせと作り始めていた。彼に与えられた役割は急いでアルミケース十個分のニセモノの札束を作ることだ。ごつごつした太い指は細かい作業に不向きと思われたが、意外とその作業自体が気に入ったのか夢中で作っている。  
 ひとつの札束は上と下だけ本物で後は紙の束だが、側面を筆でわざと汚すことにより彼なりにリアリティを出していた。もし金を積むことになったらトランクから出して積むことになるからやりすぎという事は無い。
 ゴリラの大事な役目はもうひとつ他にもあった。それは〈サクラ〉を演じることだ。雰囲気を学ぶためなのか、世界中のオークション会場の録画が彼に与えられたノートパソコンから流れている。
 あつし率いる『チーム3』の作戦は今のところ順調にみえた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま