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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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『日本・横浜』 四月二日   



 その頃、横浜の日本支部ではブライアンと部下のカエラ、〈ジャッジメント〉と呼ばれる三名が顔を揃えていた。
「では、『チーム5』は失格ということでよろしいですか?」
 会議室に集まったメンバー一同をカエラはゆっくりと見廻す。広い会議室には真紅のじゅうたんが敷かれ、壁にはモニターがびっしりと埋め込まれている。彼女はそのスタイルの良さを意識しているのか、今日は胸元の大きく開いたスーツを着ていた。

 タイからの詳細な報告を手元の書類で確認したジャッジメントたちが、ルールに従い裁定を下した。
「まずルール一の適用について、ソム、チャワリットの二名の死亡によりこれは逃走ではない。水谷琴美は現在中国へ向かう奴隷船の中だが、これも資本金を手にしてない以上同様の扱いだ。しかし資金が警察の手に渡った以上、チャレンジ成功はおろかスタート地点に戻ることは事実上不可能だろう。よって、ルールの三に抵触する事となり、カエラ君の言うとおり『チーム5』は失格とする」
 ジャッジメントの一人〈賢者〉エリックが一人一人を見廻しながら発言した。髪は白髪まじりではあるが、声は若々しい。冷酷そうなとがった顎を持ち、吸い込まれるようなグリーンの眼でカエラを見ている。
「しかし、女性はまだチップを埋め込まれたまま生きています。チップが有効な以上、救出が必要なのではないですか?」
 カエラの熱のこもった視線を受けたブライアンは、すっと立ち上がるとジャッジメント三人を睨みつけて発言する。どうやら彼はルールにこだわる性格らしい。
「ブライアン君、彼女を救出するメリットはない。奴隷にはなってしまったが、彼女はひょっとして今だけは〈勝ち組〉なのかもしれないよ。これから彼女もチップの本質を知るときが来るかもしれない。それが幸せかどうかは本人しか分からないがね。――それに、持ち主が変わっただけで結局は、種はまかれたのだから」
 エリックは冷たい声で質問に答えながら、クセなのか顎髭をくるりと撫でるように触った。
「では、追跡装置はそのままでよろしいのですね?」
 救出を行わないという決定が少し不服そうだったが、感情を抑えた様子で目線を机に落とした。
「ああ、無理に取り出されても消滅するだけだ。証拠は残らないから、引き続き追跡だけ続行してくれ。個人的にどこに売られるか興味があるのでね。アラブの富豪か、それとも……」
 その眼には残忍な光と期待の光が同居していた。
 ジャッジメントのお偉方の悪趣味にこれ以上付き合いたくないという風に、二人は目で合図を交わす。
「それでは、これよりラスベガス方面の監視結果を報告します」
 部屋の空気を入れ換えるようにカエラがキッパリと声を張った。部屋の中央のプロジェクターに近づいてスイッチを入れる。彼女に無駄な動作は一つもない。
「ライブ監視チームの我が『チーム8』は現在ラスベガスに到着後、活動を開始しています。生え抜きのスタッフ三名が『チーム8』に扮し、『チーム3、4、7』を監視しています。その後、中国に飛んだ『チーム1、10』を追いかける予定です。なお、中国方面のこの二チームは〈逃亡〉を計画している模様ですが、例の件との絡みからどう展開するか分かりません」
 カエラは一息に報告書を読み上げた。
「――逃亡か。面白い、どんな知恵を絞ってくるかと思うとぞくぞくするな」
 ジャッジメントの〈皇帝〉と呼ばれるサイモンが肩をすくめる。高貴な顔だちで、長いまつ毛に青い瞳が特徴的だ。実際皇帝の血筋が混ざっているらしいが、この男の趣味もブライアンには理解できない。
 最後に〈沈黙の女王〉と呼ばれるエリザベートが立ち上がった。会議室の者たちの目は釘づけになる。まだ立ち上がっただけなのに、既にカリスマ性が匂い立っている。ブルネットの髪を持つ四十代ぐらいの美女で、目元のくっきりとした意志の強さを伺わせる顔だちをしていた。実質的に組織の『ナンバー2』と言われている彼女の意見が、この場で最重要視されるのは間違いないだろう。
「皆さんご存知の通り、今回のミッションは順調に推移しています。先ほどの日本人女性の件は、同じ女性として憐みを禁じ得ません。しかし、大局的に見てしかたない事だと思いますので、救出は行わないものとします。『エクスプロージョン』に犠牲はつきものです。これからもこのような犠牲が出るでしょうが、冷静に対処して下さい。では、私はこれから本社に戻ります。次はテレビ会議でお会いしましょう」
 彼女はそういうと席を立ち、軽い麝香の匂いを残し颯爽と会議室を出て行った。
 廊下では警護の者四人が、すぐに彼女を柔らかく包み込む様に取り囲んだ。引き続きジャッジメントの他の二名も退出すると、会議室にはしんとした静寂が訪れた。

「ねえ、例の話考えてくれた?」
 カエラがブライアンをじっと見つめる。
「ああ。『エクスプロージョン』の後どうするかって話か。私は遠慮するよ。金などいくらあっても、もう意味が無いかもしれない。きっと君も今に考えが変わるよ」
 ブライアンは少し疲れた顔のカエラに近づき、唇に軽くキスをすると部屋を出て行った。

 爽やかな、オーデコロンだろうか――良い香りの彼のうなじ近くにも、参加者と同じチップがそっと埋まっていた。
 現在のチーム状況

チーム1  アメリカ人二名+ヤン         中国へ移動中
チーム2  まゆみ、美香、貴子          チャレンジ不参加
チーム3  あつし、ゴリラ、おばあさん      ラスベガス
チーム4  リンダ、モヒカン、サラリーマン    ラスベガス
チーム5  タイ人二名+日本人一名        タイにて失格
チーム6  ロシア人二名+日本人一名       目的地不明
チーム7  謙介、あずさ、紫苑          ラスベガス
チーム8  アメリカ人三名            ラスベガス
チーム9  マイケル、ジェフ、将太        イギリスへ移動中
チーム10 紅花(ホンファ)他、中国人二名    中国へ移動中
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま