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かざぐるま
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ビッグミリオン

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 ついでに名前を確認し宿泊手続きを済ますと、肩を怒らせながら戻って来る。そしてカードキーをゴランとニコライに投げつけた。
「な、ん、で、あんたたちがスイートルームで私が普通の部屋なのよ!」
 腰に手をあてて精一杯睨んだが、二人はニコニコしながら荷物を持つとさっさとエレベーターに乗って行ってしまった。

 少しうとうとしていると、まどかは電話でスイートルームに呼び出された。ここは彼女の部屋とは比べ物にならないほど広く豪華だ。窓からは東京の夜景が広がり、スカイツリーだろうか、ひときわ高いタワーも見える。
 部屋に入ると、日本人の女性二人が派手なドレスを着て帰るところだった。強い香水の香りがバスルームから漂ってくる。彼女たちはぴったりとしたジーンズ姿のまどかを見て「ふふんっ」とバカにしたように笑うと、ヒールの音を絨毯で殺しながら部屋を出て行った。
「あんたたち、もちろん自分のお金でこういうことやってるんでしょうね?」
 バカな男たちを順番に睨みながら怒った。自分をガキ扱いした女たちにも腹が立っているのだろう。
「彼女は何でいつも機嫌が悪いんだ?」
 ゴランとニコライは目を見合わせていた。言葉が分からなくても、視線と肩を竦めるジェスチャーで今回はさすがにまどかにも分かったようだ。
「あんたたちが数時間ごとに怒らせるからよ! まあいいわ、打ち合わせしましょ」

 一時間程前――六本木に着いたタケシからまどかはあるものを受け取っていた。
「相手の体重によって効き目が違う。大体何キロぐらいだ?」
 タケシの手のひらには白い錠剤が乗っている。
「そうね、百キロぐらいはあるんじゃないかな。これを飲み物に混ぜればいいのね」
「そうだ。六時間は起きないぞ。その間に手錠のカギを探してアルミケースを奪ってこい」
 相変わらずの命令口調だ。
「やってみる。タケシと春樹は車で待機しててね。成功したら電話するわ」
 タケシの手から錠剤四個を受けとると、鋭い視線を受けながら車を降りた。助手席では、筋肉質のがっしりとした体格と一重の冷たい鋭い眼を持つ春樹が、走り去る彼女をじっと見つめていた。半年前に同じ鑑別所でタケシと知り合ってから、悪い事をする時には彼らはいつも一緒だった。

 ロシア人たちは何やらパソコンを取りだし、ロシア語のサイトを表示させた。ゴランがキーボードを打ち、まどかとニコライが椅子を持ち寄ってそれを見ている。サイトに何やら暗証番号を入力すると、イギリスの〈ブックメーカー〉のHPに飛んだ。
 ブックメーカーとはあらゆる賭け事を請け負い、それに対し独自に倍率をつけ賭けを管理する会社だ。その対象は、野球、ホッケー、珍しい所では生まれてくる赤ちゃんの性別当てなどと賭けの対象は幅広い。ロシア語に翻訳されているページはまどかには読めなかったが、何をしようとしているかは大体想像がついたようだ。
 探しているページを見ると、どうやらブックメーカーで二倍程度の倍率に賭けて勝負するつもりらしい。
 もちろん日本ではこのような賭博行為は違法であるが、彼らには何か特別な策があるようだった。
 パソコン画面を夢中で見ている二人に気付かれない様に、こっそりとそれぞれのグラスに錠剤を入れる事に彼女は成功した。錠剤はすぐに溶け込み、見事に無色透明だ。上着の袖に手元が隠れるように、長めの服を着てきたのはどうやら正解だったようだ。
「あたし、といれ、いって、来る」
 身振りで伝えると、トイレに行き電話を掛けた。
「錠剤はちゃんと飲ませたよ。どれくらいで眠るの?」
「数分で寝るはずだ。オレ達はホテルの近くで待機してるから、まず鍵を探せ。あ、自分が触った物の全ての指紋を拭くのを忘れんなよ。ケースを手首から外したらまた電話しろ」
 部屋に戻るとゴランがキーボードに突っ伏しているのが見える。ニコライは大きな口を開け、椅子に頭を乗っけていびきをかいていた。
 椅子にかかっているゴランの上着のポケットを探すと、あっさり右ポケットから小さな銀色の鍵が出てくる。
 起こさない様に慎重に鍵を差し込む。かちっという小気味の良い音と共に手錠が外れた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま