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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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戦い


『中国・北京』 四月三日


 中国へ旅立った『チーム1』と『チーム10』は北京首都国際空港に降り立った。
 ヤンとホンファは機内ですでに計画を煮詰めていた。計画とは〈アメリカ人二名と中国人二名を始末する〉というものだ。
 空港から出た六人は、龍星会のある北京市へタクシーに分乗して向かった。アメリカ人たちは観光気分なのか、何やら楽しそうに窓の外を指さし景色を話しこんでいる。
 その一人、トッドは優しそうな顔だちをした角刈りの白人の男だ。もう一人の黒い肌を持つニックは、髪型を“コーンロウ”スタイルに編みあげている。陸上選手の様な締まった身体つきは、非常に運動神経が発達しているように見えた。  
 トッドとニックは旅の前半では一言も口を聞かなかったが、中国に着く頃には打ち解け、今ではまるで古くからの旧友のように楽しそうに会話をしている。ニックはよく笑い、英語があまり通じない中国人の四人にも積極的に話しかけ、人種の違いを埋める潤滑剤のような役割を果たしていた。
 十分程走った時、ヤンは携帯を取り出すと龍星会の幹部、〈パク〉に車内からテレビ電話をかけた。
 小さなテレビ画面からでも分かるが、頬に古い刀傷がある悪人顔だ。実物はもっと凶悪な顔をしていて、実際に会えばそのプロレスラー並の体格と、丸太の様な腕の太さにみな圧倒されるに違いない。
 タクシーの運転手は頼んでもいないのに、ニコニコしながら観光案内を勝手に始める。
「北京には世界遺産が三つありマース。頤和園、故宮博物院、それに天壇デース。特に故宮博物院などは部屋数が約九千室あると言われていて、とても一日では見て回れるものではないデスネ。やれるものならやってみろデス。観光する時は、ぜひ私どもの会社に電話シナサイ」
 運転中にも関わらず後ろを向き、嬉々とした表情で名刺を配りだす。
「前を向け!」
 ヤンは中国語、トッドとニックは英語で怒鳴り、指で前方を指した。
 タクシーを降りると、パクの案内で大興区のアジトに向かう。この地域は比較的治安のいい北京の中で、最も危険なエリアとも言われている。アスファルトの捲れた道端からは、ボロボロの服を着た子供たちがギラついた眼でアメリカ人たちの様子を伺っていた。ビルが立ち並ぶ一角のひときわ高い建物に、ヤンを先頭に一行は飲み込まれて行く。
「さあさあ、遠慮しないで入ってくれ」
 悪人顔のパクが出迎え招き入れた部屋には、唐時代の物であろうか豪華な骨董品や掛け軸が並んでいる。中央に回転テーブルが置かれ、まるで満漢全席のような料理が湯気を立てたまま用意されていた。
 中央にあるブタの丸焼きの目がぽっかりと暗い穴を空けたまま、入って来た客をじっと見ている。それを見たトッドとニックの眉間には、この時だけ深いしわが寄っていた。
「いい匂いだなあ。ところで、この回転テーブルというのは実は日本人が発明したんだぜ。知ってたか?」
 匂いは気に入ったのか、鼻を膨らませながら雑学の知識をひけらかすようにニックがのけぞっている。

 全員がテーブルに着くと紹興酒がふるまわれ、合同チーム六人とパクは乾杯した。給仕が各人の横に立ち、まるで高級中華レストランのようだ。
 ホンファはいつの間にか、セクシーな赤いチャイナドレスに着替えていた。黒服たちがホンファに挨拶する様子を見ると、彼女の組織でのランクが高い方だとトッドたちにも容易に想像がついた。
 食事は和やかに進んでいたが、ヤンが食事の途中でホンファの耳元で何かをささやく。ホンファは頷き、パクの近くまで行くとやはり耳元で何かをささやいている。
「あまりいい気分じゃないな、おい」
 その様子を見ていたニックは、しかめっ面をしながらトッドに言った。トッドも難しい顔をして頷く。彼が初めて飲んだと言っていた紹興酒の盃は、一口だけ舐められただけで全く減っていない。
 一方、他の二名の中国人はただ食事を楽しんでいる。彼らは普通の中国の農民のようで、二人とも素朴な顔をしている。ホンファに引っ張られてただぼーっと着いて来ている感じだ。

 あっという間に一時間が経ち、食事が落ち着くと顔を真っ赤にしたパクが立ち上がった。彼の前には紹興酒のボトルが三本ほど転がっていた。
「改めて、龍星会にようこそ。食事の後は少しくつろいでくれ。、その後、組織の息がかかった病院に向かってもらいたい。あなた達に埋まっているチップ摘出を行うためだ。摘出費用は組織が負担するが、分け前は二チーム足して百万ドルのうち〈二十万ドル〉をいただく。衛星追跡装置かなんかでこの場所が警察機関に踏み込まれるリスクも、こちらが背負っていることを承知願いたい」
 慇懃な口調であるが、有無を言わせぬ迫力があった。部屋の外には龍星会の兵隊と思われる荒くれ者が、武装状態で数名待機しているのが見える。
 パクの隣に立っていた片耳の無い通訳が、英語で説明を繰り返す。通訳と言っても、とても堅気に見えない凶暴なオーラが全身からあふれ出していた。
 ヤンとホンファは組織と何か話がついたのか、安心した様子で和やかに酒を酌み交わしていた。
「なあ、ニック。この状況じゃNOと言えるヤツなんていないよな」
 トッドは隣で靴ひもを固く結び直している相棒をひじで突っついた。
「……ああ。しかし任務は任務だ。作戦どおり病院に向かう道路でキメるぞ」
 小さな声でつぶやくと、美味しそうな照りを出しているチキンにがぶりとかぶりついた。だが、その眼は微塵も油断していない。
 そう――彼らはアメリカ政府のエージェントであった。
 アメリカ国内のテログループに、ヤンを通して龍星会から資金援助が行われているという情報を仕入れ、1年前から彼を追っていた。ヤンがこのビッグミリオンチャレンジに当選したという情報を得たトッドとニックのコンビは、今回胸が躍るようなビッグチャンスを得た。
 アメリカ政府の圧力で、ビッグミリオン事務局にぎりぎり交渉が間に合い、特別にヤンと同じチームにしてもらった。もちろんヤンはこの事を全く知らない。面白いことに、当選者にホンファがいたのは全くの偶然であった。ヤンとホンファは、自分たちが殺そうと思っているヤツらが政府の人間だとは夢にも思っていないであろう。
 ニックはすばやくコードネーム〈レッドドラゴン〉の司令部に携帯メールを打った。通信先は近くに待機している中国人民武装警察部隊とCIAの合同チームだ。
 これは、龍星会の壊滅を目標とした中国政府と、CIAの利益が一致し実現した大作戦である。
 トッドがアルミケースの位置を確認すると、二つとも入って来た時と同じ位置にあった。ヤンの座っている脇に仲良く並んでいる。
 ただひとつ、ビッグミリオン事務局は出発前に妙なことを通達してきた。
《逮捕が成功して現金を押収した場合、こちらに戻してくれなくてもかまわない。どこかは知らないが金を手にした国は、ぜひ自国民のためにそれを利用して欲しい》というものだった。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま